1 山野旅館
真美さんを見送った僕たちは、長い一日を過ごした山野旅館をようやく後にした。実際には半日程度しか経っていなかったけど、僕たちにはとても長い一日だった。
沙羅は真美さんを見送った後、「おーちゃんお願い」とだけ言い残すと電池が切れたみたいに倒れてしまった。さり気に救急救命士の資格を持っている高橋さんの見立てでは、肉体と極度の精神的疲労だろうという事で僕が連れて帰っている。
冬弥はさすがに何か思うところがあったのか、それまでUちゅーぶに上げていた自分の心スポ探索シリーズを全削除した。このまま二度と心霊関係の事を言い出さないでいてもらえると僕も非常にうれしい。
「えっと確か……小さい頃よく遊んだ公園から見えたんだよな」
小さい頃を思い出しながら歩いた。我が家、は一旦スルーしてと。気を失った女の子をお持ち帰りなんてしたらうちの家族は卒倒するかもしれない。
「うわー、懐かしいな。でもこんな狭かったか?」
ここ数年は全く訪れていなかったからか、やけにこじんまりとして見える。例の砂場を横目に沙羅の家を目指す。
「……確かここだったと。って、道場?」
「おや、君はもしや……」
沙羅の家らしきところを眺めていたら、ちょうど勝手口らしきとこから顔を出した優しそうなおじさんが僕を見てそう言った。そう、その人が沙羅のお父さんだった。
……ここで聞いた話は、僕の中でゆっくり消化してから話そうと思う。正直聞いてしばらくたってもうまく整理できていない。
さわりだけ話すと、沙羅は生まれるときに問題があって魂を半分奪われた。霊を見えないけど話したり殴れたりするのはそのせいらしい。そして、残りの魂も奪われそうになっていたけど、そこで僕とお姉ちゃんがカバーした。そのまま僕と一緒に遊んだりしていた事が目隠しになって、そのうちに準備して遠い親戚筋に当たる沖縄のユタの修行場ってとこに住んでる人の所で修行していた。そうしないとまた狙われるし、半分の魂ではうまく制御できない能力が自分の身も危険にさらすからって事らしい。
それが一区切りついて帰って来た。←今ここ
だから沙羅は僕やお姉ちゃんに感謝しているらしい。しかもお礼も言えないまま別れて気持ちがずっと溜まっていた事もあって、ここまで重症化してしまったと。
僕としては覚えてないし、意識してやったわけでもないんだから気にしないでいいんだけどね。
そんなわけで、山野旅館で疲れていた体にさらに重い話を聞かされた僕は満身創痍の状態で帰宅、知恵熱を出して三日ほど寝込んでしまったとさ。
二日目に死ぬほど申し訳なさそうな顔でお見舞いに来た沙羅が平謝りするもんだから逆にこまったよ。ただ、藤里さんについては、ただ「しばいておいた」としか聞けなかった。それ以上は恐ろしくて聞き出せなかった。
そして三日ぶりに登校すると、一番で飛んできた冬弥が言った。
「逢介、大丈夫か?で、次はどこのスポット攻める?」
山野旅館 冬弥のコメント
かつて事件、事故が多発したために立ち入りを制限しているにも関わらず侵入する人が絶えないらしい。女性の鳴き声が聞こえる、老婆の霊がでる、子供の声が聞こえるなどの現象が噂として挙がっている。なお、少数だが、不良にめっちゃ絡まれたという声もある事から物理的な危険もあるスポットである。
総評 信ぴょう性 C
危険度 B
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