雀のさえずり
父はすでに退位した身であったため、国葬ではなく、国内の有力貴族だけが参加する少し簡易的な葬儀となった。
クリスティーナもブランドン侯爵夫妻、チャールズとともに参加した。
エドワード殿下の弔辞の際にはベールの下で目を伏せてはいたが、少し震えていたような気がする。
聖堂での葬儀の後、王城にて有力貴族を招く晩餐会がある。使用人たちも準備に追われている。
まだ未成年の俺はシガールームで待つこともできず、ぶらぶらと中庭で時間を潰すことにした。
あのお茶会の時のガゼボは今は無人だった。本でも読んで時間を潰そう。
「ブランドン侯爵家の方々、やっぱり美しかったわね!」
メイド達が晩餐会に飾る花の準備をしながらおしゃべりしているのが聞こえる。俺がここにいることに気づいていないらしい。
余計なお喋りを慎むよう注意するか、と思いながら本から顔を上げる。
「ご令嬢はベールをしていたけど、それでも可愛らしいお顔が透けていたわ!さすがは美男美女で有名なご夫妻の子よね〜」
「まあ、でも流石にまだ子供よね。王弟閣下だと兄妹にしか見えないもの。」
「元々はエドワード殿下の婚約者候補だったんでしょ?怪我をしたから王妃になれなくなったって。」
「でも、全然怪我なんかわからなかったわ。今からでもエドワード殿下の婚約者になれるんじゃない?」
「そうよね、私聞いちゃったもの。エドワード殿下が、『叔父上が羨ましい』って言ってたの!」
「うわ〜素敵!絶対エドワード殿下のお妃にピッタリよね!婚約者が交換になったら、王弟閣下はフリーじゃない!狙っちゃおうかな〜」
「あんたみたいなガサツは無理よ。」
「違いなーい!」
笑いながらメイド達は去っていった。
「エドが・・・?」
下品な雀どもを罰することも忘れ、俺はしばらくの間呆然としていた。
晩餐会のことはほとんど覚えていない。兄や義姉、エドワードが声をかけてくれたような気もする。
葬儀のあとすぐに、俺を気遣う丁寧な手紙と花束がクリスティーナから届いた。
白い雛菊の花弁が、なぜかどんどん濡れていった。