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アツいココロのナいボクら  作者: 東野 千介
第1章 鬼殺し誕生
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01 鬼殺し

 少年はテレビを見ていた。


 普段はあまりテレビを見ない。少年は忙しかったし、テレビを見る事に時間を使うのはあまり意味のない事だと思っていた。


 情報を得るだけならインターネットの方が早くて欲しい事だけ得られるとわかっているからだ。


 しかし、今は少年は確かにテレビを見ていた。


 『鬼殺しの秘密に迫る!』


 こう題された特番がながれている。


 最近はこの手の番組が飛躍的に増えた気がする。


 三ヶ月前に突如として現れた〔鬼殺し〕を日本の希望として祭り上げるのはマスメディアとしては当然だろう。


 『大災禍』以来十年間、日本の防鬼庁は鬼を殺せなかった。


 外国の対鬼の組織では鬼を殺した例がいくつかあったが、日本では一度もなかったのだ。


 それは日本の防鬼庁が外国のものより劣っているというよりはその方針が人命第一だからだ。


 事実として防鬼庁が創設されてから鬼の襲撃よって死亡した者は民間人、対魔師ともに日本では一人もいない。


 これは驚異的な数字だといってよかった。


 外国では鬼の襲撃によって死亡する者が後を絶たず毎日のように死者がでている国もあるにもかかわらず、日本では一人も死者がでていないのだ。


 鬼対策についてもっとも進んでいるといわれてる北欧諸国でさえ年間に数百人の犠牲者をだしている国がざらだ。少なくも鬼による被害を正確に把握している国で死亡ゼロは日本だけだ。


 石橋をたたいて渡る、危ない橋は渡らないでまわりみち、人命に対する危険を冒してまで鬼を殺さない。

 出現した鬼を殺すことよりも、まずは鬼を人のいない場所へ追い払うことを第一としている防鬼庁の方針は実に日本の公務員的だ。


 これは人命を尊重しているというよりも責任問題にならないようにするのを最優先とした結果だ。


 冒険心がないといえばそれまでだが、そのおかでげで他国のように鬼による死者が出ていないのも事実だった。


 しかし、それで民衆は納得しない。


 いや、はじめのうちは鬼を追い払ってくれる防鬼庁に素直に感謝していたかもしれないが、追い払うだけで一向に鬼の出現数を減らすことのできない防鬼庁にいらだちを感じるようになったのだ。


 外国に比べて被害者が出ていない事には賛辞を贈ることはなく、外国に比べて鬼を退治できていないことだけに焦点を当てて責めていた。それはマスメディアの誘導によるものだったがそれが世論になっていたのだ。


 自分たちの生活を脅かす悪は排除されるべきで、そのために自分たちの税金を使って作られた機関はそれを命を懸けてでも果たすべきだ。


 そしてその役人が果たすべき役割を果たしたのが役人でなく、ただの『民間人』だったとしたら民衆は役人の無能を声高かに叫び、その『民間人』を英雄として祭りあげる。


 その行為は責めることはできない。


 絶望の中に見つけた希望にすがるのは人として当然だろう。


 ただ、彼らは考えない。


 希望の光の影になっている者たちの事を・・・


 その証拠にテレビの中では〔鬼殺し〕の英雄に対する賛辞や喜びの声を上げる人々のインタビューが街の人の声として流れ、その中で防鬼庁に対する不満がこぼれている。


 番組の編成が無能で怠惰な防鬼庁とその中で一人奮闘している〔鬼殺し〕と呼ばれる勇敢な少年との対比になっているのは明らかだった。


 「・・・〔鬼殺し〕か」


 少年は不快そうに眉をひそめてテレビのスイッチを切る。


(彼が気に入らない)


 認めたくはないが自分の中にそんな気持ちがあることに気付いていた。


 でも、それを表に出すわけにはいかない。ただの嫉妬だとわかっているからだ。


 (いや、内心でそう考えることすらも恥ずべき事だ。僕は修行が足りない)


 少年、冬月宗次は高ぶりそうになる心を鎮めるように努める。


 あいつ―神崎熱王人(ねおと)に嫉妬しているようで、一度吹っ切ったはずの事をまた蒸し返そうとしている自分が幼稚に思えた。

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しばらく連投していきますのでよろしくお願いいたします。

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