1 女体化するバッグエンクロージャー
「ンガァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ーー!!!
ぬうぅ! ふんおぉ!
生活が! 生活が上手くいかないィイ!!!」
散らかった自宅アパートの汚部屋リビングで、オレは絶叫する。
オレの名前は高木パア太。
ダメ過ぎて窓際族を通り越し、切実に辞職を望まれている独身サラリーマンだ。
叫びたくなるほど、生活が上手くいかない。
仕事終わりに家に帰ると、既に遅い時刻だ。
睡眠時間と趣味の時間を確保するには、食事や入浴などを高効率に済ませ、より多くの可処分時間を確保するしかない。
……しかし、その〝効率の良い動き〟が出来ない。
当然ながら、一日をしのいだ後なので夜には疲れている。
疲れているとパフォーマンスは良くない。
だらだらと食事をして、だらだらと入浴して、だらだらとスマホをいじって、わけのわからない夜更けに眠る、ひたすらにダメな破綻した生活しかできない。
その結果の睡眠不足が、日中のダメさに拍車をかける。
凡ミスと低パフォーマンスによる非効率が、いっそう一日の疲労を深める。
負のスパイラルだ。
PDCAサイクルもOODAループもあったものじゃない。
オレとしてもこんなろくでもない状況は、どうにかして脱出したい。
そこで、色々と試してみた。
アルコールを控えてビタミンを取るとか、日に当たるとかの健康対策。
タイマー&アラームを使った時間管理。
なんかいい感じのインフルエンサーによる情報商材由来のライフハック各種。
いずれも、大した意味はなかった。
当初は有効そうな気配を見せるのだが、結局オレの生活の堅固極まるダメさには太刀打ちできず、停滞しきった現在に至る。
……今夜も日付が変わってハッとするまで、「お風呂入らないとな……」と思いながら天井を見つめ、何をするでもなくぼーっとしてしまった。
このまま普通に入浴しても、いつも通りだらだらと身体がふやけるまで湯船で過ごしてしまうのだろう。いつも通りの状況で入浴するのだから、当然だ。同じ原因からは、同じ結果が生じるに決まっている。
「…!…」
……では、違う原因を入れてみたらどうだろう?
入浴に、普段は存在しない要素を加えてみるのだ。
バスボムとかアロマとか、いい感じのアイテムはこの場にない。
銭湯などが近所にあるかどうかは知らないし、外出してはかえって手間を食うだろう。
「……」
しばし呆然として、散らかったテーブルの上に目が留まる。
なんとなく捨てずにいた、2つの食パンの袋を留めるやつが視界に入る。
「…………よし」
……決めた。
今夜は、この2つのバッグエンクロージャーと共に入浴しよう。
数センチ程度のプラスチック製の消耗品に過ぎないとはいえ、こうして存在を意識することができるのだ。今の悩みとか、効率よく入浴したいことなんかを話しつつ過ごせば、いつものように、一人、無心に漫然と入浴するよりはだいぶ違ったことになるはずだ。
〝ゴムのアヒルに話しかけて考えを整理する手法〟の要領だ。
……常識で考えるなら、全くもって迷案極まる。
けれど、オレは今夜もやけくそだった。
「てなわけでお風呂行くぜ、水色のちびっ子たち!」
2つのバッグエンクロージャーを拾い上げ、オレは洗面所兼脱衣へ。
§
「……ふぅ……。
……入浴をさ、ついつい後回しにしちゃうのはなんでだろうね?
実際入ると気持ちいいのに……」
――浴室。
湯船に浸かり、風呂フタの上に置いた2つのバッグエンクロージャーたちにオレは話しかける。
「率直な意見を聞かせてくれよ。それじゃあええと、まず――」
左の君、と呼ぼうとしかけて、2つのバッグエンクロージャーそれぞれに、固有の名前を付けようと思った。
「……バッグエンクロージャーだから……円空とロジャーでいいか。
よし、左の君が円空。
右の君がロジャーってことで。
それじゃ、話を戻すけ――!?」
なんだ?
風呂フタの上にある2つのバッグエンクロージャーは、謎の光を放っていた。
「っ!」
見たことも、想像したこともないような光景。
小心者のオレがまず感じたのは、理由のない恐怖だった。
とっさに、フタの上のバッグエンクロージャーたちを手で払いのけてしまった。
自分で風呂に連れて来ておいて、あんまりな仕草だと思う。
払いのけられた2つのバッグエンクロージャーは、浴室の床に落下。
まばゆい超然的な光を放ちつつ、みるみる形を変えていく。
「えっ、あ、な、何……!?」
爆発でもするのか……?
そう、さらに恐ろしくなったものの、そんな感じはしない。
発光・変形し大きくなっていく2つのバッグエンクロージャーは、見上げるほどの棒状に。左に転がった円空と名付けた方がより大きく、右のロジャーのほうはそれほどでもない。
やがて棒状の発光体は、2つともはっきりと人型に変形。
直後、光が晴れる。
「!?」
「……もぉ、パア太さん……ご自分でなさったことに、驚かないでくださいな」
「ホントだよ! いきなりだからってさぁ! ボクこんなのあり得ないと思う!」
元バッグエンクロージャーの人型は、水色の髪をした全裸の女性2人だった。
左の円空は、長身かつ長髪で、起伏に富んだ体型の大人っぽい全裸の美女。
右のロジャーは、声変わり前の少年のような小柄で細い身体付きに、左右と後ろを刈り上げたごく短いショートヘア。裸の下半身を見て性別を確認できなかったら、男児と判断したかもしれない。
「………………」
オレは呆然として、目の前の全裸の女性たちを眺める。
……生活の行き詰まりの果てに、バッグエンクロージャー2個と入浴するという奇行に走りはした。しかしだからといって、こんな奇妙な結果を産むはずがない。
プラスチックの小片が、全裸の女性になるなんて。
自宅の風呂場に現れるなんて。
極まったダメさがついに弾けて、オレの頭を狂わせたのだろうか?
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