花畑の妖精
チャールズが成人になるまでは、人前では『リチャード閣下・チャールズ殿』と呼びあうことになった。
一応今は俺の方が爵位が上だし年齢も差があるので、対等とはいかないからだ。
ただ、私的な場では呼び捨てで構わないということにした。
クリスティーナ嬢と婚約者になってから1年が経つが、まだ乳母のスカートから出てきてはくれない。
最近は、持っていった本を俺が読むのを離れて聴く、というところまではきた。
「・・・おしまい。この本はどうだった?面白かったかい?」
「お花の絵が書いてあるの?」
「今日持ってきた本は綺麗な絵がたくさん描いてあるよ。何色のお花が好きなんだい?」
少し悩んだ後、答える。
「青い小さなお花が好きよ。お母様と一緒に花畑に行ったの。あのね、遠くまでずぅっと青い絨毯みたいになっているの!」
「ネモフィラのことかな。この本にも、妖精が遊ぶ花畑の絵があるけど似てるかもしれないな。」
「見せて!」
初めて俺の方へ寄ってきて、本を覗き込んだ。
どうやら火傷の痕はだいぶ薄くなってきているという話だが、首元から覗く跡にはそれとわかるくらいの痛々しい色がついている。
「きっとこのお花ね。でも、色がついてないわ・・・」
「そうだね。色を塗った本があればいいのにね。」
持ってきた本の挿絵には色がついていない。版画のように絵をいくつかに分けて色を載せる方法もあるようだが、インクが別のページについてしまうなどで不向きだ。
「ネモフィラはもう終わってしまったけど、今はヒースの花が見頃だね。メイフィールドの地には丘が全てヒースで囲まれているところがあって、丘の上から見ると紫の絨毯のようになっているよ。」
「見てみたいな・・・」
「きっといつか連れて行くよ。君も気にいるはずだ。」
紫のヒースの中で踊るクリスティーナ嬢を想像する。丘の上から望む景色を見せてみたい。荒地を飾る花の妖精のようだろう。
隣を見ると、ふんわりと笑う妖精が手の届くところにいた。