奇跡の業
「まさかイーファとは思わなかったな」
「それよりこれで十四歳の方が驚いたわ……ってこれ昨日と同じこと話したよ!」
翌日になってもそのネタを引きずる二人。まさかこんなにも驚かれるとは思わなかったので私は少々困惑する。
「まあ、登録からイーファの最短記録が半年なので二年ちょっとかかった私はそこまですごくないのでは?」
私の認識を素直に述べたらリゼが
「三年以上経って未だアルセコの私に何か?」
と嫌味に返す表情をして言い放った。
……申し訳ない。
「それでいつから王立魔術傭兵団にいたの?」
「え? 王立……」
なぜかリゼの問いにロビンが反応する。
「ロビンは剣士だから知らなくていいわ。ようは王国が集めた魔術師のエリート集団よ」
魔術団ってそう言う認識か。でもな……。
私は入団した時の魔術団の様子を思い浮かべる。
――――
「え? 的当てするの?」
「なんかサボってる……」
「戦闘のドクトリンないの?」
「みんな好き勝手にしてるし……」
――――
うん、間違いなくエリート集団じゃない。しかも王立って言っておきながら国からの予算がなくてほぼ民営だし、まともな連携取れないし……。
「そこにハンナちゃんがいたってこと? まじか……」
この好印象壊したくないし突っかからないどこう。世間一般では王立の何かに所属しているだけでステータスなのだから。
「で結局いつから王立魔術傭兵団に?」
「四か月前くらい前です。それ以前は組合所属ですね」
「随分と稀有な人生ね……」
実際はもっと稀有なんだがな。組合の前に生まれた街滅んで、幼なじみの従者をやってたんだから。
「二人はどうして組合に?」
「あー……」
そこで言い淀むロビン。何かの確認か彼がリゼに視線を向けると彼女は頷いた。
「……俺らの街が消えてな、仕事しなきゃだから泣く泣く傭兵になったんだ」
「え?」
そんなことある? いやもしかしたら"消えて"の意味が違うかも。
「消えたってどういうこと?」
「謎の軍団に襲われて片っ端から街の人を殺し、燃やしたんだ」
似てる。こんなに境遇が似てるなんて……。でも時系列はあってないし、同じ街出身ではなさそう……?
そんな話をしているうちに森の手前まで来た。
「じゃあこっから森だからリゼを先頭、ハンナちゃんは後ろな」
「え? ロビンは剣士なのに前に出ないんですか?」
「リゼの索敵の邪魔になるから前に出ない。大抵は索敵した範囲外から攻撃されることもないし大丈夫だ」
そうなのか? 今まで基本的にソロだったからわからん。
森の中を進んでいくところ三十分、リゼの索敵魔術に何かが引っかかったらしい。
「ちょうど右に狼っぽいのがいるわ。どうする?」
なお私もパッシブの索敵魔術を使用していたが、何にも引っかからなかった。リゼの索敵範囲は相当広いらしい。
「気づかれていなければ無視して進むだな」
「わかった」
しかしそう簡単にはいかなかった。
「……だめね、多分気づかれてる」
「そうか、じゃあ討伐しよう」
私たちは足を止め、リゼが示した方向に向く。
数秒後、私の索敵にも狼のような影が映った。数は五匹だろうか。連携されると厄介だ。
と、思っていたのだが、実際はそう苦労しなかった。
まずリゼが炎で三匹ほど焼き払い、あとはロビンが一匹一撃で倒した。出番がなくてちょっと残念。
「随分討伐に慣れていますね……」
「まあ何回もやっているからなあ」
ロビンはそう答えながら死体を道端に転がす。
すかさずリゼは死体を焼却した。
「毛皮をはいだりしないんですか?」
「今はそんなに毛皮の需要がないから売れないのよ。だから討伐証明だけ持って帰る」
いつのまにかリゼは牙を持っていた。
「さて、続きを行こうか」
「待ってロビン、なんか来てる」
「……もしかしてまずい?」
静かに頷くリゼ。私はリゼが注視している方向に向いた。
ついに姿を現したその獣。大きさこそ先ほどの狼より二回り大きい程度だが、纏う雰囲気はまるで別物だった。
「……組合の討伐依頼にあったやつだな」
低く呟くロビンの声に、緊張が滲む。
魔獣化――それは、何らかの原因で過剰な魔素を吸収し、獣が変異した状態。力も知能も跳ね上がり、人を狙う本能に従い殺戮を繰り返すものだ。
この狼も既に何人かを食らったのだろう。血に染みた口元が、その証だった。
ロビンは静かに剣を抜き、腰を沈めて構える。
凪のようにすぎる時間。そこに一滴の波紋を作ったのは獣だった。一気に地を蹴りロビンに迫る。
ロビンは身を翻し、渾身の斬撃を浴びせた。
だが、刃は確かに脇腹を捉えたはずなのに毛皮に遮られ通らない。刃を貫いた持ってかれたロビンはそのまま吹き飛ぶ。
獣は怯むことなくそのまま突進を続け、標的をリゼに定めた。
「――っ!」
咄嗟に詠唱を組みかけた彼女の瞳が、恐怖に縫い止められる。
獣の影が覆いかぶさり、爪が振り下ろされようとしたその瞬間、私は『法弾』を放った。
音も光もなく白い塊が獣を貫く。
最後の咆哮も許されず地に崩れ落ちた。
とりあえず誰も怪我なくてよかった。そう思っているとリゼはなぜか疑惑のような表情を私に向けた。
「えっと、何かありましたか?」
「ハンナちゃんって奇跡の業使えるの?」




