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95話: それがその……いいんだろうが

最近暑いですね……。

おおっと、季節ネタがやってきましたよっと。

「あ、そうだ。俺飲み物買ってくる」

「да. Заботиться」


 昼食を食べ終えた俺は、何か飲み物を買ってこようと席を立った。

 チーナのいってらっしゃいの言葉を後にして、別館との間にある自販機に向かう。


 そういえば昨日、自販機で伊勢海老売ってる夢見たな……。


 なんてことを考えながら渡り廊下を歩き、目的地に着く。

 するとそこには、既に一人の男子生徒がいた。


「あ、すんません。ちょっと待ってください」


 俺に気づいたその男子はペットボトルを片手に、小銭を回収しようと手を伸ばした。

 野球部のような坊主頭に、間肉質な体。

 下級生だろうか。

 なんとなく、ドラマで見た昭和の男子学生を思い出した。


「あっ」


 チャリン。


 順番を待っていると、坊主頭が小銭を一枚取りこぼした。

 カリカリカリ……。

 床に落ちて転がっていく百円玉。

 そしてそのまま、自販機の下へ……。


「あぁっ!」


 そして、帰らぬ金となった……。


「そんな……」


 頭を抱えて、ぬおおぉっと慌てる坊主頭。

 そんな中ふと右を向いて、俺と目があった。

「あのすんません、手伝ってもらってもいいっすか?」

「手伝う? 何を?」

「拾うのをですよ」

「そう言ってもなあ……ああ、そうだ」


 俺はポケットからスマホをとりだして、ライトをつける。

 そして、白い明りを自販機の下に差し入れた。


「照らしといてやるから腕突っ込んで取れ」

「あ、ども……」


 そう言って、見やすくなったであろう隙間に顔を近づけ……、


「すんません、代わってもらっていいすか」


 ピンチサーバーを要求した。


「なんでだよ」

「あのその……思ってたより……ばっちくて……」


 気まずそうに目をそらす坊主頭。


「いやしらねえよ!? お前の百円なんて何の思い入れもねえよ!」

「そこをなんとか!」

「自分で何とかしろこの百円坊主!」

「人を十円ハゲの進化系みたいに言わないでください!」


 やんややんやと言い争いながら、俺も自販機の下を軽くのぞいてみる。

 するとそこには……、


“燃やすしかないよ、この森はもうダメじゃ。”


 そんな世界が広がっていた。

 確かに、とてもではないがこんな腐海におててを差し入れたいとは思わない。


「元気、出せよ……」

「なに勝手にあきらめてるんすか!! 百円だって、親が必死に稼いでくれた大事な百円なんですから!」


 そう言って、坊主は覚悟を決めたのか袖を肩口までまくり上げる。

 そしてついに、その腕をえんがちょの世界へ差し入れた。


「ああああぁむり……なんかもじゃもじゃするっす……」


 非常に不快そうな顔をしつつも、俺の明かりを頼りに百円玉を探す。

 そして数分ほどまさぐった後ついに……、


「あった!」


 腕を引き抜いたその手には、黒く汚れた百円玉が握られていた。


「おう、よかったな」

「うっす! 放課後に妹とアイス食べに行く約束してたんで、ほんとよかったっす!」

「へえ、兄妹仲がいいんだな」


 俺たちとは大違いだ。


「そうっすね。やっぱ家族は仲良くないといけないっす。だから、コックスって三年は許せないです。ところで、どこか手洗えるところないすか?」

「……そこの廊下すすんだとこにあるぞ」

「どもっす!」


 そう言って立ち上がり、俺に背を向けて走り出す坊主。

 しかし数メートル進んだところで、立ち止まってこちらを振り返った。


「ところで先輩、名前聞いていいっすか?」

「伊織だよ」

「自分は後藤って言います。伊織先輩、助かりました。ありがとうございました!」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 そして迎えた日曜日。


 一年前と同じ海岸沿い、一年前と同じ道を、一年前と同じバイクで走る。

 後ろにはもちろんチーナ。

 去年と違うのは、背中に伝わる柔らかな温かみを、思うさま堪能していいという俺の立場だ。


「ついたぞ、チーナ!」


 海水浴場備え付け、道路沿いの駐車場の一枠にバイクを止める。

 ヘルメットを取ってバイクを降り、チーナが降りるのにも手を貸す。


『ありがとう。運転お疲れ様』


 そう言ってチーナは体を寄せ、俺の頬にキスをくれた。


『お、おう。どういたしまして』


 俺もチーナの肩に手を添えて、チークキスを返す。

 そういえば最近、彼女からのスキンシップが、少し増えた気がする。

 もともと俺との距離感は結構近いほうだったけど、触れ合う機会が多いというのはやっぱり、特別な関係なんだと嬉しくなってしまう。


「やっほー伊織くん! チーナちゃん!」


 そこへ、少し離れたところから、秋本や他のメンバーも合流してきた。

 秋本は小走りで、発案した宮本よりテンションが高そうに見える。

 いつもは常識人枠の彼女だが、筋肉にかかわることになると一気に個性を発揮してくるんだよなあ。


「総司も、えらく早かったんだな」

「由紀が……家まで迎えに来た」


 ほんと、筋肉のことになると無限の行動力を発揮するな……。

 これには、チーナも少し苦笑い。

 すると駐車場に停まっていた車の一台の扉がバタリとあき、中から一人の少女が降りてきた。


『お姉ちゃん、送ってくれてありがと』

『気を付けて楽しんでらっしゃい』

『はーい』


 目もくらむような長い銀髪。

 リリーだ。


『おーいリリー、こっちだ』

『はーい。今行くよ』


 そう、今回の海水浴にはリリーも呼ぶことにしたのだ。

 宮本や秋本が、どうも遊んでみたかったらしい。


 これで全員集合。


 初対面のメンバーは、俺主導で軽く自己紹介を済ませる。

 そして、


「それじゃ、さっそく着替えて海で遊ぼう! リリーちゃん、こっちだよ」


 秋本の号令の下、各々海の家の更衣室へ向かった。

 各々空いているロッカーを探し、荷物を放り込む。

 そこで、細井がわくわくした声でこんなことを言い出した。


「宮本、どんな水着着て来るんだろうなあ」


 秋本が目立っているとはいえ、やはり男子は男子。

 着替えながら、細井は女子たちの水着姿を想像して鼻の下を伸ばしている。


「どうせちんちくりんだぞ」

「何言ってんだ清水! それがその……いいんだろうが」

「ロリコンが」

「いや別にロリがいいわけでは無くて宮本がいいわけで……なあ、分かるだろコックス?」

「なんで俺なんだよ」

「チーナだってどちらかと言えば幼児体型じゃん」

「それがその……いいんだろうが」


 ちなみに今年は、チーナがどんな水着なのか俺も知らない。

 去年と違って、一人で選んでくると意気込んでいたからだ。

 だから内心、どんな水着なのか楽しみにしている。


 まあ結局、俺もしっかり男子だったというわけで……。


 そういえば一年前は、こんな風に水着の話で盛り上がる余裕もなかった。

 どうやって無難に乗り切るか、そんなことばかり考えていたような気がする。


 そう考えると、俺たちの環境も大きく変わったんだな。


 感傷に浸りながらラッシュガードを着こみ、三人連れだって外へ。


 あっちい。


 じりじりと照りつける太陽に肌が焼かれる感覚。

 俺はいつも訓練で味わっているが、細井と総司は眩しそうに顔をゆがめた。


「これだから夏は……」


 海水浴場には多くの客が思い思いにはしゃぎ、海の家周辺にはいくつか出店も出ていた。

 俺たちも女子勢を待つ間に、パラソルとシートを受付でレンタル。

 いつでも海に繰り出せるよう準備を開始。

 ちょうどその準備が整ったころ、


「お待たせー!」


 秋本の元気な声とともに、四人の女子が姿を表した。


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皆さんはどんな水着がお好きですか?

私の好みは……次回のチーナの水着です。

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― 新着の感想 ―
[一言] チーナって幼児体形だったのか。 なんかキリル文字が出てくるのは久々な気がする。 普段は『』で話していたのね。
[一言] マイクロビキ…ゴホンゴホン。 個人的にはハイネックの背中全開ワンピースとか好きですね。 ハイレグだとなおよし。
[気になる点] 水着と言えばみやもっさんでしょ。スク水と水泳帽が似合いそう。胸のゼッケン「宮本」は外せない
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