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幸せの予感


 公爵夫人の茶会の後から、エリンの姿を見ることはなくなった。忙しい毎日の中で、シンシアの中からエリンの存在は薄れていき、そのうち気にならなくなっていった。


 あれほど心を悩ませた存在だというのに、単純なものだ。


「ため息。何か気になることでも?」


 結婚の打ち合わせをしていたブライスが不安そうにシンシアを見つめる。シンシアは少しの変化でも狼狽えるブライスに笑って見せた。


「そんな深刻な話ではないのよ。ブライス様がけじめをつけてくださったおかげで、あまり思い出すこともなくなったと思って。まだ十日ぐらいしか経っていないのにね」

「ああ、ガーション子爵令嬢か。彼女は隣国に戻ったからね」

「え?」


 知らなかった事実に、目を丸くした。


「流石に今回の騒動は実家でも咎められたらしい。領地に戻って閉じこもっているか、隣国に戻って縁を切るか、決断を迫ったそうだ」


 話を簡単に聞けば、ガーション子爵家はすでにエリンの兄に当主が代わっており、両親と違って曖昧にしなかったそうだ。オドネル伯爵家に泥を塗ったこともあって、流石に何もしないわけにはいかずといったところだ。


「それで縁を切って、隣国に戻ったと」

「それが一番いいんじゃないのか? あちらの国は男女とも解放的で、結婚しなくても白い目で見られることはないそうだよ」

「ふうん」


 シンシアは納得したように頷く。ブライスはあまりの無関心さに、首を傾げた。


「あまり興味ない?」

「ええ、もう終わったことだし。もちろん、嫌いだから不幸になってほしいという気持ちもないわ。わたしの見えないところで過ごしてくれるのならそれだけで十分よ」


 もしそれで、幸せになっても不幸になっても、そうか、としか思わない。

 シンシアは自分の幸せのためには排除することもあるが、影響がないのならそこまでの関心はなかった。


「シンシア、愛しているよ」


 ブライスは向かいの席に座るシンシアを熱心に見つめ、そう告げた。


「何、急に?」

「僕は確かに情けないところも多いかもしれないけど、それでも君に相応しいように頑張るから」

「……それ、決意表明なの?」

「そうなるのかな? ただ言いたくなったんだ」


 何ともふんわりとした理由だが、シンシアはそれだけで十分楽しくなっていた。言いたくなったというのと同じぐらい、ふわりと浮かんだことを告げてみる。


「じゃあ、一生かけてわたしを幸せにしてね。この政略結婚は当たりだったと言いながら寿命を迎えたいわ」

「そんなことでいいのかい?」

「そんなことと言うけれどもすごく難しいわよ? 少なくとも五十年はわたしを幸せにしないといけないのですもの。山あり谷あり、時々大荒れになっても。それでも最期の瞬間にはあなたの妻で良かったかもと思わせてね」


 にこにこと言われて、ブライスは至極真面目な顔をして頷いた。


「沢山の子供たちと孫たちに囲まれて、満足な夫だったと評価すればいいよ」

「すごい自信ね」


 二人は見つめ合うと、笑い合った。


Fin.


読了、ありがとうございます(^人^)

そして、誤字脱字報告もありがとうございます。注意はしているのですが、情けないことに本当になくならなくて。いつも助けられています。


お付き合いしてくださる皆様に心からの感謝を。

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