06 法具
「話もいいがきちんと戦闘準備をしておくべきだ。結界はもう発動している」
宗次に言われてあやは「はーい」と間延びした返事をしながらその手の中に自分の身長ほどもある巨大な鎌を出現させる。
「そりゃあ・・・なんだ・・・どっから出したんだ?」
いきなり出現した巨大な鎌に熱王は驚きを隠せない。
「これは『法具』よ。私たちは退魔師って呼ばれることが多いけど私たちは正式には退魔法を使う退魔法師なの。そして法師が使う武器だから法具って言うんだけど、法力があればいつでも具現化することができるのよ」
「『法具』ってのはみんなそんなヤバい感じの武器なのか?」
黒光りする大鎌を気味悪そうに見ている熱王人。
「え・・・やっぱり大鎌って変かな?」
あきらかに落ち込んだ様子のあやに熱王人は慌てて、
「いや、変ってわけじゃないが武器は剣とか槍とかが普通じゃねえか?その方が使いやすそうだと思っただけだ」
「・・・別にみんなが鎌を持ってるわけじゃないわよ。『法具』で一番多いのは刀型だしね。中には一つだけじゃなくて複数の『法具』を持っている法師もいるし、人それぞれかな」
「へえ、なるほどな・・・。俺は大鎌もイイと思うぜ。なんかカッコいいよな」
「ありがとう。正直に言うと大鎌ってレアの割には法師の中では人気がなくてちょっと残念な武器なのよね。そう言ってもらえると嬉しいな。ねえ、『斬首丸ちゃん』?」
あやは大鎌に話しかけながら喜んでいる。
そのストレートすぎる名前に(実は大鎌どうこうよりも『斬首丸ちゃん』ってネーミングセンスのせいで引かれてるんじゃねえのか?)と思いながら熱王人は質問を続ける。
「ところであいつらはその『法具』を出さないのか?」
「宗次たち?結界班は結界を張ることに専念してるから『法具』は使わないの。『法具』の具現化と維持にはかなりの法力と集中力を使うから、同じように維持するのに集中力を必要とする結界と法具を同時に使うなんてまず無理なのよ」
「よくわからねえが、その『法具』の維持に力を使うなら、むやみに出さない方がよかったんじゃねえか?敵が現れてからの方がいいだろ」
熱王人は宗次があやに『法具』を出すように指摘したことが気に入らないようでそんな事を言う。
「それは大丈夫なの。宗次たちが張った広域結界はさっき言ったように結界内の生物の肉体的なダメージをなくすこと以外にもう一つ役割があって、結界内の法師は法具の維持が少ない法力でできるようになるの。具現化すれば結界内なら集中力もあまり必要なくなるしね」
だから宗次の発言は間違っていないとあやは言いたいようだ。
「それじゃあ、あいつらは結界で他の全員分の法力を肩代わりしてるのか?あいつらはそんなに飛びぬけて法力が強いのか?」
熱王人が少し感心したように言うと、
「ううん、ちょっと違うかな。広域結界のいいところは四人の法師が定められた術式で結界を張ることで法力の効率をあげて少ない法力で多くの効果を得る事ができるのよ。防鬼庁ができてから一番の功績はこの広域結界方式を確立させた事だと言われているわ」
「よくわからんがすごいな・・・。結界ってのは全く弱点がないじゃないか・・・」
改めて感心したように熱王人が言うとあやは首を振る。
「でも、ないのよ。結界を維持するには基本的に四人の法師が必要だし、最初に言ったように結界内では肉体的ダメージがなくなるんだけど、それは鬼も例外ではないのよ。だから私たちも安全に戦えるけど鬼も殺すことはできないの。せいぜい精神的に痛めつけて鬼の住処に帰すだけね」
「精神的に痛めつける?悪口でも言うのか?」
熱王人の素朴な疑問にあやは少し笑って答える。
「まさか。結界内での法具のダメージは全て精神的なものに変換されるの。つまり法具で攻撃することで肉体的にはダメージを与える事はできないけど精神的に弱らせることができるってわけ。そしてある程度ダメージを与えたら鬼は鬼界に帰っていくの」
「それが鬼退治ってことか。ダメージを与えると逃げ帰っていくから止めを刺せないんだな」
防鬼庁が鬼殺しをできていないのは周知の事実なので熱王人もよく知っている。
「鬼が逃げる前に一気にダメージを与えるってのはどうだ?」
熱王人は素人らしい誰でも思いつきそうな意見を言うが、あやはバカにすることもなく真面目に答える。
「そうしたいのは山々だけど、広域結界内では法具の出力が一定以上になると安定しないのよ。これも広域結界のデメリットの一つね」
「なるほど・・・。いい事ばっかりじゃあねえんだな」
感心する熱王人はあやにとっていい退屈しのぎになっている。
次回は 07 ずれ です。