決闘のゆくえ
1週間後、ブランドン侯爵とチャールズが俺と共に王城へ呼ばれた。
騎士団の稽古場を借り、エドワード殿下とチャールズの決闘が行われる。
まあ、名目上は剣術稽古の試合だ。当然ながら、真剣などは使わない。
「本日はよろしくお願いします。」
チャールズが臣下の礼をとる。しかし、目はギラギラと怒りに燃えるようだ。
「胸を借りるぞ。負けた方が、勝った方の望みをきく。」
久しぶりに会ったエドワードは、背も少し伸びて大人びたような気がする。
俺のことを見て、微笑む顔は少し緊張しているようだった。
決闘が始まった。一進一退で打ち合いが進む。どちらも幼い頃から剣を学んでいるが、2歳差のあるチャールズの方が体格的に有利だ。
ただ、最近チャールズはクリスティーナ嬢に見えないところでしか稽古ができていなかったため、鍛錬不足が仇となる。
「しまった!」
チャールズの木刀を持つ手が汗ですべったところに、強い一撃が入る。チャールズの木刀が落ちた。
「終了、エドワード殿下の勝利!」
悔しさに、チャールズが膝をつく。肩で息をしながら、エドワードがチャールズの前に立った。
「僕・・・私の勝ちだ、チャールズ。」
ギリギリと音がしそうなほど歯を食いしばり、チャールズが立ち上がった。
エドワードが口を開く。
「私の望みを言おう。チャールズ。2つある。まずは・・・ブランドン家に謝らせてくれ。僕のせいで、大切なクリスティーナ嬢に怪我をさせてしまった。すまなかった。」
深々とチャールズと、付き添っていたブランドン侯爵に向けて頭を下げた。
「殿下!いけません!」叫ぶブランドン侯を止め、エドワードが続けた。
「頭を下げたい、というのが私の望みなのだから、君たちは止めてはいけないはずだ。」
真剣な声で頭を下げるのをやめないエドワードがゆっくりと頭を上げると、混乱するチャールズの顔がそばにあった。
「もう一つの望みだ。チャールズ、僕の・・・私の側近になってくれないか。」
「俺は・・・」
「お祖父様・・・国王陛下に言われたんだ。僕が過ちをおかしたとき、止めてくれるものをそばにおけ、と。チャールズ、君ならきっと僕にきっと怒ってくれる。僕は、僕に、怒ってくれる人にそばにいてほしいんだ。」
「・・・怒っても、不敬に問わないなら。」
「そんなこと言うもんか!言いたいこと好きに言っていい、僕の方が年下だし弟だと思って・・・だめ?」
涙で潤んだ目で、チャールズを見つめる。王子の顔から、小さな子供の顔に戻っている。
怒りなのか戸惑いなのかわからない、真っ赤な顔で、チャールズが口をぱくぱくとさせている。
あ、落ちたな。
「お、弟はダメだ!妹はティーナだけだし、お、俺の弟になるのは、リチャードだけだ!」
急にチャールズに腕を掴まれて、前に立たされた。
「リチャード兄さまが、お、おと、おとうと・・・」
一瞬きょとんとしたあと、エドワードが笑いを堪えられず肩をぷるぷると振るわせている。
どうやら俺には、未来の王の側近となった、義兄ができた。