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24.プロポーズと招待と(1)

「ほーら、あんたたち、もう帰った帰った!!」


 翌日、ヘルマは家の入口でわあわあやって来た男たちを追い返す。


 以前からミリアの左足がよくないことを知っていたが、ギスタークとの戦闘で更に拗らせてしまったことを知って、警備隊の人々が見舞いに大量の食糧やら何やらをもって押し寄せて来たのだ。


 それとは別に、感謝のしるしにとばかりに町長から、それから謝罪に例の商人たちが、みなたまたま、本当に偶然、同じ時間に彼らの家に集まってしまった。


 宿屋にまだ泊まっていたスヴェンも大慌てで彼女の足を確認に来てくれたが、彼は苦々しく「きちんと休んでください。これでは、ここに来た時とそう変わりがなくなってしまいましたよ。まだ治ります。ですが、本当にここからは安静に」と彼女を怒った。が、それとは別に


「ありがとうございました。この町を守ってくださって。わたしも滞在をしているだけの身ですが、あなたに感謝を」


と言って、今回の治療費はなしにしてくれた。


 それから、警備隊とは別に、町の人々がミリアに「差し入れだよ」と果物をくれた。ヘルマは「突然大金持ちに求婚されたみたいになっていますよ」と、山積みになったものを呆れながら見つつ、折角だからとひとつ果物の皮をむいてミリアに持って行った。


 さて、それからどうしようかとヘルマが口をへの字にして、贈り物の山を見ていると……


「わあ、わあ、こりゃ大変だ」


 少し間が抜けた声が聞こえる。クラウスの声だ。ヘルマは慌てて入り口に行き


「何ですか! もう、朝からお客さんにはもうこりごりですよ!」


と、開口一番怒鳴る。が、それに特にめげた風もなく、クラウスは


「それは申し訳ないですね。とはいえ、それはヘルマさんがこりごりなだけで、ミリアさんは大丈夫でしょう?」


なんて涼しい顔で言うものだから、ヘルマはむうっと頬を膨らせた。


「そりゃあ、お嬢様はわたしと違ってお心が広いですからね!」


 その言葉にクラウスは笑い、それから彼の後ろにいたヴィルマーが顔を出す。


「すまんな。ちょっとだけミリアに話があって」


 ミリアは体調が悪いというわけではない。ただ、左足を使わないようにと言われて静かにしているだけなので、本来彼が会うことは問題がないのだ。だが、ヘルマは「うーん」と唸って


「ちょっとだけですよ!?」


 と釘をさす。すると、そう言われたらそう言われたで、今度はヴィルマーの方がいささかむっとした表情になる。それは珍しいことで、単に彼はヘルマに「合わせた」だけだ。


「うーん、言うほどちょっとでもないかもしれん」


「どっちですか!」


「おいおい、悪いのは左足だけなんだろう? 風邪で寝込んでいるならともかくさ……」


 結局、へにゃりと笑って、そう言いながら家の中に入るヴィルマー。大量に並んでいる食料品やら何やらを見て「ははぁ」と苦々しい表情になる。


「こりゃ、大変だな。食べきれるのか?」


「多分無理だと思うんです。だから、これから大きな鍋を借りて、今晩は警備隊のみんなにご飯をふるまおうと思うんですけど。ヴィルマーさんたちもどうですか? あの、みんなで訓練をしているところに集まって、夕ご飯にするのは」


「そいつはいいな! クラウス、手伝ってやれよ。お前、料理得意だろう」


 その言葉にヘルマは「えっ」と驚きの声をあげる。クラウスは「いえ、そこまでは」と謙遜をしつつも「とはいえ、お手伝い出来ますよ」と答えた。


「ちなみに、俺は不得意だ」


「言われなくてもなんかそんな気がしていました」


 そのヘルマの答えにクラウスは声を出して笑う。ヴィルマーは肩を竦めて「ミリアは部屋か?」と言って「ちょっと、失礼するな」と奥へと歩いていく。


「まあ~! もう我が家の間取りをよーくご存じのようで!」


 と、意地が悪いことをヘルマが云えば、またクラウスは笑った。


「俺は知っているんだぞ、というマウントは恥ずかしいですねぇ」


「ですよね? も~! 昨日ちょっとお嬢様をここに送ってくださったからって……お嬢様は渡しませんからね!」


「折角、ガツンと言ったのに?」


「……やっぱり、ガツンと言ったんですか!?」


「あれ、ミリアさんから聞いていませんか?」


「聞いていないですよぉ。ええ~、ついに……ついに、ガツンと言っちゃったんですか? それで? お嬢様のお返事はどうなんですか……?」


 そこで黙ってにやにやと笑うクラウスに、ヘルマは「教えてくださいよ!」と駄々をこねるのだった。




「ミリア。起きているか」


「起きていますよ」


 ミリアの部屋をノックして、扉を開けるヴィルマー。彼女は、ベッドの上で体を起こして、読書をしているところだった。


「いらっしゃい。ヘルマは?」


「ああ、なんだかいろんなものを差し入れでもらったみたいだったから、それを調理して警備隊のみなに食べてもらうと言っている。でかい鍋を借りに……うん。クラウスと、出かけたみたいだ」


 ドアを開けたまま、ヴィルマーは背をそらして居間を覗いてそんなことを言う。それから「入ってもいいか?」と尋ねるので、ミリアは「どうぞ」と笑って返事をした。


「スヴェンに聞いた。また、治癒に時間がかかるんだって?」


「はい。これでは初めに戻ったも同じだ、と言われてしまいました」


「そうか……」


 ヴィルマーは椅子をベッドの近くに運んでどっかりと座る。ミリアは読んでいた書物を閉じて、サイドテーブルに置いた。


「なので、今からまた4か月、ここでお世話になることになりそうです。町長にはまだ話をしていないのですが……」


「ああ、この家のことか。大丈夫だろう。町長は、むしろここに永住して欲しいぐらいのことを言っていたぞ」


「まあ」


「とはいえ、あれだ。俺の父がひとまず5人をここに派遣をしてくれたわけなんだが」


 そう言われればそうだった。5人を連れて来たとヴィルマーは言ったが、そもそも5人程度で何が出来るんだろうか。そうちらりと思ったことをミリアは思い出す。


「来月になれば、追加でまた5人が来る。だが、警備隊には引き続きこの町の警備を任せたいんだ」


「それは……どういうことでしょうか?」


 どうやら、サーレック辺境伯が派遣をしてくれた兵士たちも、そう熟練の者ではないのだと言う。なので、彼らと「協力をして」いくことになるという話だった。


「わかりました。それは、来月追加される5人も……」


「そうだな。それでも、これで俺の父がヤーナックを無視しているわけではないとはわかってもらえるといいんだが、ちょっと逆効果になるかな……ああ、でも、魔獣討伐はしたことがある連中なので、それに関しては警備隊のメンバーよりは経験がある。なので、その辺りは、彼らから警備隊に教えることになるだろう」


「それは助かります。ギスタークに対しての備えも我々には足りなかったので……」


 そうか、とヴィルマーは少しほっとした表情になった。その話については、明日警備隊の訓練に5人を連れて合流するとヴィルマーは説明をした。


「それから、君に、俺の父から手紙を預かっている。魔法を使ってのやりとりなので、昨日のギスターク退治が終わった後にやりとりをしてな」


「魔法を使って? サーレック辺境伯から?」


 驚きの表情を見せるミリア。確かに魔法を使った手紙のやり取りというものがあるとは知っていたが、それを出来るのは王族ぐらいだと思っていたからだ。それぐらい、その魔法を使える者は限られている。そして、そんな人材は王城方面に行ってしまうとも思っていた。


ヴィルマーは「俺たちは広い領地を回り続けているのでな。それなりに、リアルタイムで報告を出来ないと困ることも多いので、逆に王城方面から派遣をしてもらっているんだ」と告げた。なるほど、国王がそれなりに「サーレック辺境伯領を放置してしまっている」ことを理解しているということか。


「で、だな。これを渡す前に、君に正式にプロポーズをしたいんだが……」


「プロポーズ!?」


 突然の言葉にミリアの声が裏返り、頬が紅潮する。その様子を見て、今度はヴィルマーの方が「おかしいことを俺は言ったのか!?」と声が裏返る。


「……いえ……その……」


「昨日、言っただろう。正式なプロポーズはまた後でって……」


「は……はい」


 ミリアは突如不安げにヴィルマーを見て、それから目を逸らす。


「わたし、で、いいのですか」


「おいおい、昨日の君はどこにいってしまったんだ……?」


 そう言ってヴィルマーは笑い出す。それから、手を伸ばしてそっとミリアの手に触れた。


「失礼」


「あ……」


「君が、いい」


 そう言って、彼はミリアの手の甲を持ち上げ、そこにキスを落とした。それから、静かにその手を自分の両手で上下に挟んで、彼女を見つめる。


「君がいいんだ。俺は。だが、まあそれは俺の話で、君が俺では足りないというなら、そう言ってくれ」


「そんな……そんな、ことは」


 ミリアは驚いて、それから口ごもる。が、ヴィルマーはいつもならば、そう強く追及をしないだろうに、今日ははっきりと言葉を重ねた。


「昨日の言葉は、ただの勢いだったのか? もし、そうなら、そうだと言ってくれ」


「そうではないんです。ヴィルマーさん。そうではないんです。その……」


「うん」


「わたし、が、足りないのではないかと……突然不安になって。昨日は、あなたに助けてもらって、心が浮き立ってしまっていたし」


「何故? 何も足りなくない。君は、そのままで何一つ足りないことはないぞ」


 そう言って、ヴィルマーは両手で挟んだ彼女の手を、ぎゅっと握りしめる。彼の手のひらの熱が伝わり、ミリアは目を伏せながら、頬をわずかに紅潮させる。


「わたしはあなたに何度も言ったように、甘えることが苦手です。いえ、そうではなくて……甘えていても、うまく、そうだと伝えることが出来ない、要するに……可愛げがない女ですから……」


「君も馬鹿だな」


 そのヴィルマーの声音は優しい。ミリアは、恐る恐る彼を見た。


「いや。わかってる。悪いのは俺の方だ。先日の話で俺は自分が馬鹿だってよくわかったんだ」


「えっ?」


「君が、俺に甘えてくれていることに、うまく気づいていなかった。だが、それは、君が常に礼節を重んじた態度でいてくれたからだ。それに、俺は勝手に騙されてしまっていた。それを、まず詫びよう。あれから考えたら、その……君が、俺に甘えてくれていたということが理解出来たというか……」


 そう言いつつ、ヴィルマーは「こんなことを当人の前で口に出すのは傲慢かもしれないが」と苦々しい表情を見せた。


 彼の言葉に驚いて、軽く目を瞬くミリア。何も言わないミリアを見つつ、彼は照れくさそうに「俺も色々考えたんだ、これでも」と笑った。


「それに、だ。第一、本当に可愛げがない女性は、そんなことは言わない。申し訳ない話だが……君が、そうやって自信がなさそうな姿は、とても、その……可愛げがあるように俺には見えるんだが」


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