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誕生日プレゼント

我が国では、貴族女性のための学校というものが存在しない。

裕福な市民か下級貴族で、成人後に家庭教師として生計を立てる予定の女性が学ぶ淑女学校があるのみだ。

上級貴族は、男女関わらず家庭教師をつけて基本的なことを学ぶのが普通だ。

アカデミーという様々な学問に対する研究機関は貴族・市民・年齢を問わず優秀なものに門戸を開いているが、女性が入学することはない。


クリスティーナ嬢も文字の読み書きを家庭教師に習い始めたようだ。

少し忙しくしていることもあり、頻繁には会いに行けないのが心苦しい。

毎月の訪問はなんとか時間を見つけて続けているが、クリスティーナ嬢が7歳を過ぎたあたりからは手紙のやり取りも始めることになった。

はじめは家庭教師の手本を写したような内容であったが、最近は「庭のポピーが咲いた」「お母様に刺繍を習った」などの様子も書かれるようになった。


手紙でのやり取りを続けてしばらく経つ頃から、訪問の際には出迎えてくれるようになった。

「いらっしゃいませ、リチャード様。」

「こんにちは、クリスティーナ嬢。カーテシーがとても上手になったね。」

本来は婚約者なのだから、敬礼であるカーテシーは不要だ。だが、練習の成果を見せると言って、毎回出迎えの際に見せてくれるようになった。

家庭教師の一人、のような相手として認めてもらえているらしい。


「今日は、特別なプレゼントがあるんだ。」

前にも持ってきたことのある子供向けの本だ。だが、ちょっと特別な仕掛けをしたのだ。

「本に色がついているわ!」


「乾きやすい絵の具を開発してね、どうしても色のついた本を君に渡したくて。君の見た、青い花の色に塗ってみたんだ。」

「リチャード様が描いてくださったの?」

「絵は元々のものだから、私は色を塗っただけさ。上手く塗れなくて、何冊かダメにしてしまったよ。恥ずかしいな。」

ページを繰りながら、うっとりと、大事そうに、挿絵に触れる。

「もう直ぐ8歳の誕生日だろう?こんなプレゼントで申し訳ないが・・・」

「すごく!うれしいです!ありがとうございます。」

何冊か、と見栄を張ったが実際はかなりの数の本をダメにしてしまった。

毎日のように絵の具だらけになっている俺を見て、『本だけならまだしも、執務用の服を絵の具まみれにするのはやめてくれ!』と愚痴るデイビッドの姿を思い出す。

きらきらと瞳を輝かせる彼女の姿に、頑張った甲斐があったと、俺も嬉しくなった。


その後、本をみたブランドン侯爵からのアドバイスを受け、挿絵に色を後から塗った本を販売するための出版社を立ち上げたのはまた別の話だ。


***


(side クリスティーナ)


「またその本を見ているの、ティーナ。」

お母様が声をかけるまで、本に夢中になっていて気づかなかった。

リチャード様からもらった本は、私の宝物になった。

「見て、お母様と一緒に見たお花畑とおんなじなのよ。リチャード様が青いお花の絨毯にしてくださったの。」

お母様が嬉しそうに笑ってくれる。


「そうね、あの時のことが思い出されるようだわ。あら、この妖精・・・」

青い花畑の中には、桃色の服をひらひらとさせた可愛らしい妖精が飛んでいる。

「ティーナにそっくりね。金の巻き毛に青い目。我が家の妖精さんが絵の中にもいるみたいだわ。」

「わたし?」

リチャード様が私のことを思いながら色をつけてくれていたのかしら。

なんだか、耳をこしょこしょとくすぐられたような、気持ちになった。

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