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瀬戸陽子シリーズ  作者: 瀬戸 陽子


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1/17

#01 1DKの再起動

瀬戸陽子の、静かな1DKの朝を切り取った短い話です。

大きな出来事は何も起きませんが、彼女の世界の温度を感じてもらえたら嬉しいです。


12/30 22:48

瀬戸陽子 (28) は、小田急線沿いの私立大学で事務員として働く正社員だ。


帰りの電車は、12月30日ということもあって拍子抜けするほど空いていた。


朝の殺人的なラッシュや、夕方の混雑が嘘のような静けさが、かえって一年分の疲労を浮き彫りにする。


彼女は居間には目もくれず、真っ直ぐ脱衣所へ向かう。

給湯器を42度に設定し、熱いシャワーを浴びる。

これは単なる洗浄ではない。皮膚にこびりついた「事務員の瀬戸さん」という役割を洗い流し、自分自身を初期化 (リセット) するための儀式だ。


15分後。浴室から出てきた彼女は、もう「事務員」ではなかった。


髪は半乾きのまま、紺のスウェットに袖を通す。洗面台に置いていた眼鏡をかけた瞬間、世界は鮮明な解像度を取り戻した。


冷蔵庫からエナジードリンクとゼリーを取り出し、完璧に遮光カーテンが閉まった居間へ。


そこには、彼女の聖域がある。


正面に鎮座する60インチの大型モニター。コタツ。そして、予備のコントローラー。


陽子がコタツに滑り込み、コントローラーを握ったとき、彼女の本当の一年がようやく「起動(ブート)」した。


「……………よし」


エナジードリンクの音。

だが、その静寂は長くは続かなかった。


Maki (LINE):「今、駅着いた!ピザLサイズ2枚持って15分後に突撃しまーす!!!」


「......15分」


陽子は溜息をつきながらも、迷いなくテレビ台へ手を伸ばした。そこにある黒い予備のコントローラーを、隣の「予約席」 へと配置する。


ピンポーン、ピンポーン!


予測通り、15分ちょうどに鳴り響くチャイム。

2025年、最後から二番目の夜。瀬戸陽子の1DKは、静かなログアウトから、騒がしいマルチプレイへと強制的に移行した。


読んでくださってありがとうございます。

陽子の一日は、いつもと同じように始まり、少しだけ違う気配を残して終わります。

この静かな再起動が、どこへ続くのかはまだ決めていません。


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