2-1 七不思議と宿泊訓練
「と、いうわけでGW明けに宿泊訓練がある。プリントは忘れずに親御さんに渡す事。いいですね!」
1年2組の担任である大西先生がみんなを見渡しながら言う。学校で簡単なバーべキューをして、体育館で一泊する。それだけの行事なんだけど、小学校の時とは違う顔ぶれも増えた中学初めての宿泊行事という事で教室はずっとざわついている。大西先生が何度も静かにするように言うものの、つい楽し気に話してしまうようだ。
ちなみに僕はあまり楽しみではなかったりする。家でゆっくり休みたいというのもあるし学校を始めとする不特定多数の集まる建物のは必ずと言っていいほどいる。
何がって?……そりゃ…………幽霊だよ。
宿泊訓練という名目だけど、自由時間も多いし、生徒が楽しめるものも用意されている。
配布されたプリントに目を落とすと、土曜日夕方に学校に集合してそのままバーベキューの準備。バーベキューの後は体育館で就寝の準備と少しの自由時間があって、暗くなってからお楽しみ会と書いてある。内容はみんな知っている。ちょっとした花火をした後に肝試し……なんですき好んで暗い不気味な場所に行かないといけないのかわからない。
霊に遭遇しやすい僕にとっては憂鬱でしかない行事なのだ。けして仲のいい友達が少ないボッチ気質だからじゃない。
気が付くと先生はもういなくなっていて、仲のいい友達同士が集まって何か面白い事をしようだとか、何かを持ち込んで就寝時間の後に遊ぼうとか話している。……あまり仲のいい友達のいない僕は次の授業の準備をしていると、不意に肩を叩かれた。
「えっ?」
と、思って振り返るとそこには最近なるべく会わないようにしていた数少ない友人?の倉田冬弥が満面の笑顔で立っていた。
「よう、逢介。相変わらず一人か?」
見てわかるような事をわざわざ言ってくる。
「なあ、ちょっと相談があるんだけどさあ」
肩をくんで顔を寄せてくる冬弥を押し返しながらその言葉を聞いた。
「何だよ、相談て……」
正直嫌な予感しかしないし、ろくでもない事だろうと予想はついているのにこう返事してしまう。逢介の言葉を聞いた冬弥はにやりと笑った。そしてポケットから折りたたまれた紙を取り出した。
「ん?課外学習申請……何なの課外学習って……」
僕がそう聞くと、冬弥は胸をそらせて答えた。
「今度宿泊訓練で学校に一泊するだろ?そんで、この学校にも例にもれず七不思議っつーもんがある。」
そう言うと冬弥はにやりと笑った。
「冬弥……君もしかして」
「はい、そうです逢介君!七不思議の謎を解こうという計画です。何しろこの学校でうわさされてる七不思議はそのほとんどが夜だろ?さすがに学校に忍び込んで見つかるとうるさいしさ。宿泊訓練の晩飯の後少し自由時間あるじゃん?それを利用って作戦なわけよ」
おかしなテンションで、冬弥は言うけど僕にはまだ疑問がある。
「七不思議は分かったけど……なんでそれが課外学習になるのさ?」
そう聞くと冬弥は舌を鳴らして人差し指を振った。
「そこは俺の巧みな話術で、あれこれと関連付けさせて名目としてもぎ取った。みんな学校内にいるけど校舎はもう閉まってるから一応「課外」ってことで落ち着いた。」
にこやかに冬弥はそう言ったが、きっとあの手この手で先生に付きまとったんだろうな。と想像できるだけに思わず苦笑いになった。
「無駄に行動力あるんだから……で?」
「おう!参加する人はちゃんとこれに書いて出せって言われたからさ。ほら、逢介もここに名前書いてくれよ」
そう言って冬弥が指し示すところには氏名を記入する欄があって、冬弥の名前が最初に書いてあった。少し離れた下にはすでに二名の名前が書いてある。
小学生が書いたような汚い冬弥の字と比べるとものすごく整った字でやや遠慮がちに記入されている「蒲生沙羅」の文字。その下には丸っこい文字で「木下あきら」と僕の知らない名前もある。っていうか沙羅がもう承諾済みなのが少し意外だった。
「よく沙羅が行くって言ったね?」
「ああ、逢介も行くって言ったら一発だったぜ!」
「僕は行くとも何とも言ってないんだけど?」
呆れた冬弥の言い草に半目になりながら言うと、冬弥は両手を合わせて僕を拝むように言った。
「そういうわけだから。ここでお前が行かないなんてことになったら、俺が蒲生に蹴り飛ばされるかもしれないだろ?頼むよ逢介!」
そんな冬弥にため息をつきながら僕は筆箱からシャーペンを取り出す。なんのかんの言っても僕が言いくるめられてしまうのはわかっているので。
「さすが逢介、俺の親友だ!ここに書いてくれ」
調子のいいことを言いながら冬弥は木下君の下の欄を指している。せめてもの抵抗に半目で睨みながら名前を書いていると、木下君の事が気になってきた。
「冬弥、この木下君って君のクラスの友達なの?僕は会った事ないよね?」
体育などの授業でクラス合同になる時もあるけど、僕は二組だから一組と合同になる。四組である冬弥のクラスはさすがにまだ把握していない。
「ん?ああ。おとなしい子だけど悪い子じゃないから安心しろ。そんで、この書類正副あってさ。ここにも書いてくれな」
冬弥が言うおとなしいってのは、きっと冬弥に押されて断り切れない人なんだろうな、となんだか親近感と可哀そうにと思う気持ちのまま、深く考えず半分ほど冬弥がめくった用紙に名前を書く。同じように冬弥の名前が上の欄に書いてあって、下の欄に沙羅と木下君の名前が書いてあったから、僕もその下に名前を書いた。
僕が名前を書くのを見た冬弥はさっと用紙をひったくるようにとって折りたたんでポケットにしまった。
「サンキュー!詳しい事はまた後でな。」
冬弥がそう言って急いで教室を出るのと授業のために先生が入ってくるのがほぼ同時だったから、慌てて準備しかけていた教科書とノートを出す。そしてそのまま授業になって冬弥の事はとりあえず頭の隅に押しやった。
その日はめずらしく下校の時間になっても冬弥は姿を見せなかったので、沙羅と一緒に帰った。
そして宿泊訓練が数日後に迫った日。ぼくはなぜだか先生に呼び出しを受けた。放課後職員室に向かって歩いていると、廊下の向こうから声をかけられた。
「おーい、逢介!こっちこっち」
そう言って手を振っているのは冬弥だ。
「冬弥。もしかして君も?」
「そうそう。ほら例の課外学習の件だからさ」
冬弥はあくまで学習という名目でいくようだ。
「という事は沙羅も?」
あそこに名前があったのは、僕と冬弥のほかにも沙羅と木下君。なら二人も来るのかと思い、木下君がどんな子だろうと少し緊張しながら冬弥に言うと、冬弥は珍しく少し困ったような顔をしていた。
「あー、うん。や、もう来てたんだけどさ……」
何か歯切れの悪い言い方で廊下の先の方を指さす。そこには……
廊下の角から沙羅の姿が見える。その隣にはさらに隠れるようにして小柄な沙羅の後ろに隠れるようにしている男子が一人いる。ただ、沙羅の前、角になって見えないけどもう一人いるようだ。学生服の手が見える。学生服なら男子だろうからどっちかが木下君なのかな?
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