75話: スピーチ
今回いつもより読みにくくなってるかもです。すみません……
放課後。
問題児の鏡くんが、中庭で背の低い女子生徒と話しているのを見かけた。
離れていたから内容まではよく聞き取れなかったけど、途中、女の子の方が泣き出したのが分かった。
たぶん2人は今まで付き合っていて、鏡くんが別れたいとふったのだろう。
私と、同じだ。
やっぱり、男子と付き合ってもろくなことなんて無いわ。
なにか今、一夫多妻制とか聞こえた気もする。
状況は分からないけど、きっと鏡くんが浮気をしたに違いない。
そのまましばらく見ていると、鏡くんが女の子に手を差し出したところを、叩きとばされている様子が見えた。
なるほど、つまりこういうことね。
鏡くん「俺他に好きな女が出来たんだ、別れよう」
女の子「そんな女、縁を切って!(泣)」
鏡くん「なら、一夫多妻制の国で2人とも幸せにする!」
女の子「一夫多妻制!?」
鏡くん「一緒に、来てくれないか?(スッ)」
女の子「ふざけないで!(パンッ!)」
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この土日の間に総司などと相談し、恋愛禁止への対抗策として署名運動だけはしておこうということになった。
といっても相談はチャットアプリでやっただけで、宮本と細井に関しては、進展があったのかすら分からなかった。
そして休日明けて月曜日の放課後。
異文化交流会を目前に控え、一部のミリオタがウッキウキしている中、俺は生徒会室の扉の前にいた。
橘先生に言われて来たのだが、なぜ俺が生徒会室に呼ばれたのかは分からない。
正直気は乗らないが、仕方がないか。
コンコン。
「失礼しまー」
ガラり。
「あら、来たわね鏡くん」
扉を開けると、部屋の中央に長テーブルをいくつかくっつけ、その周りのパイプイスに座る生徒会メンバー3人が目に入った。
1番上座に座っているのは横手。withメガネ。
書類から顔を上げながら、俺の旧姓を口にした。
「鏡じゃなくて、コックスなんだが」
「ふざけないでくれないか? 会長に失礼だろう?」
横手の右隣でパソコンをカタカタやっていた男子生徒が顔を上げ、メガネをクイッとしながら不機嫌そうに口をはさむ。
新副会長か?
俺が改姓してからしばらく経つのに、把握してないのかよ。
「そうか。鏡をお望みなら人違いだな、詩織と間違えたんだろう。それじゃ」
「ま、待って下さい先輩! ちゃんとコックス伊織さんで間違いないですから、すみませんです! 横手先輩も斎藤先輩も、ちゃんと名簿見てください」
帰ろうとする俺を止めに入ったのは、横手の左隣に座る書記らしき女子生徒。
横手とパソコン男子は訝しげな顔を浮かべつつも、渡された名簿に目を向ける。
「確かに……コックスになっているわね」
「何の間違いだ?」
「人の大事な姓をおふざけって言われました〜。謝って欲しいで〜す」
「……それより、あなたを呼んだ理由なんだけど」
こんにゃろ、話題逸らしにきやがった。
「はぁ……なんだよ。とりあえず座らせてもらうぞ」
「もうすぐ異文化交流会があるでしょう?その最初のセレモニーで、各校代表者が挨拶のスピーチをするんだけど、それをあなたにやってもらうことになったわ。不本意だけど」
「なんで俺なんだ? 交流会自体は生徒会が運営するんだろ? だったら挨拶だって、生徒会がやるもんなんじゃないのか?」
「異文化交流という事で、スピーチは数ヶ国語で行う。そこで英語のスピーキング能力の高い生徒が、毎年担当するそうだ。会長だって前回のテストは首席だったと言うのに、どうして君なんだ……」
横手の説明に疑問を投げた所を、パソコン男子斎藤が答える。
2人とも、人に物を頼む態度とは思えないほど不機嫌だ。
それにこの感じだと、俺がマルチリンガルであることも知らないらしい。
ていうか、今までは詩織が首席だったのに負けたのか。
「とにかく、先生方からあなたを推薦されたのよ。日本語、英語がメインで、あと何ヶ国語かは要約して話してくれればいいから」
「あのこれ、参考までに……去年のスピーチ原稿です。いきなりで申し訳無いのですが、引き受けていただけるとすごく助かります。お願いできませんか」
偉そうな横手と違い、丁寧な後輩書記。
これで断ってしまったら、この書記の子はすごく苦労しそうだ。
「なんか可哀想だから、引き受けるわ」
「ありがとう……ございます。詳しいことはこちらの資料に書いてあるので」
お互い苦笑いしつつ、書記から過去原稿と資料を受け取る。
どうせなら、会長をアイスブレイクのネタにでも使ってやろう。
そんなことを考えつつ、「それじゃ」と席を立とうとするも……
「待ってかがm……こほん。まだ話があるわ」
「まだ何かあんのか?」
「先週の放課後なんだけど、あなた背の低い女の子を泣かせてたわね」
持ち出された話題は、なんと恋愛絡み。
宮本とのことだろうが、何でこいつ知ってるんだ。
まさか……
「見てたのか?」
「声は少ししか聞こえなかったけど、様子は一部始終」
「プライバシーとか考えないのか!」
「横手先輩! 流石にそれは失礼です!」
俺が宮本をふった場面を立ち聞きしていたと言う横手。
それを聞いて、俺どころか書記の子まで声を荒げた。
「なによ。これから恋愛に関する校則を作ろうっていうんだから、校内の恋愛事情についてはある程度把握するのは当然でしょう?それに、思ってた通りだったわ」
「なにが?」
「あなたみたいに、恋人と簡単に別れるような生徒がいるという事よ。そんな遊びの関係なんて、始めから禁止するべきだわ。その事を伝えたかっただけ」
「ん?ちょっと待て」
彼女と別れる?
何か勘違いしてないか?
「おい横手、俺は宮本とは付き合ってないぞ?」
「え?」
「告白されたから、断っただけだ」
「一夫多妻制とか、聞こえたんだけど」
「それも多分、お前が思ってるような意味じゃないだろうな」
「……え?」
ここで初めて、横手の間抜け面を見ることになった。
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次回、交流会本番(予定)




