義兄となる人
この世界についての説明回です。
我が国の爵位制度はかなり特殊、らしい。
まあ、自国のことしか知らないため近隣諸国と比べると、という意味ではあるが。
王位継承権の保有者は、成人後に臣籍降下し、公爵としていくつかある王領のうち一つを統治する。
あくまで王の代理としての統治であるため、自領ではない。さらに、次の世代が臣籍降下すると王領の統治権を失う。
戦争などで武勲を上げ他国から領土を得る、または他の貴族から領地を買うことができれば改めて功績に応じた爵位を与えられるが、それができなければ公爵など名ばかりだ。
王族であることに胡座をかいていると、王が変わった途端に全てを失い、親族一同路頭に迷うようなこともあったという。
そのため、今までの王族は王が替わるまでの間に功績を上げるのに必死となり、戦神と呼ばれたり、医学などの学問で名を馳せるものも多い。
名ばかりの公爵位よりも実力で取得した爵位を重要視するため、自力で爵位を得るとともに公爵位を返上するのが常だ。
そのため、公爵という地位は我が国では一代公爵と呼ばれる。血族継承ができないわけではないが、次代につなげる爵位を得ることができなかった恥として後ろ指を指されてしまうのだ。
『王の血を引く者こそ努力を怠らんように』という考え方に基づいた合理的な考え方だと思っている。
俺の場合は母の親族が内乱を起こしたため、成人を待たずに早い段階で臣籍降下し王位継承権を返上する予定であった。それがさらに早まったことになる。
領地経営の勉強は始めていたものの、まだ全く足りない。
クリスティーナ嬢と婚約したことで、ブランドン侯爵の後見を得ることができたのは助かった。
信頼できる管理人と、教師も可能な補佐をつけていただけたのだ。
「メイフィールド閣下。よろしいでしょうか。」
「ブランドン侯、お久しぶりです。その呼び名はまだ慣れませんね。」
「早く慣れていただかねば。コンウェル領への挨拶はいかがでしたかな。」
「優秀な補佐をつけていただけたおかげで、なんとかやっていけそうです。年若い公爵ということで領民の不安もあったようですが、ブランドン侯の後見があるということも安心材料になっていたようです。侯爵には頭が上がりません。」
「それはこちらとしてもありがたい。ですが、早く『ブランドンの操り人形』などという輩を見返さなければなりません。」
ブランドン侯爵の耳にそんな言葉を入れるような馬鹿者がいるのか。こちらでも調べておこう。見習いから正式な従者となったデイビッドに目配せする。
「今日は、息子のことでお話がありまして。」
「ご子息・・・チャールズ殿でしたね。特に数学の成績が大変優秀であると噂は届いておりますよ。」
「そのチャールズですが、エドワード殿下の側近候補として城に上がるのはどうか、という話がでまして。」
つい、うーんと唸ってしまった。
ブランドン家の仲の良さは有名だ。特に兄であるチャールズはクリスティーナ嬢を溺愛していると聞いたことがあった。
その兄妹仲を引き裂くようなきっかけを作ったエドワードに、良い印象があるわけもない。
「やっと領地から戻ってきて、妹とも会話ができるようになってきたところです。本人の気持ちを考えると、お断りせざるを得ないのですが。」
「そうすると、『ブランドン侯爵はリチャード公を使って王位簒奪を狙っている』と言われかねない、と。」
俺の後見を行っている侯爵がエドワードと距離を取るようなことをすれば、エドワードの立太子に不満があると思われてしまう。
しかし、チャールズの気持ちを考えるとエドワードの側近など納得がいくはずもない。少なくとも心から忠誠を誓うとは考えられない。
「明日、定期訪問でクリスティーナ嬢とお会いする予定ですが、その際チャールズ殿ともご一緒することは可能でしょうか。」
「そうですね。息子もあなたには会いたがってはいます。あまり良い意味ではないのですが・・・」
領地から戻ってきて数ヶ月経つというのに、チャールズは顔を合わせていなかったのは夫人の配慮だろうとは思っていたが、その通りだったか。
ブランドン家のもう一つの宝と対面すると思うと、その日は眠れなかった。