表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/21

06 オッサン大移動

 冒険者ギルド『フォーチュンクッキー』の台所に、突如として現れた謎のオッサン。

 そのあまりの破天荒さにギルドメンバーに衝撃を与えていたが、メンバーの手によってとうとう取り押さえられてしまった。


 ギルドの幹部のひとりである、聖騎士オネスコが問いただす。


「ギルドに勝手に入ってくるだなんて、ホームレスどころか押し込み強盗じゃない!

 あなた、いったい何者なの!?」


「いてて……勝手に入ってきたわけじゃねぇよ。そこにいる3人組に連れてこられたんだ」


 と、戦士たちによって抑え込まれていたオッサンは、アゴである人物たちを示す。

 そこには「あちゃー」という顔をしている、ネイサン、グロック、アーチャンの姿が。


 ネイサンが申し訳なさそうに手を上げる。


「そこにいるオッサンはジャックって言って、『トレジャーハンター』なんだよ。

 とんでもない腕前で、アタイらのかわりに『キングリザーダッグの胆石』を剥ぎ取ってくれたんだよ」


「えっ……えぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーっ!?!?」


 またしても驚愕が巻き起こるなか、ネイサンたちは『毒眼竜の洞窟』であったことを説明した。

 オネスコは眉をひそめる。


「ノーマルのリザーダックから胆石を剥ぎ取るだなんて……しかも、3つも……。

 まったく信じられない話だわ……」


「でも本当なんだよ! アタイらは確かにこの目で見たんだ!

 ちょうど前にいたギルドをクビになったっていうから、うちのギルドに入ってもらったらどうかと思って!」


「この人をギルドに入れるですって!? とんでもない!

 うちにトレジャーハンターを入れる余裕なんてないのは知ってるでしょう!?」


 トレジャーハンターというのは、戦士や魔術師などの他の職業(ジョブ)に比べて戦闘への貢献度が低い。

 そしてモンスターの剥ぎ取りであれば、他の職業(ジョブ)でもできなくもない。


 そのため、弱小なギルドではトレジャーハンターを置かず、他の職種が剥ぎ取りを行なうのも珍しくはなかった。


「それに、この人の素行を見たでしょう!?

 塩フォーチュンクッキーを平気で食べるどころか、物欲神センサー様まで信じないだなんて!

 まったく、冒険者としてあるまじき行為だわ!」


 オネスコは猛反対。他のギルドメンバーもどちらかといえば反対の立場であった。

 しかし、ある人物の声が、鶴のように舞い降りる。


「困っておられるようですから、入れてさしあげてはいかがでしょう」


 それはギルド長であるプリシラであった。

 「おおっ……!?」とメンバー全員が驚嘆する。


「ぷ……プリシラ様が、意見を述べられた……!」


「め、珍しいこともあるもんだ……!」


「しかも、オッサンをギルドに入れるのを、賛成みたいだぞ……!」


 大聖母ママベルが、首のカウベルを微笑みとともに鳴らす。


「ちりんちりーん。それじゃあ決まりですね」


「ちょ、ママベルさん!? あなたまでなんてことを!?」


「オネスコちゃん、プリシラ様がご自分のお考えをおっしゃったのですよ?

 こんなこと、初めてではないですか?」


「うっ……! そういえば、確かに……!」


「ママはプリシラ様の、初めてのお考えを尊重してさしあげたいの。

 オネスコちゃんもそうでしょう? ねっ?」


「わ、わかったわ……!」


 幹部3人娘の賛成票が投じられ、ジャックは晴れて『フォーチュンクッキー』の新メンバーとなる。

 しかし、当のオッサンには新入りらしい態度は微塵もなかった。


「入れっていうなら入ってやってもいいけど、金くれよ」


 オネスコがクワッと眉根を寄せ、「なんでよ!?」と真っ先に食ってかかる。


「俺は装備もなにもかも無くしちまったうえに、無一文なんだ」


「新人の装備は、持ち出しって決まりがあるのよ!?」


「堅いこと言うなよ、キングリザーダッグの胆石を納品したら、ギルドの昇格は間違いなしだろう。

 ケチなギルドは誰も入りたがらないぜ。大盤振る舞いなのは、眉間のシワだけにしとけよ」


 肩をピクンとさせ、「ふふっ!」と笑うプリシラ。


「わかりました。それでは支度金を差し上げましょう」


 「プリシラ様!?」とオネスコは止める。

 しかしギルドの大蔵大臣であるママベルは、ギルドの全財産が入ったガマグチを取りだし、


「はあい、どうぞ、無駄遣いしちゃいけませんよぉ」


 ニートの息子にお小遣いをあげる母親のように、ジャックにチャリンと金貨を渡していた。



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 そしてジャックの言っていたとおりになった。

 『キングリザーダッグの胆石』を3個納品したフォーチュンクッキーは、その功績が認められて昇格となる。


 『砂塵級』から『木片級』に。

 長年にわたり、イモムシのように地の底で蠢いていた弱小ギルドは、ついに日のあたる大地へと出ることができたのだ。


 しかし、昇格を果たしたのは彼らだけではない。

 かつてジャックが所属していたギルド、オールグリードも幻のレアアイテムである『猛毒肝』を納品し、『白金級』から『聖輦(せいれん)級』に。


 聖輦級のギルドはまだこの世界には存在していないので、事実上、世界ナンバーワンギルドという栄光の座を獲得していた。


 オールグリードはすでに各国にギルドの支部を展開していたので、このニュースはグロリアス王国だけにとどまらず、世界じゅうを席巻。

 ギルドといえば『オールグリード』という認識が、世間に広がりつつあった。


 その立役者であったジャックはもう、あのギルドにはいない。

 といってもこれは、たったひとりのオッサンが、天秤の右から左に移っただけのこと。


 オールグリードにはまだ、トレジャーハンターがごまんといる。

 たったひとりがいなくなったところで、天秤が傾くはずがない。


 ……果たして、そうなのだろうか?


 そう、これは栄枯盛衰における、最後の栄華。

 城は土台の要石を失っても見た目上は変わらないが、崩れるときはあっという間。


 それでは、これからお見せしよう。


 高さは天まで届き、頑強さは難攻不落といわれた城が、傲り高ぶったせいで瓦解してく様を。

 地の底を這うも、正しき心を失わなかったサナギたちが、蝶となってはばたく様を。


 その中心に立っていたのは他の誰でもない、ただのオッサンだということを……!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ