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11.闇の魔力から生まれるもの

リッカルドはすっかり闇の魔力の塊に呑まれている。

これだけ濃く固まった魔力を見るのは初めてだ。

空間が不安定になって、歪み始めている。


リッカルドはフィオナの実の兄だ。

父親も母親も同じ。

フィオナと同じように闇の魔力を内包していたとして、何の不思議もない。

フィオナは一度だけ瞳の色が変わった話を聞いたことがある。

ゼロスが言ったのだ。

黒を通り越して赤になってしまった、と。

リッカルドの瞳は闇の魔力が強くなることによってその色を変えてしまったのだろう。弟をその手に掛けたことも影響して、より自分の精神を蝕む方向に。

だとしたら、本当に呪われていたのはリッカルドの方だ。


…濃い闇の魔力が凝ると、どうなるのか。

フィオナはリッカルドから離れて部屋の扉を雷の魔法で叩き割る。

外で控えていたアキレウスと侍女が目入って、とっさに背に庇った。

そのまま自分から背後にかけて魔法を遮る障壁を貼る。


闇の魔力の塊が薄紅色の部屋を侵食してゾワゾワと蠢いている。

広がったその先端があちらこちらでブツンと切り離される。

それは揺れるように転がって、形を変えながら育ってゆく。


「…魔物が生まれて来るところ、初めて見ました。」

「そんなの私だって初めてです。」


そして一生見たくなかったんですが。

他人事のように言ったアキレウスに突っ込みながらリッカルドがいる筈の場所から距離を取る。


「陛下はアレ、どうなりますかね?」

「わかりませんよ。私を何だと思ってるんですか?…とりあえず、会う人に伝えながら逃げててください。」


侍女のお姉さんが想像以上に冷静に尋ねるので呆れる。

魔法魔物大辞典みたいに思われても困るんですけど。

お姉さんはとりあえず人が多い方へと足早に駆けて行ってくれた。


「…姫様そんな元気に喋れたんですね。」


アキレウスがびっくりした顔でこちらを見ていた。

今気になることそれ?!余裕だね君も?!


「…非常時の対応は苦手なんですよ。アキレウスも逃げたらどうですか?」


フィオナはアキレウスから目を離すと魔力の中心を図りながら、モゾモゾと動き出した魔物達の種類を判別しつつ同時に魔力を練ってゆく。


「…逃げませんよ。」


アキレウスはフィオナの一歩前に出ると、スラリと剣を抜いた。


「これ以上後悔しながら生きていくのは、性に合わないので。」


一歩も引く気はないと言うように真っ直ぐに魔力の塊を見つめる。

その目はどこか楽しそうで、まだ可愛かった20年前のアキレウスを思い出させた。

アキレウスの持っている普通の剣では魔物には大した攻撃は出来ない。そんな事は本人も分かっているはずなのだが。

小さく息をついて、アキレウスの肩に手を掛ける。


「…そうですか、それでは私を守ってください。」


フィオナはそう言うと、アキレウスの剣に向かって手を伸ばした。

剣の切っ先に向かって手をかざしてゆく。


「…闇を凪払う光の加護を。」


小さく唱えると剣の刀身が僅かに光ったようだった。


「姫様、有難うございます。」

「…気持ち程度の効果しかありませんからね。」


すっかり成長した魔物が四方に向かってゆっくりと、しかし確実に動き出している。

アキレウスが自信満々の笑顔でこちらへ真っ直ぐに向かってくる小型の魔物に剣を払った。

触れた所から魔物が黒い霧になって宙に消えてゆく。


「オルフェオの剣ほどではないけれど助かります。」

「人を選ぶレベルの聖剣と比べないで?!」


フィオナが叫びながら手を振ると、小さいけれど濃密な雷が魔物へ向かっていった。

小さな魔物は蹴散らかされて、霧に消える。

今はまだ、小さい。

けれど闇の魔力は少しも減ったように思われない。

だとしたら、これからゆっくりと時間をかけて生まれてくるのは…


「…これ、私達で何とかなりませんよね?」

「ならないでしょうね。」


****


「ほら、やっぱり何とか成らなかった。」


アキレウスは今や楽しくて堪らないという声で言った。

フィオナとアキレウスの前には二人の身長を軽く越えた大型の狼の魔物が眠たそうな目を次第に覚まして立ち上がった所である。

わらわらと湧いて出る中小の魔物はとっくに相手に出来なくなって、二人を避けるようにして走り去っていくのを放置している。

時間はあった筈だから誰か対応出来ていればいいが、こちらへ誰も来ないところを見ると過剰な期待は出来ない。


「あの後ろに見える影はでっかい蜥蜴かな…」

「ああ姫様、でっかい蜥蜴はドラゴンって言うんですよ?」


知ってます。

見なかったことにしたいです。


そろそろ逃げようと何度も言おうとしたのだけれど、アキレウスは想像以上によく働いた。

小さい魔物は凪払うし、大きい魔物も急所を熟知しているようで、フィオナの魔法で軽く叩いて様子を見ながら的確に止めを刺していった。

二人は擦り傷だらけ、服は青黒い魔物の血に染まって惨憺たる有り様だが、体力を消耗しているくらいで、大きい怪我はない。

ただ魔物はかなり大型化していて、いい加減手に負えなくなってきている。


――――あのドラゴンが顕現したら…逃げるしかないな。


「私、魔物と戦うために魔法使いになった訳じゃないんだけど…」


そう。生活を楽にするために(ゼロス様に無茶振りされて)魔法使いになった。

その応用で食材狩りをするようになったら、そのまま魔物退治が出来るようになっただけである。

アキレウスが魔物を退治できるのも、近衛ではなくなって必要に迫られたからだろう。

ここにいるのは拐われたからだし。


「…何でこんな事に?」


城で生まれた魔物は城で責任もって始末して欲しい。

(厳密には国王から生まれたんだけど)


「姫様、現実逃避はそれくらいで。」


狼の魔物が体を低くして力を溜めたかと思うと、バリバリと耳をつんざくような音を立てて周辺に強力な雷を落とした。

体が震動でビリビリと震える。

フィオナの結界は辛うじてその雷を防いだが、同時に城を壊しながら突進してきた狼が大きく口を開けて踊りかかってくる。

脇を抜けたアキレウスが首を目掛けて剣を突き立てるが、弾かれてしまった。

…これはまずいな。

即座に結界を強化して炎の槍を左右から飛ばすが、突き刺さったそれは足止めする程の威力がない。


(あー、これは死んだ?)


フィオナの視界いっぱいで大口を開けた狼が牙を剥いている。

痛そうな死に方だなと思った瞬間、

―――目の前が真っ白になった。

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