記憶
「白か?」
「驚くほどに、白です。」
兄である陛下にも事情を説明し、キャンベル伯とその令嬢についての調査が入念に行われた。
イザベラ嬢の家庭教師も王宮侍女も務めたことがある高齢の未亡人で、キャンベル伯から得られた情報以上のことは出てこない。
「少し変わったことがあったとすれば、軟禁中のイザベル嬢が父親から礼儀や歴史などを学び始めました。念の為監視をつけましたが、内容も一般的な教養レベルでした。時々ぶつぶつと令嬢がつぶやいている、とのことでしたが『なんてことをしてしまったのか』という反省の言葉だったとのこと。」
「なるほど。教養不足と、病による妄言というところに落ち着きそうだな。」
「ただ、なぜあんなことを口にしたのか、という質問には口をつぐむのです。」
厄介だ。言えないことがある以上、簡単に放免ができない。キャンベル伯自体に瑕疵がないということがほぼ確定の現在、これ以上監視をつけることも難しい。
「メイフィールド閣下には話す、というのですが。いかがいたしましょうか。」
何かを企んでいる人間の常套句に苦笑いするが、少し悩んで答える。
「聞こう。ただし、護衛がわりにデイビッドもつけよう。」
***
(side イザベラ)
「メイフィールド公爵閣下、話を聞いてくださるとのこと、感謝の限りでございます。」
お父様から習った挨拶と礼の仕方は合っているだろうか。頭はあげてはいけない、筋力のないこの体では礼をとったままも難しい。
ぷるぷると震えて倒れるかと思った頃に、リチャード様が声をかけてくれた。
「良い、楽にせよ。」
ほっと力を抜き、顔を上げる。リチャード様は冷たい目で私を見る。
「私に話したいことがあるとか。」
「はい。その、まだ私は礼儀がなっておりません。また、これから話すことは信じてもらえないかもしれません。ただ、その、父は関係がないのです!私が思い込んで、勉強も足りなかったせいで、おかしなことを言ってしまっただけなんです!私が罰せられるのは当たり前ですが、お父様には罪はないのです。お父様には、何も、」
「それは内容による。話せ。」
呆れたような顔で見られたけど、ちゃんと言わなくちゃ。
「あの、私には、前世の記憶があるんです。」
「ゼンセ、とは?」
「あ、えと、生まれ変わる前の記憶です。」
「よくわからんが、昔の記憶ということで合っているか?」
前世って通じないんだ。異世界とかも無理かな。
「はい、えっと、夢の世界の記憶、のほうがいいかもしれないです。」
「続けろ。」
「その中で、私が読んでたWeb小説・・・物語の中の世界に、リチャードでん・・・メイフィールド閣下と、私が出てきます。私は、悪役令嬢でした。」