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1-2 見たことがない女子生徒

一時間目の終わりを告げるチャイムが鳴り、先生が教室を出て行くと反対側の入り口から待っていたかのように冬弥が入ってくるのが見えた。

その顔を見て、やっぱり本気で見に行くつもりなんだと理解して僕は小さくため息をついた。


冬弥は新しい物好きというか、興味を持った事柄に対してとても積極的だ。小学校が違ったから中学に入ってからの友達だけど、それだけはすぐに分かった。そんな冬弥が興味ありありの表情で近づいてくるのだ、行かないという選択肢はないんだろう。


「よし行こうぜ逢介。時間は有限なんだ、もたもたしてたらもったいないぜ!」


近寄って来るなり僕の制服の袖をつかんで有無を言わせぬ勢いで教室を連れ出された。こうなると冬弥は止まらない。仕方なく冬弥の後に続いて転入生がいるという三組を目指した。


「お、ここから見えるか?えーと……おい見ろよ逢介。きっとあの子だぜ」


丁度廊下側の窓が開いていたので冬弥はその窓に肘をついて三組の教室の中を無遠慮に見渡していた。周りを見ると他にも僕たちと同じ目的で来ているのか何組かの男子がひそひそと話しながら三組の中をのぞいている姿もあった。そんな周りを見ていたら、急に冬弥が僕の制服を掴んで引っ張った。


「ちょ、引っ張るなよ」


「いいから、ほら!あの子だぜ」


僕の文句など耳にも入らないのか、冬弥は僕の視線を無理にある方向に向けさせた。


その先には確かにかわいいと言える女の子の姿があった。すこし想像とは違ったけど、僕の視線は吸い寄せられるようにその女の子に固定されてしまった……沖縄から転校してきたと聞いていたからか、小麦色の肌をした健康的な美少女を勝手に想像していたけれど、そこにいたのは日に焼けた事なんかないような白いきれいな肌をした小柄でどちらかと言えばおとなしそうな女の子だった。転校したばかりでまだ制服が準備できていないのか、他の女子とは少し違う制服を着ている。

この学校の女子の制服はセーラー服で去年から襟と袖に赤いラインが二本入っているんだけど、その子の制服には白で太いラインが一本入っている。この学校でも三年生は改定前の制服を着ているけど細いラインが一本入ったものなので、どちらとも違い少し目立っている。胸で結んでいる学年で色が違うスカーフだけは間に合ったのか、周りと同じものを着けているようだ。


転校生が珍しいのか、その子の周りにはクラスメイトの男女が囲むように集まっていて色々と質問をしているように見える。転校生の女の子は少し困ったような笑顔で、その質問に答えているようだ。

その時にはなぜだかわからなかったけど、僕はそんな転校生の女の子から視線を外すことができないでいた。


(何、気づかないの?これだから……)


どこからか呆れたような女の子の声が聞こえた気がしたけど、そんな事は気にならないくらい少し離れた場所から転校生の子に見とれていた。

その子は小柄で髪は短めでやや茶色がかって見える。そんな子は知り合いにいないはずなんだけど、なぜだか初めて見る気がしない。不思議な感覚だった。


「なんだよ、好みのタイプだったか?見に来てよかったろ、逢介」


ふと気づくと冬弥がニヤニヤと笑いながら僕を見ていた。どうも結構な時間見つめていたらしい。


「い、いやそんなんじゃ……」


「まあまあ、逢介もお年頃なんだし女の子の一人や二人興味がないとおかしいって!そうかそうか、逢介はあんな子が好みか」


冬弥はそう言いながら僕の肩をバンバンと叩くと、僕の言葉に耳も貸さずに二組の方に戻ろうとしている。冬弥の方は転校生の姿を見てもう満足したらしい。


「おい、冬弥。聞けって!」


勘違いさせたままだと面倒だと思い、否定しながら冬弥の後を追う。そして最後にもう一度ちらりと転校生のほうに視線を向けた。


「!」


たまたまなのか、廊下で騒ぐ僕たちに気づいていたのか……その子もこちらの方を見ていた。去り際にその子の小さな口が言葉を紡いでいるのが見えた。


「おーちゃん」


そう言った気がしたのは気のせいだったろうか。




その日の昼休み、僕は冬弥に散々冷やかされながら昼食をとった。冬弥に一目ぼれとかそんなんじゃないといくら言っても聞き入れないで茶化してくるのだ。


「そう照れるなよ逢介。好みの子がいれば見とれる、惚れる。普通の事だろ?」


何度となく繰り返される会話に言い返すのがいい加減に面倒になってきて、弁当を食べる事に集中する事にした。


この学校には中庭がある。芝生やちょっとした木が植えてあり、所々にベンチなんかも置いてあるから一部の生徒の憩いの場となっている。僕たちは入学して早々にその中庭の一角にお気に入りの場所を見つけていた。

あまり先生や他の生徒も寄り付かず、ちょうど木々が囲んでいて周りから見えづらい。なんか古臭い木造の小屋みたいなのがあるだけのちょっとしたスペース。

中庭の端の方にある一角で、周りを気にせず気兼ねなしに過ごせる場所があるのだ。僕たちはそこでいつも昼食をとって、たわいもない事をだべりながらゆっくりと昼休みを過ごしている。けれども今日は少し違った。


 僕は口に入れたご飯を噛むのを中断して耳をすませる。昼休みが始まってからずっとここにいたのに、今初めて気づいた。近くで女の子のすすり泣くような声が聞こえてくる……。


「……冬弥。誰か泣いてない?」


僕がそう言うと、冬弥は口を閉ざして耳を澄ませていたが、興味なさそうに「そうか?」と返してきただけで、昼食のコンビニ弁当を頬張る。

冬弥は自分の興味がある事に対しての食いつきはすごいが、逆に興味がわかないと途端に淡白な対応になる。今も明らかに聞こえていたはずなのに気付かないふりをしている。


それに対して、僕は見てしまうと気になって仕方がなくなるタイプだ。相手が困っていたりすると特に。


「あ、おい!待てよ。そっとしといたほうがいいって」


ズボンについた草を払いながら立ち上がった僕を、冬弥がそう言って手を伸ばした時には僕はもう動いていた。


周りを少し歩くとすぐに見つけることができた。僕らがいた所からもう少し奥まった木の根元に座り込んで両手で顔を覆っている。

 制服のスカーフの色で、僕たちと同じ一年生だという事はわかった。どことなく違和感を感じたが、声をかけてみる事にした。

 逢介達もここには滅多に人が来ないから気に入っているのだ。この女の子も誰もいないと思ってここで泣いているのかもしれない。

 そう考え、一瞬躊躇ったがこのまま放っておく事も逢介にはできない。

 迷惑そうにされたら謝って立ち去ろう。そう考えながら逢介はそっと声をかけた。


「ねえ君、どうかしたの?あ、ごめん。僕たちその先でご飯食べてたんだけど、泣いているのが聞こえてきたからさ……もしよかったら話だけでも聞くよ?」


どうかしたの?と声をかけた瞬間、ぱっと顔を上げ僕の方を見てきたその女の子を見た時、僕は背中に何かピリッとした者が走った気がして、途中からしどろもどろになりながらもそう伝えた。

顔を見てもこれまで見たことがなかった女の子はしばらくじっと僕の方を見ていたけど、微かにフッと笑った。その顔を見て僕はまた、不思議な違和感を感じた。だけどその違和感が何かわかる前に冬弥が隣に来て女の子に話しかけていた。


「もう、仕方ないな逢介は……どったの?困りごと?」


顔に面倒という文字を張り付けながらも冬弥が女の子に話を聞き出す。真美と名乗った女の子は所々しゃくりあげながらも泣いていたわけを語った。僕を見て笑ったのは気のせいだったのだろう。

冬弥が話を聞きだしたのを要約すると次のような事だった。


〇少し前に友人に誘われて山奥にある旅館に泊まり?に行った。

〇そこで何かトラブル?があったらしく、女の子は家に帰ったけどその旅館に携帯を忘れてきた。

〇自分一人ではいけないような場所にあるらしく、一緒に行った友人も訳があってもう行けないらしい。

〇携帯をなくした事を親にも言えず悩み、ここで泣いていた。


そういう事らしい。

その旅館に落とし物の確認の電話をして、見つかったら郵送してもらえばいいじゃないかという僕の考えは、連絡方法を友人しか知らず、その友人はなぜか口をきいてくれなくなったと言う。

それでも調べる方法はいくらでもあるじゃないかと思ったが、黙って何かを考えていた冬弥が意外なことを言い出した。


「なるほど、じゃあ俺たちが今度の休みに行ってきてやるよ。ちょうど次の休みに自転車でどこか行こうって話してたんだ。な、逢介?」


もちろんそんな事は話していない。というよりもさっきまで面倒そうな顔をしていたくせに……そう思って冬弥の顔を見て諦めた。冬弥の顔は興味のある物を見つけた時のようにキラキラしていたからだ。


次の日曜日、冬弥と出かける事が決定した瞬間だった。思わずため息をついて視線を動かした時に別の人影を見つけた。その人影もこっちを見ていたのか、少し遠かったけど、確かに目が合った。なんでこんな所にいたのか分からないし、クラスメイトらしき女の子に背中を押されてすぐにいなくなったけど、それは確かに僕が見に行った三組の転入生の女の子だった。

読んでいただきありがとうございます。作品について何か思う事があったら、ぜひ教えてくれるとうれしいです。

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