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僕の望まぬ婚約(side エドワード)

天使が踊っている。


中庭へ続く道を、リチャード兄さまと一緒に進む途中だった。

ガゼボにいるお母様が見つめる先に、知らない女性と花壇の間を歩く少女がいた。

蝶を追いかけながらクルクルとまわり、金の巻き毛がふわふわと揺れる。

教会で見た、聖母に花を捧げる天使の絵を思い出す。


動かなくなった僕に、リチャード兄さまが声をかけた。

「ガゼボで義姉様がお待ちだよ、エドワード。今日は特別なお茶会だから、遅れてはいけない。」

リチャード兄さまが微笑みながら僕の手を引いた。

兄さまはお父様の歳の離れた弟だ。忙しいお父様に代わって、大事な時にはいつも一緒にいてくれる。

今日はその大事な時らしい。いつもより飾りの多い服を侍女たちが着せてくれた。

ちょっと窮屈で嫌な気持ちだったが、兄さまがいてくれたから仕方なく向かったお茶会だった。


「あの天使はどこへいくの?」

「ガゼボに来るはずだよ。今日はエドと彼女の顔合わせだから。」

リチャード兄さまはクスリと笑いながら言った。

かおあわせ、というのが何かはよくわからなかったが、今日のお茶会で話せることはわかった。

「エドはもうクリスティーナ嬢が気に入ったみたいだ。」後ろに控える護衛と兄さまが笑顔で話している。

「兄さま、行こう!」

繋いでいた手を強く引き、お母様の待つガゼボへ向かった。


お母様がいつもの優しい笑顔で僕をそっと抱きしめてくれた。

「エド、エドワード、待っていたわ。これからとっても可愛らしい子と一緒にお茶をするのよ。」

「天使が来るって!」

「まあ、もうクリスティーナ嬢とお会いしたの?」

「妃殿下、まだ遠くから見かけただけですが、エドはすっかり気に入っているようですよ。」

天使の名前はクリスティーナというのか。

お母様は聖母様みたいに綺麗だから、天使がお花を渡したらきっとあの絵のように素敵に違いない。

そうだ、お母様が育てたユリの花が中庭の奥にあったはずだ。一緒にとってこよう。


そんなことを考えながらそわそわしていると、彼女がやってきた。

「はじめておめもじします、ブランドン家のクリスティーナともうします。」

一緒にいた彼女の母の挨拶の後、おぼつかない足取りで一生懸命カーテシーをする。

「しっかりとしたご挨拶ね、クリスティーナ嬢。こちらは息子のエドワードよ。今日は会えるのを楽しみにしていたわ。」

「エドワードだ・・・」

少し赤くなった頬に、大きな青い目をくりくりとさせているクリスティーナを見つめると、言葉が続かない。

「エド、お話ししたかったのだろう?」

声をかけながら、リチャード兄さまはそっと背中を押した。

リチャード兄さまは、こうやってすぐ僕のことを子供扱いするんだ。

クリスティーナにそんなこと聞かれたくなかった。恥ずかしいし、なんだか急に悔しい気持ちになった。

「兄さまには関係ない!」

大きな声を出したら、クリスティーナがびくんと飛び上がる。

優しくて頼りになるリチャード兄さまとクリスティーナを一緒にしたくなかった。僕の天使だ。リチャード兄様にも渡すものか。


「行くぞ、お母様が育てた花を見せてやる!」

花壇へ向かおうと、びっくりしたままのクリスティーナの手を強く引っ張った。

「いたい・・・」

ハッとしてクリスティーナの顔を見ると、大きな青い瞳からは涙が溢れそうになっている。

赤かった頬は青ざめ、白い手が震えている。

しまった、と思った時には遅かった。


「エド、小さな子には優しくしないといけない。」

そう言ってリチャード兄さまはクリスティーナをそっと背中に隠した。

僕の天使がリチャード兄さまに守られている。僕の天使なのに。僕の兄さまなのに。

リチャード兄さまに守られるのは僕のはずなのに。僕の天使は僕の隣で、笑ってないといけないのに。

「なんだよ!おかしいよ!」

叫びながら小さな天使を両手で押した。ガシャンという大きな音と子どもの泣き声、大人たちの悲鳴が聞こえた。


お茶会は終わった。

半年後、リチャード第二王子とクリスティーナ・ブランドン嬢の婚約が発表された。


あの日咲いていたユリの花はもう枯れてしまった。

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