君と向かう日々
僕には友達がいる。
小学校から帰った僕はすぐにいつものあの場所へと向かう。
まだ少しオレンジには遠い夕日に包まれながら、両手を大きくふりながら僕は走った。
途中でクラスのやつらが下校するのとすれ違った。
どうしてだろうか?
僕は彼らとは向きあえず、めを歩道と車道の間の白い線に落として、できるだけ早く走った。
何もきこえないふりをして。
やっとのことでたどり着いたのは僕にとってはちょうどいいくらいの、町の小さなペットショップ。
僕はいつものように名前の知らない綺麗なお姉さんにあいさつをすると、
「あら、こんにちは。リュウトくん。あっちでグレンガーくんがまってるわよ?」
と笑顔で迎えてくれた。
そんなお姉さんをみあげもせずに一度頷き、僕は狭い店の奥の角のところへ言った。
そこに君はいた。
篭のなかにおさめられた小さなおてだまみたいなほかの鳥たちとは違って、なんの縛りもなくどこか偉そうな君は、いつものように片足で立ち、大きな眼二つを顔ごと僕に向けてくれた。
僕は負けないように見つめ返しながら近くの段ボール箱の上にすわる。
そうすると、負けず嫌いな君はやはり正面から僕を見つめた。
僕の友達の名前はグレンガーって言うんだ。初めてであったのはまだ僕が1年生の頃。お父さんと一緒にたまたまここに寄ったときだ。
そこで僕は大きな眼をした君がほんとに近くにいるのに気付いてびっくりした。
でもその日はとってもいやなことがあったから、僕はなんだか悔しくて君を睨んだんだ。
そしたら君は同じように睨みかえしてきた。
僕はその日、お父さんが呼ぶのもきかずに君を最後まで睨んだ。
なんだか悔しくてそれから毎日毎日、僕は君のところへいき、君と僕は正面から向きあった。
そして君と僕は友達になった。
お店の人から名前をきくと、ミミズ だと言った。
僕はそんなことはないと思った。そんなはずはないと思った。
だから僕は、大好きなアニメの中の主人公のライバル、グレンガーと、君を呼ぶことにしたんだ。
そんなコトを考えてると君の左ほっぺをオレンジの夕日が照らしていた。
「グレンガーはほんとはおじいちゃんなのよ。」
お店の人が言った。
僕はそんなことはないと思った。そんなはずはないとおもった。
その日はずっと二人でお店の入口に電気がつくまで過ごした。
次の日、グレンガーはいなかった。
お店の人にきくと誰かが連れて言ってしまったんだと、とても真剣に、
グレンガーはどっちにしろもう長くは一緒にいられないから、親切な人のところへ行ってしまったと、なんだかわけのわからないことを僕に言っていた。
僕は怒って、弟のヨウスケみたいにお姉さんにグレンガーの居場所をきいた。
その人はお店のすぐ近くにすんでいて、大きな庭があった。
そこから女の子の声がした。
僕は中に侵入して庭に行った。
そこでは女の子が、グレンガーにリボンをつけて一緒に向きあっていた。
「グレンガー返せ。」
弱い僕の声がする。
女の子は泣いてしまった。
グレンガーのことをワッフルと勝手に呼びながら何か言っていた。
お家の人が中からでてきて僕は泣いてしまったんだ。
それから、女の子のお家に僕は毎日走って、遊びにいくようになった。
僕らがグレンガーの名前のことで喧嘩しだすと、
グレンガーは上の名前はワッフルなんだよと、女の子のお母さんが僕に教えてくれた。
女の子はよくグレンガーを抱きしめて、僕にあっかんべーをした。
グレンガーはそれでも、僕をずっと
ずっと正面から見てくれた。
グレンガーが、死んだ。
僕は女の子に、おまえが強く抱きしめるからだ、と何度も何度も叫んだ。
女の子は違うと何度も何度も泣きながら叫んだ。
初めて喧嘩をして、初めて女の子を殴って、噛まれて。
とうとう僕らは二人になってしまったんだと気付いたんだ。
そのあと、グレンガーは僕の初めての友達だったんだと、
女の子に教えてあげた。
どうしてだかわからないけど、そんなことを言葉に出したのははじめてだったけれど、
僕は言葉にだして初めて、そうなのかと自分に向き合った。
すると、女の子は自分の病気のことや、学校にいけないこと、友達がいないこと、
そして、彼女にとっての初めての友達は、僕なんだと言ったから、
あの頃の僕は正面から君を見つめ、
彼女もまた僕を見つめ返した。
その理由も意味も、僕たちが理解したのはそれからずっとあとのことなのに。
今も僕は彼女と正面から向き合っていて、
自分や他の人たちとも正面からむきあえる。
彼女は今も、僕と正面から向き合っていて、
病気とむきあって生活している。
そうすることで、
僕たちは彼の短く小さな他愛もない命と、
それでも大切な命と、
向き合って、
生きているんだと実感できるんだ。
いのちを実感できるんだ。
そんなこと思い出していると、
生まれたばかりの娘を抱えた彼女が僕に向かって、
「この娘とも、向き合って行こうね。」
などというから、
泣いてしまったじゃないか。
終
初めての投稿作品。
初めての三題話です。
幼少の頃の思い出の中というのはいつもどこか憂いを含んでいます。
これをよんでくれた方とは、是非とも長いお付き合いができたらいいな、思います。
ぜひ他の作品もどうぞ
自分としては三題話シリーズの 四 伍 がいいかなと思います。
ではでは・・・