#05:1DKのカウントダウン
瀬戸陽子の、変わらない日常の中にある小さな手触りを描いた短い話です。
特別な出来事はありませんが、生活の中に少しだけ厚みが出てくる頃の陽子を置いています。
12/31 23:55
2025年最後のレイドが終わった。
ヘッドセットから、仲間たちの歓喜が漏れる。
「SETO、今のバフ完璧!」
「マジで助かったわ、サンキュー!」
私はマイクをミュートにしたまま、キーボードを叩く。
『おつかれー。私後ろで応援してただけだけどねw』
実際、皆の火力が凄まじかっただけだ。
私が混ざっていても勝てたのは、ただの運。
スマホがデスクの端で震えた。
『真希:あけおめー。ことよろ!
補給物資役に立ったかな?』
画面が明るくなるのを横目で見る。
「……あと五分あるし」
確信犯のフライング送信。あいつのことだ、今ごろどこかで騒ぎながら、私のツッコミを待っているに違いない。 返信は、明日でいい。今はあいつのペースより、この静かな余韻を優先したい。
皿の上、最後の一切れ。
真希が選んだチーズをピックで刺し、口に運ぶ。
……意外と美味しい。
これはリピート確定だな。
1月1日 0:00
「あけおめえええ!」
「きたあああ!」
ヘッドセットが、仲間の歓声で爆発した。
それと同時に、画面いっぱいにカウントダウンイベントの花火が弾ける。
チャット欄が、読み切れない速さで流れ始めた。
私はマイクをミュートにしたまま、キーボードを叩く。 『あけおめ。お疲れ様』
祝祭の光が、私の1DKを青白く照らす。
画面の中は新しい季節の訪れを、これでもかと派手に告げている。
でも、私のやることは変わらない。
「……さて」
私は新しいミッションのボタンをクリックした。
世間が「おめでとう」と浮かれている間も、私の聖域は、淡々と、いつも通りに動き続ける。
窓の外はまだ暗い。
けれど、モニターの光が、私の新年を静かに照らしていた。
読んでくださってありがとうございます。
陽子の世界はまだ静かなままですが、日々の積み重ねの中に、わずかな重みや温度が生まれ始めています。
その小さな変化を、これからも淡く追っていけたらと思います。




