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2-4 クラブ始動

2-4 クラブ始動


やってしまった……あとお姉ちゃんはうるさい。


「ぷ……いや、人前で話し慣れてないからな、うん。ぷぷ……シュポって汽車か?」


フォローするようで全くするつもりのない冬弥にはとりあえず上履きを投げつける。沙羅はニコニコしながらまた僕の膝の間に入り込んできたし、木下君は


「え、心霊全般きらいなのに……ああ、冬弥くんか……」


と、一旦目を丸くさせていたが、冬弥の被害者と納得したらしい。噛んだことには気づいていないのか触れないようにしてくれているのかわからないけど。

などと考えていると自己紹介をするつもりなのか沙羅が立った。小さいころから格闘技をやってきたからか知らないけど、沙羅は姿勢がすごくいい。

いまもきれいな姿勢で立っているんだけど、僕の膝の間にいたまま立ち上がったから、ぼくのちょうど目の前の沙羅の小ぶりなおしりがあって非常に気まずい。


「蒲生沙羅。おーちゃんは幼馴染で恩人です。趣味……得意な物はお料理とテコンドーを少々……です」


そう言うとちょこんとお辞儀をして座った。そして相変わらずお花を少々……みたいな言い方でテコンドーを入れてくるのはもはやネタなんだろうか?


(沙羅ちゃんかわいい!ちょっと逢介、沙羅ちゃんのおしりジロジロ見てんじゃないわよ。訴えるわよ?)


見てないから!訴えないで!怖いな。というか、そんな事言ったら……恐る恐るまわりを見ると冬弥も木下君も沙羅に拍手を送っている。

あれ?冬弥が聞き逃すはずないと思うんだけど。お尻を見ていたなんて聞いたら半年はネタにされる。いや、見てないんだけどね?


そんな事を考えているうちに木下君が立って自己紹介を始めた。


「えっと……ボクは木下あきら。です……冬弥君と同じ4組です。その……ボクもあまり怖いのは得意じゃないので……その、よ、よろしくお願いしますっ」


木下君も人前で話すのが得意じゃないのか段々顔を赤くしていって最後は急いで言うと座ってしまった。


(あらーかわいい。沙羅ちゃんには少し負けるけど十分にかわいいわね)


ちょ、お姉ちゃんさっきから……木下君にかわいいとか失礼だろ?


(あら、みんなに聞こえたのは最初だけよ。いまは私の事を知ってる人くらいにしか聞こえないはず。調整がむずかしいのよね)


ああそうなのか。だからおしりうんぬんも聞かれなくて済んだのか。僕がホッとしていると、お姉ちゃんが笑いながら言った。


(あらー。逢介?私は言ったわよ?私の事を知っている人、ってね)


お姉ちゃんの事を知ってるなんて僕と沙羅くらいしか……そこまで考えて僕は顔からすっと血が引いていくような錯覚を覚えた。

そーっと見ると、ちょこちょこ動いていた沙羅の体がぴくりとも動いていない。あと、耳たぶが赤い。


「……ごめん、沙羅。じろじろ見たりとかしてないから」


僕が沙羅にだけ聞こえるように言うと、ちらりと振り返った沙羅は何か言いたげな顔になったが何も言わず前を向いた。そしてまた後頭部をぶつけはじめた。


そしてそれっきりお姉ちゃんの声は聞こえない。くそう、お姉ちゃんめ……そして沙羅の後頭部が蓄積させるダメージが地味に響いてきた。


「ちょ、沙羅?それ地味に痛いからね?」


今度は少し声に出してそう言うと、それを見ていた冬弥が笑い出した。


「そうだな、逢介はやせてるからな。もう少し鍛えたほうがいいんじゃないか?蒲生にお願いしてお前もやったら?」


やったら?というのはテコンドーの事だろう。沙羅の家は父一人子一人の二人暮らしで今住んでいるのは元々こっちに住んでいた家だ。もともと沙羅のおじいさんは空手の先生でそんなに大きくはないが道場をひらいていた。沙羅が沖縄に行っている間におじいさんは亡くなって、それからずっと閉めてあった。沙羅と沙羅のお父さんが戻って来て、またそこに住みだしたわけだけど、今度は沙羅のお父さんがテコンドーの道場をそこで始めたらしいのだ。


「僕がやったら鍛えるまえに体壊しそうだからやめとくよ」


どうせほとんど冗談で言ってる冬弥の言葉にまともに反応していても話が進まないから流すようにそう返事すると冬弥も分かっていたのか、逢介は細いからなーなんていいながら笑っていた。

同年代と比較しても身長はある方なんだけどいまいち幅と厚みが足りてないのは否めない。鍛えようと思わないでもないけどなかなかつかなくて諦めてしまっている。


冬弥の冗談を流していると沙羅が横目でじっと見ている事に気付いた。ものすごくなにか言いたいことがありますって顔をしている。


「えっと……沙羅、どうかした?」


「んーん。なんでも……」


僕が聞くと沙羅はそう言って前を向いた。なんだろう、どことなく不機嫌な様子だけど……


「じゃあ宿泊訓練の食事後の自由時間にここに集合で。いちおう活動実績が必要だから簡単に新聞みたいにして出すつもりだからレポートとかも各自よろしく!」


と、勝手なことを言って冬弥は準備室もとい部室を出て行った。


「もう、むりやり誘っておいて勝手な事言って……木下くんもどうせむりやり誘われたんだろ?」


どうせこれから共に冬弥の被害にあう仲間になるのだ。そう考えて木下君にも声をかけてみた。


「え?……う、うん。まあ……」


苦笑いをしながら言葉を濁している所をみると図星のようだ。まだ声変りが訪れていないのか男子としては高い声でそう言った。


「冬弥は強引なところはあるけど、ほんとに嫌だって言ったらやめるから、多分。ちゃんと言ったほうがいいよ?」


どうもおとなしいのか断り切れないんじゃないのかなと思いそう言っておく。自分の事はとりあえず棚の上に放り投げておきます。


「う、うん。そうだね……蒲生さんとずいぶん仲がいいんだね?」


木下君は僕の言葉を受け入れたあと、気になったのかそう言った。思わず僕は今の状況を思い出して赤面する。ソファに腰かけた僕の足の間に沙羅が座るという、まるで親戚の小さい子供にするような格好になっているのだから戸惑うだろう。


「あー、その……一応、僕と沙羅は幼馴染で……ちっちゃいころからの付き合いでね」


だからって今のような状況にはならないだろうけどと自分で突っ込みながらそう言うと、木下君は苦笑いのまま「あ、そうなんだー」と棒読みで返してきたから僕と同じことを思っていたに違いない。ただそれ以上突っ込んで聞いてくるつもりはないようで少し安心する。


「じゃ、じゃあ僕も帰ろうかな……沙羅はどうする?一緒に帰る?」


何気なく聞くと、沙羅はさっきまでの不機嫌さは消えていて、にっこりと笑って頷いた。何気ないやりとり、それを少しだけ目を丸くしたあきらが見つめていた。


「え、えーと……蒲生さんと神野くんってまさか一緒に住んでるの?」


木下くんの飛躍した問いに僕は思わず吹き出しそうになった。目の前には沙羅の後頭部があるのに……大惨事がまぬがれてよかった……。


「いやいや、近所なだけだよ!」


そう答えると、木下くんはどこか安心したように見えた。


「そうか、そうだよね。ボク何言ってるんだろ」


そう言って笑いあいながら軽く周りを片づけ、準備室を出てそれぞれ家路についた。




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