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2 サーモナイズド・アパートウォール

「……ええと、つまりだ。

 君らは、こう言いたいワケか?」


 ――10数分後。


 3人分の座る場所を確保した汚部屋リビングにて。


 目の前に座る2人の元・バッグエンクロージャーである女性たち。

 彼女らの目を眺めつつ、オレは確認するように問う。


「今、眼前にある光景は、夢でも幻覚でもなく、現実。

 現実にイカれた出来事が起こった経緯は、次の通り。

 ……元々、オレは〈ユニークスキル〉なるものを保持していた。

 それは〝名前を付けたバッグエンクロージャーを、ユニークスキル持ちの女性に変化させる〟という効果のスキルだった。

 先程の奇行が、偶然にもユニークスキルの行使過程と合致。

 スキルの効果で、君らは食パンの袋バッグエンを留めるやつクロージャーから、今の姿に変身した……と」


「然様でございますわ」


 水色ロングヘアの美女、円空エンクウが頷き、顔に落ちかかった髪をかき上げた。


 ……出自がどうであれ、女性の姿をしているものを、全裸にはさせておけない。

 というわけで、2人にはひとまずオレの服を着させている。


 背が高く豊満な体型の円空エンクウが着れるような服は、オレの手持ちには浴衣しかなかった。

 なので濃紺縞のそれを着せて、黒の兵児帯を締める。

 それだけだと前が何やらけしからん雰囲気だったので、さらにエプロンを追加。


 そうして今、円空エンクウは浴衣エプロン姿で横座りしている。


「そだよ~。

 ボクたち、けっこう前からパア太くんちのテーブルの上にいたんだよ? 何も変わってないんだから、変に緊張しないでいつも通りに過ごしてほしいな~」


 続けて、水色ショートヘアの女児、ロジャーが呑気に言う。


 ロジャーには、オレのパーカーを着させてある。

 小柄なため、一枚で身体の大部分を隠すことができていた。


「……落ち着けと言われてもな……

 頬をつねっても、眉に唾を着けても何も変わらないし、現実として認めるほかないんだろうが……にしたってさ……」


 バッグエンクロージャーが美少女化するなんて。

 フィクションにしても、だいぶおかしなほうの事態だ。


 もっとこう、トラックで轢かれて転生するとか、謎のスキルに目覚めるとか……

 そういうのが普通なのではないだろうか?


 ……いや、ユニークスキルに目覚めた結果がこれか。

 じゃあおかしくないな。


 いやおかしいか……? おかしいな……


「……ええと。

 とりあえず、オレのユニークスキルは、〝名前を付けたバッグエンクロージャーを、ユニークスキル持ちの女性に変化させる〟って効果のものなんだな?」


「ええ」「そだよ~」


「なら、君らは君らで、それぞれのユニークスキルを持ってるわけだ。

 それはどんな――」


 どんなスキルなのか教えてほしい、と言いかけたところで、奇妙な音が響く。


 そこそこ弾力のある水気を含んだものをいくつか床に落としたような音だ。


 オレは音の方へ振り返る。


「!?」


 アパートの古ぼけた砂壁には、直径十数センチくらいの穴が開いていた。


 床には、うまそうな刺身用サーモンのサクにしか見えないオレンジ色の物体が、無造作にいくつか転がっている。


「……く、くふふふっ、き! キイイイイイーーッ!」


 常軌を逸した感じの叫び。

 同時に壁の穴から、骨ばった小さめの手がぬっと突き出された。


     §


「ひどいっ! ひどいですよ高木さん!」


 聞き覚えのある声がそう言うと同時、壁穴から突き出された手は、手のひらで穴のふちを撫でるように動く。


 触れられた場所から、アパートの砂壁は刺身用サーモンのサクに変わっていく。ちょうどトレーに入ってスーパーで売られていそうな大きさのオレンジ色の刺身用サーモンに変化して落下し、穴は少しずつ大きさを広げていく。


 オレは目と自分の正気を疑う。

 しかし、いずれもいつも通りに機能している。


 狂っているのは現実だ。


 バッグエンクロージャーが女体化して。

 アパートの砂壁が刺身用サーモンのサクに変わる、この世界が狂っている。


「『ンガァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ーー!!!』なんて、夜にいきなり叫んだりして……

 このアパート壁薄いんだから、そんなことしたらダメってわかりますよね?」


 砂壁を刺身用サーモンのサクに変化させて穴を広げながら、隣人女性が言う。


「す、すみません、櫃森ひつもりさん……以後、声量に注意させていただきます……」


「……まあそれは良いんです、別に。

 高木さんも大変なんだな、って思うと、ダメなのは私だけじゃないんだ、ってはげまされますし……それはいいんです、ええ」


 淡々とした声で応じながら、隣室の住人である櫃森ひつもり芽々めめこさんは、砂壁に手で触れ続ける。壁はどんどん刺身用サーモンのサクに変わって行き、穴はどんどん大きくなっていく。


 ……これ、大丈夫なんかな……?


 壁が刺身になるという異常事態とはいえ、賃貸の壁に穴が開いたのだ。

 敷金は返ってこないだろうし、損害賠償とかそういう……


 いや、やったのは櫃森さんであってオレじゃないからいいのか?


 というか、そもそもだ。

 櫃森さんは、何故&どうやって壁を刺身用サーモンに変化させている……?



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