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3/3

3 ご飯少なめ具沢山だし茶漬け

「あ、あのー、櫃森さん?」


「……はい、櫃森ですよ、高木さん……」


「なんでこんなことを?」


「…………」


 問いかけるも、応答はない。

 櫃森さんは、淡々と壁をサーモンのサクに変え続け、穴を広げていく。


 やがて、床に大量の刺身用サーモンのサクが溜まったころ。


 穴はすっかり大きくなってしまった。

 もはや隣室とこの部屋とを繋ぐ勝手口くらいの大きさだ。


 櫃森さんは穴を通って、オレの部屋にやってくる。


「……高木さん、前、言ってらっしゃいましたよね」


「え、あ、何をですか?」


「……独身だって、結婚なんて考えたこともないって、言ってましたよね?」


「あ、はい、そうですが……」


「嘘つき!!!!

 だったらなんで、デカパイ美女の奥さんと中性的美形ティーンエイジャーのお子さんが部屋にいるんですか!?!?!?!?!? このアパート単身者用ですよ!!!」


 櫃森さんは、円空とロジャーを指して絶叫する。


 座ったままずっと無言でオレと櫃森さんのやり取りを眺めていた元・バッグエンクロージャー娘たちの表情に、かすかな驚きの色が生じた。


「い、いえ違うんです櫃森さん!

 2人はオレのユニークスキルで女体化したバッグエンクロージャーでして。ほら、髪の毛水色じゃないですか? あれは元々の食パンの袋留める奴が水色のプラスチックだからで……」


「そんなふざけた話、私が信じるとでも思ったんですか!?!?!?」


「おっ、思います!

 櫃森さんだって、いきなり壁を刺身用サーモンに変えたじゃないですか!

 世の中、不思議なことがたくさんあるもんです!」


「これは私のユニークスキルです!

 〝手のひらで触れた万物を刺身用サーモンのサクに変える〟という効果のね。

 ……急にヘンなユニークスキルに覚醒して、戸惑ってたけど。

 高木さんの叫びが聞こえてきて。

 お刺身持って行って励まそうかな、って思ったのに!

 実は私なんかに構われなくても幸せだったなんて!

 もぉ許せませんよぉおおおおお!!!!」


 櫃森さんは急に叫ぶと、オレに向かって襲い掛かって来る。


「リア充刺身になって死ねぇええええええ!!!!!」


 ……リア充って、久しぶりに聞いたなぁ。

 2025年の今となっては、一昔前のネットスラングって感じがする。


 などと思っている場合じゃない! 櫃森さんを止めないと!


「――そう言えば、私たちのユニークスキルについてですけれど」


 櫃森さんの豹変に驚いた直後、円空エンクウの声が妙にくっきりと聞こえた。


 同時に、恐ろしく身体が軽くなる。


 自分でも驚くほどの鮮やかな動きで、オレは櫃森さんの刺身化張り手を回避。

 一瞬で、彼女の背後に回り込んだ。


「私、円空エンクウが、〝万能ユニバーサル強化付与・エンチャント〟」


「ボク、ロジャーが、〝何でも弱体化エブリナーフ〟だよ~」


「!?」


 円空とロジャーが口々に言った直後、櫃森さんが怪訝な顔をする。

 背後に回ったオレに向き直ろうとしているのに、スローモーションのような動きしかできないことに戸惑っているのだろう。


「……すみません、櫃森さん。親愛なる隣人に、こんなことするのはどうかと思いますけれど、緊急事態ですので。

 ちょっと落ち着いて話ができるようになるまで、拘束させてもらいます」


「!?」


 刺身用サーモンの散らばる床の上に、オレは櫃森さんを押し倒した。


     §


「……というワケなんです。

 我ながらラリった話だとは思いますが、事実は事実でして……」


 暴れる櫃森さんを抑えつけながら、オレは事実を繰り返し伝えた。


     §


「……そうだったんですね……

 私ったら、早とちりして、めちゃくちゃに喚いて暴れて……

 本当に申し訳ありません、高木さん……」


「いえ、わかってくださったなら結構です……」


 刺身用サーモンの散らばる部屋で、オレと櫃森さんは相互に座礼を交わす。


「お話はお済ですか? パア太さん、櫃森さん」「なら、やることやろ~」


 円空とロジャーが近くにやってきて、口々に言う。


「やることって?」


「「片付け」」


 ごもっともな意見だ。


     §


 というわけで。

 オレたちは、部屋を片付けることにした。


 まず、床に散らばる無数の刺身用サーモンをかき集める。


 スキルによって生成されたものとはいえ、脂の乗ったうまそうな刺身を無駄にする気にはなれない。かといって、床に落ちたものは、ホコリやらどんな汚れがついているかわからない。


「えいっ!」


 というわけで、これもまた櫃森さんにスキルを使ってもらった。


 〝埃やごみのついた刺身用サーモン〟を、〝新鮮で清潔な刺身用サーモン〟に変化させてもらったのだ。


 こうして、室内の床に散らばる刺身用サーモンについては始末が付いた。

 拭き掃除をすることで、床についたサーモンの脂なんかも綺麗にできただろう。


 そのついでに普通の掃除もすることで、かつてよりずっと綺麗な部屋になった。


 隣戸との壁に、人が通れるくらいの大穴が空いてはいるが。

 しかし、今はどうしようもない。


 敷金やら賠償やら不安だが……


「ふぅ……すっきりしたぜ」


     §


 片付けのあとは料理。


 オレたちは4人で狭いキッチンに集い、刺身用サーモンの山に向き合う。


「……サーモンだけこんなにあってもしょうがないですよね……

 ゴミスキルですみません……」


「いえ、そんなことないですって、櫃森さん。

 ……とりあえず、ウチ冷やご飯が、まあまあの量ありますから。サーモンを切って食べやすくして、ご飯に載せて、だしの素とお湯ぶっかけて、〈サーモン出汁茶漬け〉にして食べるなんてどうです?」


「!

 ……さすがです、高木さん……! 私のような隣住み異常者にさえも優しい上に、お料理までできるなんて……!」


「いえ、料理というほどのものではないですし。……4人分出汁茶漬けにしてもたっぷり余りますから、残りは冷凍しときましょう」


「はい!」


     §


「「「「いただきまーす!」」」」


 しばらくして。


 料理というほどでもない簡単な調理作業を済ませたオレたちは、4人でテーブルを囲っていた。

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