32 初任務
神崎熱王人はいわゆる不良だった。
群れるのが好きだった、仲間といるのが好きだった。気に入らない事があるといつも口よりも先に手が出ていたが、殴る事に罪悪感はなかった。
熱王人自身は理不尽な事で人を殴った事はないと思っている。自分が正しい事をしているから、間違っていないから、殴ったとしても自分は悪くない、本気でそう思っていた。
何かと真面目ぶってルールにうるさいやつが嫌いだった。ちょっと掃除をサボったくらいで鬼の首を取ったように叱るクラスメートを「バッカヤロウ」と殴りつけた事もあった。確かに掃除をサボったのは悪かったが熱王人には『仲間のために急がないといけない』という大事な理由があり、それを聞きもしないで叱りつけたのがムカついたからだ。
また、自分にぶつかってきたのに関わらず「ごめん、ごめん」とまったく反省してない様子だった見ず知らずの男を鼻血が出るまで殴りつけたこともある。人にぶつかっておいてそんな態度をとるなんて誰だって許せないだろう、とアツい心をもつ熱王人は思うのだ。
今も気に食わないやつがいる。二課結界班の班長、冬月宗次だ。同じ中学の優等生で前から気にくわなかったが防鬼庁に入ってからはより嫌いになっていた。
安全な場所で結界を張って、自分では鬼と戦わないくせに時間通りのお役所仕事しかしない。自分の事だけを考えて行動する自分勝手なヤツだと熱王人は解釈している。
それから、二言目には「ルールだから」という二課長の筒井も嫌いだ。筒井は性格さえよければ美人なので仲良くしてやってもいいと思っていたが、その性格が熱王人には我慢できないものなのだ。
後の連中はまあまあ自分の事を受け入れている(と熱王人は思っている)ので、それなりに気に入っているし、結界班に関しては生意気な連中だが可愛いので後々仲良くなる(宗次以外)予定なのだ。
(まあ、俺が『鬼殺し』を目の前でして見せれば、俺を見る目は変わるだろう)
任務に出れば全てが変わる。熱王人はそう思っていた。
*
神崎熱王人が迎えた初任務の日。
「よっしゃー、やってやるぜ!」
ようやく実戦に出れると張り切っている熱王人だが、筒井はそれを冷ややかな目で見ている。
筒井は熱王人は連れて行くが全く戦力として考えていない。あくまで同行させるだけで任務に干渉させる気はないのだ。
(任務に出せば文句はないでしょ。ただ役目は何も与えないけど)
普通にきいたらリストラ候補に仕事を与えない嫌な上司の様なセリフだが、実際に今の熱王人の実力では任務でさせる事がなにもないのも事実なのだから仕方ない。
そのため熱王人には何も命令がなく淡々と『鬼払い』の任務を進めていく。
今回は警報を無視した『J』(邪魔者)も『はぐれ鬼』もいないので治癒部予見課の鬼出現予測地点にすみやかに着いていた。
その後は結界班が『広域結界』を張り、熱王人以外の戦闘班は筒井の指示により各自の法具を出現させる。
「まもなく時間です」
戦闘班長の野村が出現時間が近づいている事を継げるとさすがに熱王人は緊張するが、他の者たちは落ち着いたものだ。なにしろ普通の任務でも最近は何も問題はないし今回は十課まで来ている。何も心配する事はないのだ。
それまで何もなかった空間から『鬼の道』と言われる青紫色のゲートが開いていく。
以前に出会った『はぐれ鬼』と違って予測通りに出てくるときは鬼の出現に立ち会う事ができる。この状態ならあらかじめ広域結界も張ることができるし、戦闘班は法具を出現させておくことができるのでかなり余裕がある。
熱王人たちを助けた時のように無理な行動をしなければ『鬼払い』は今の防鬼庁にとって普通の事なのだ。
やがて『鬼の道』から出てきた鬼の姿を見て、
「四種が5匹、五種が3匹。楽勝ですね」
戦闘班長の野村は楽観的な発言するが、すかさず筒井が注意する。普通の任務であっても筒井は物堅い。
「油断はしないの。前衛は私と野村、七瀬さん、三津谷君が担当します。後の戦闘班を後衛をして。今回は十課が同行しているから結界班と見学者の護衛は十課にお願いします」
筒井は自分と共に前で戦う者に戦闘班長の野村と七瀬あやを指名している。
この二人は熱王人を助けた際には単独行動させていた二人だが、単独行動させると言うことはそれだけ二人の能力を信頼している証でもあるのだ。
「了解。こっちの事は気にせずにいつも通りしてくれていい」
十課長である明智は落ちついた態度で返事をするが、
「あの…俺は?後衛って事か?」
自分が見学者だと気付いていな熱王人は挙動不審にまわりを見渡すのだった。
次は 33 鬼払い です
すみません。土曜日週一連載にします。力足らずですみません。




