96話: 花よりきゅうり
「お待たせー!」
秋本の元気な声とともに、四人の女子が姿を表した。
チーナはトップスとボトムス両方にフリルがあしらわれた、白いフレアタイプの水着を身に着けている。
白い腹部、細くしなやかな脚、きゃしゃな体が適度に露出するそのデザインに、俺の顔が赤くなったのがわかった。
あぶねえ、太陽が照ってて助かった……。
『ヘイ、ヨリ! 何か感想はないのかな?』
チーナがずずいっと俺の近くに寄ってきて、手を後ろ手に組み、下から挑発するように見上げてくる。
くっ、ストレートに聞いてくるとはさすがはチーナ、意地が悪い……。
だがさすがに慣れたぞ。この程度は予想済み。
この時のために、俺は反撃のセリフを用意していたのだ!
『すごく似合ってるぞチーナ。可愛すぎて、襲っちまいたいくらいだ』
ロシア語だから、こんな恥ずかしいセリフも周りにはわからないはず。
いつもやられてばかりの俺じゃない!
さあ赤面しろチーナ!
『今はだめ。ちゃんと二人っきりのときにしてね』
なん……だと……。
いやまて、これは冗談だ。
からかわれてるだけだって分かってるけど……ぬおお!
『あっはは! チーナ先輩の方が上手だったね兄さん』
ここで、チーナの後ろから笑い声。
その声の主はリリーだった。
リリーはチーナと同じくフレアタイプの水着だが、色は深い青色。
全体的に色の白いリリーによく似合っている。
『ま、兄さんにしてはよく頑張ったけどね』
『……』
そういえば、リリーはロシア語が分かるってことをすっかり忘れていた。
妹に見せる兄の姿としては最悪だ……。
「おう宮本! にっににににに似合ってるな!」
「あー、うん。ども」
俺たちの横では、宮本の前できょどる細井の姿が。
宮本はオレンジのリボンデザインの水着。
ワンピースタイプにしないあたり、なんだか若干の意地というかプライドを感じる。
あとは秋本か……。
秋本も、総司に水着を見せているのだろうか。
あいつがどんな反応をしているのか見てみたくなった俺は、二人を探すよう視線を動かす。
見つけた。
秋本は赤い柄物のビキニに、ボトムスは長いパレオを巻いている。
だがしかし様子がおかしい。
総司の近くにいるでもなく、リリーの少し後ろで、両手を握りしめて肩を震わせていた。
「おい、どうした秋本」
「どうして……」
「え、なんだって?」
俺の問いかけに、小さな声で何か答える。
よく聞き取れなかった俺が秋本に近づくと、彼女はがばっと顔を上げてこう叫んだ。
「どうして伊織くん! 上着来てるのさあああああ!」
「はああああ⁉」
「早く脱いで! 君の素敵な体を隠すなあああ!」
すさまじい剣幕で、俺のラッシュガードを脱がしにかかる秋本。
いやおかしいおかしいおかしい!
何なのこの状況⁉
え、力強いんですけど!
「おい総司! お前の彼女がほかの男の体求めてるぞ! なんとかしろ!」
「きゅうりうっま」with一本漬け
「そうじいいいいいいいいいいいい!」
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筋肉イエイイエイ騒動が落ち着いてから、俺たちは早速海へと繰り出した。
去年のクラゲ騒動をふまえてしっかりと注意を払った分、今秋は特に事故もなく、今は浜に戻り、女子勢がビーチバレーを楽しんでいる光景をパラソルの下に寝そべって眺めている。
「もってこーい!」
某バレー漫画よろしく、全力ジャンプでスパイクを狙う宮本。
しかし悲しいかな、渾身のジャンプでもその手がネットの高さを超えることはなく、そもそもボールにも届かず、むなしく空を切った。
「明里ちゃん、ネット下げる?」
宮本とペアを組んでいる秋本が、孫を見るような目で提案するが、
「情けは無用! 日本陣(人?)ペアの底力を見せてやる!」
と言って、外国人ペアのチーナとリリーにビシッと人差し指を突き付ける。
「日本代表チームだって、ちっちゃくても強いんだから!」
「ちっちゃい日本代表も、ネットから手は出せますけどね」
「んなあああ!」
「がんばれ宮本! お前なら飛べる!」
楽しそうな女子勢+審判細井。
それを眺めながら、俺は隣の総司に話しかける。
「おまえらさあ、カップルならもう少しいちゃつけよ」
総司と秋本は、カップルらしくスキンシップをとっている姿を全く見かけない。
さっきだって、お互いの水着(筋肉は除く)には一切の感想もなし。
「お前はいちゃつく俺が見たいのか?」
「……吐くかも」
「だろうが」
そもそも、他人の苦患にしか愉悦を感じられない総司が女子と付き合っていること自体、俺にとっては不思議でたまらない。
それに秋本だって、こいつとは真反対の性格だろうに、いったい何が琴線に触れたのだろうか……、
「やあ伊織。奇遇だね」
その時、頭上から俺の名前を呼ぶ声がした。
「んあ?」
首をまげて呼ばれたほうを見やると、
「なんだ、おまえか」
そこには海パン姿の高原がいた。
「バスケ部の後輩と海に行こうって話になってさ、そしたらたまたま君たちを見かけたものだから、声をかけに来たんだよ」
そこで総司が、目線だけ高原に向けて尋ねた。
「聞いてもいないのに、妙に説明するんだな」
ん? 今の高原の言動、そんなにおかしなものだっただろうか。
偶然会ったのだから、そこにいる理由を話すくらい普通のことのように思える。
「いや別にその……あれだよ、普通に気になるかなと思って」
しかし高原は、総司の言葉に妙に慌てた反応を見せた。
「この時期に、最寄りの海水浴場で顔見知りに会うなんて、珍しいことでもないだろうに」
「そうかい? 僕は……驚いたけど」
「だいたい高原、最近お前、伊織に絡むことが多くないか?」
確かにここ数カ月、高原と話す機会が気持ち増えた気がする。
購買でばったり会ったり、体育のペア分けで一緒に組もうと誘われたり。
別に仲良くなったとかそんな感じはしない。たまたま話す機会が多かった……という感じだ。
「ぐ、偶然に決まってるじゃないか。もちろん、伊織とも仲良くしたいとは思っているけどね」
「伊織……ね。まあそういうことにしといてやるか」
そう言って総司は、話は終わったとばかりに目を閉じた。
「なんだこいつ……」
「ところで伊織、こいつが君に話があるって言うから連れてきたんだけど、君たち知り合いだったのかい」
そう言った高原の後ろから、もう一人誰かが姿を表した。
俺より少しが低いくらいの男子。
こいつ、どこかで……。
「ああ、あの時の百円坊主」
「誰が百円坊主っすか!」
そいつは、数日前自販機の前で会った後輩だった。
「っていうかさっき……まさかお前、その髪でバスケ部なのか⁉︎」
「坊主がバスケして悪いかぁ!」
漫画のように目を三角にして抗議する坊主。
まあ確かに偏見かもしれないが、絶対野球部だと思ってた。
「ところで百円、お前俺になんの用事があるってんだ?」
「百円じゃなくて後藤です。それと先輩……」
そこまで言って一度口をつぐんでから、キッと俺を睨み、再度口を開いた。
「あんたが、あのコックスだったんすね」
その目には、静かに震える怒りの感情が見て取れた。
「あんたが、自分の家族をバラバラにした、コックスだったんすね」
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つつましい胸のフリル水着は正義。




