1-11 心霊写真製造機とお姫様抱っこ
僕は苦笑いしながらまだ真新しい沙羅のスマホを指さして言った。
「ねえ……沙羅?このガラケー持ってる人の手を掴んでる手があるんだけど?二本くらい……」
「ほんとか!?どこだよ」
「やっぱり?」
若干引きながらそう言う僕と、喰いつく冬弥。沙羅は何か感じていたのか、やっぱりなんて言ってるし……ナチュラルに心霊写真をださないでほしい。
「私、写真を撮るのが好きでこのスマホ買ってもらってから、いろんな所や物を撮るんだけど三枚に一枚くらいの割合でなんかやたら気味悪い雰囲気の写真が撮れる。私には見えないけど、おーちゃんには見える?今度からおーちゃんに確認してもらって保存しよ」
「やめて!そんな高確率で生々しい心霊写真を見せないで!趣味って事は身近な写真もあるんだよね?」
せっかく見えても気にしないようにしているのに、いつも通る道とか見る風景の心霊写真とか冗談じゃない。
「うわあ、本物の心霊写真だよ。蒲生!これ俺にも送ってくれない?」
そう言えばいたよ、物好きが。冬弥は食い入るように画像を見ていたのに、さっそく自分のスマホのメッセージアプリの友達追加のバーコードを出していた。操作が早すぎる。
「男の子の連絡先は勝手に入れちゃいけないってお父さんから言われてる。だから無理」
しかしにべもない沙羅の言葉に撃墜されていた。残念だったな冬弥。しかも!その理屈であれば僕もダメだという事になるから、少なくとも沙羅から心霊写真が送られてくる危険性はなくなったわけだ。
人知れず胸をなでおろしていると、トコトコと沙羅が僕の隣に歩いてくる。
「ん?」
そしてその手には沙羅の電話番号が表示されたスマホがある。
「沙羅さん?ほら番号が見えてるよ。お父さんに怒られるから早く消さないと」
僕は紳士だから番号の方は見ないようにして沙羅にそう教えてあげる。
「おーちゃん、ちょっとスマホ貸して?」
「え?いいけど……どうするの?」
僕の言葉には答えず、沙羅はササっと番号を入れて発信した。
ピポピポッ!ピポピポッ!ピポピポッ!っとにぎやかな音を沙羅の携帯が鳴らす。あっけにとられて冬弥と二人でそれを見ていると沙羅はニコッと笑って言った。
「おーちゃんはいいってお父さんから言われてるから」
「「なぜだぁ!」」
冬弥と同時に声が出た。沙羅のお父さん何言ってるんですか!僕会った事もないですよね?
ショックを受けていると、ガシッと腕を掴まれた。
「逢介ぇ……なんでお前だけぇ…………頼む、心霊写真を俺にも回してくれ」
「え、やだよ。そんなもん即消去にきまってるだろ。受信するのもいやなのに、送信までしたらなんかログに残りそうでいやだ」
「ちくしょうっ!」
ていうか、心霊写真をくれって縋り付いてくる冬弥の姿がゾンビみたいで怖かった。本人に言うと喜びそうだから言わないけど……
「とにかく!沙羅の写真に写ってるのがガラケーってことだな?」
僕は脱線しまくっている話を修正しようと写真に視線を落として言った。
「ほんとだ色んな形があるんだな……ボタンを押すのか。(逢介)これなんてテレビとかエアコンのリモコン…………」
一つ一つ形を見ながら確認していると、ある種類を見た時に聞こえた。あの幻聴、いやお姉ちゃんの声が。それと同時に頭の隅に何かが引っかかった。このリモコンみたいな携帯電話に何か意味があるはず……
「わかった!」
「わっ!びっくりした……」
いきなり大きな声を上げてしまい、隣にいた沙羅を驚かせてしまった。冬弥も目を丸くしてこっちを見ている。
「どうしたんだよ逢介、いきなり……」
「悪い、沙羅もごめん。いや、分かったんだよ、真美さんの携帯電話らしきものがあるところ。僕たちが通ってきた所にあったんだ!」
「本当か、逢介!」
確認するように言う冬弥を見てしっかりと頷く。
「玄関ホールだ、館内の案内板があるところ」
考えてみれば、駐車場から上がってきて正面玄関があってそこのガラスが割れてるんだから、中に入るつもりなら普通にそこから入るはずだ、僕たちのように。
真美さんがここに来た当時はどうだったか分からないけど、ふらっと来た中学生が簡単に入れるとしたら分かりやすいところが入れるようになっていたはずだ。
「行こう、逢介!」
冬弥がそう言って手を伸ばしてきた。僕はその手を取って立ち上がると同じようにして沙羅に手を伸ばす。沙羅はどことなく嬉しそうに僕の手を取ると立ち上がった。
「きゃ」
沙羅が立ち上がるのを軽く引き上げるだけのつもりが、沙羅と僕との身長差を考えてなかった。僕は無駄に背が高く、中一になったばかりだというのに170近い。さらは140cm台だろう。糸口を見つけて浮かれていた僕は勢いよく引き上げてしまい、小柄で軽い沙羅の体を持ち上げてしまった。
慌てて倒れないように支えたが、足場も悪く抱きかかえるようになってしまった。
いわゆるお姫様抱っこというやつだ。
「ご、ごめん沙羅、すぐ下すから」
「何やってんだよ逢介、あぶないだろ?そのままいいから行くぞ!」
沙羅を下そうと足場の良い所を探していると冬弥が呆れたように言いながら僕の背を押してくる。
「わわ、冬弥!押さないで、危ないから!」
ぐいぐいと押してくる冬弥に文句を言いながら、沙羅を落としたりどこかにぶつけたりしないように気を付けないといけないからかなり気を使わないといけない。
結局あと一つ扉をくぐれば玄関ホールという所までそのまま来てしまった。この辺はあまり物が落ちていないし、傷んではいるけど、一応下はじゅうたんだ。そっと沙羅を降ろす。
「ごめん沙羅、どこも痛かったりしてない?」
「んーん、らくちんだった。ありがとうおーちゃん」
降ろした沙羅はそう言ってくれた。
「どうした逢介、顔が赤いぞ?まさか蒲生の変なとこ触ってないよな?」
ニヤニヤと笑いながら冬弥が肘でつついてくる。こいつわざとやったな?
文句を言おうと思ったが、出てこなかった。両手に残る沙羅の温かさと柔らかさが心地よかったからだ。……女の子の体ってあんなに柔らかいんだな……
口には絶対できないけど僕は心の中でそう考えていた。それと同時にあんな柔らかくて華奢な体をしているのに物理で霊を蹴り飛ばせることが不思議で仕方なかった。
ああダメだ!それはともかく、今は携帯だ!
無理やり気持ちを入れ替えて、玄関ホールに入った。
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