72話: みやもっさんボンバー
もうすぐ作者の卒論が終わりますので、来週あたりから少し更新ペース上げられるかもです。
翌日の昼休み。
俺たち6人は昼食を摂ろうと、各々弁当を手に肌寒い廊下を歩いていた。
普段関わることの無い他学年の生徒とすれ違いながら、いつもの理科室を目指す。
「あ、クリスティーナ先輩だ」
「いつも通り最高に可愛いな」
「あ〜ぁ、俺と付き合ってくんねえかなあ」
こんな会話が聞こえてくるのもいつものこと。
チーナの存在は今や、学校中に知らない人はいない。
しかし俺とチーナが付き合っていることを知っているのは、校内でもここにいる6人くらいだ。
故に、チーナを狙う不届き者共が一定数いるようだ。
要注意だな。
そんなことを考えながら歩いていると、担任の橘先生とすれ違った。
「あ、先生だ〜。こんにちは」
「こんにちは。今からみんなでお昼ですか?」
「はい!」
宮本がピカピカと挨拶を投げ、俺たちも会釈をする。
そんな俺たちに、先生も明るく答えた。
そこで、「あ、せんせ、少しいいですか?」っとすれ違おうとする先生を細井が呼び止めた。
「どうしましたか?」
声をかけられた先生は、邪魔にならないよう階段近くの少し開けた場所に俺たちを誘導しつつ、話を聞く姿勢をとる。
面倒そうな顔ひとつせず、こうやって細かな気配りをしてくれるのは先生の美点だ。たまにはっちゃけたりもするが、そこも含めて生徒たちからはとても親しまれている。
そんな先生だからこそだろうか、細井も気兼ねなく質問を投げかけた。
「あの、横手会長が昨日言ってたことなんすけど」
「ああ、恋愛禁止の件ですね」
「それっす。実際のところ……どうなんですか?」
どうなんですかという曖昧な問いの意味はもちろん、施行されるのかしないのか、ということを問うているのだろう。
先生もそれを理解した様子で、うーんと難しい顔をしながら答えた。
「正直、五分五分かなってところですね」
「まじっすか」
「え、そんなに可能性あるんですか」
その答えに、聞いていた俺も思わず声を漏らす。
正直、ワンチャン通る可能性もある……くらいの認識だったのだが、そんなに有り得る話だとは……。
「ここだけの話、恋愛禁止の校則を支持する先生の派閥が、何人かいらっしゃるんですよ。特に教頭先生が強く押していて……。横手さんの言う通り実際に問題が起きているわけですから、他の先生方も無視出来ない状態みたいです」
「ああ、あの教頭か……。校長と仲悪そうだし、突っかかってるのかもな」
総司が言う通り、うちの教頭は何かと波風立てようとする印象がある。
俺の隣に立つチーナも、教頭に対してぽつりとコメントを漏らした。
『あの教頭先生……苦手』
『あれ、チーナって教頭先生と絡みあったっけ?』
『林間学校の後の、澤井先輩のご家族と会った時に』
『ああ、あの謝罪の会か』
チーナですら同様の嫌悪感を抱いているらしい。
今回の件も、いいネタだと食いついたに違いない。面倒なことを……。
今の段階でも嫌な話だが、先生の話はまだ続いた。
「それともうひとつ、考慮されてることがあって。ララバイの詩織さんが通っていることで、この高校は全国的に少し有名になったんです。そこで、この学校を芸能活動のしやすい学校として売り出す方針が検討され始めたんですよ。そのために恋愛禁止は都合がいいとか」
「たまたま詩織がいるだけですよ?そこまでします?」
「それが……これはコックス君がいるから話すことなんですが」
っと、ここで先生は一瞬間を置いて俺に目を向ける。
どうやら、まだ何かあるらしい。
俺がいるからってことは詩織関係なんだろうが、いったいなんだろうか。
「ララバイの他のメンバーの四人が、来年度に転入してくる予定なんです」
「………………What the hell!!!?」
今なんて言いました!? ララバイが全員転入? ほわーい?
「え、あの整形女たちが来るんですか?」
「え、コックス会ったことあんの?」
「え、ララバイ整形してるの?」
「んなことはどうでもいいんだよ!」
まあ別に転入してきたから直接どうこうということはないのだが、こういった場合大抵何か起きる。
俺はそんな星の下に生まれている。その自覚はある。
うわああ。
「どうにも、コックス君が元々住んでいたお家を事務所が買い取って、ララバイの寮にするみたいなんです。メンバー全員が固まっていた方が、移動とか便利らしくて」
「それで、恋愛禁止の学校ならアイドルでも安心ってわけですか……」
まあそれもこじつけの材料ではあるのだろうが、タイミング悪ぃ。
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「俺、考えたんだ」
「何を?」
「恋愛禁止を止める方法を」
先生と別れて理科室で弁当(アンジー作)を食べている最中、細井がおもむろにそんなことを言い出した。
こう言った悪だくm……もとい作戦立案は総司の役目みたいな風潮がある。
そんな中、細井自らこんなことを言い出すなんて……やる気だな。
先ほどの話を聞いて、危機感を煽られたらしい。
「よし、聞こう」
「おうよ」
みんなが注目するなか、細井は右の拳を握り宣言した。
「横手に……恋愛の良さを分からせる!」
なるほど、なるほどね。細井らしいっちゃらしいな。
さて……
「総司さん、感想をどうぞ」
「ラブコメの世界に帰れ」
「えええ!?」
酷評。
細井は本気で驚いた表情をしているが、なぜそれがうまく行くと思ったのだろうか。不思議である。
総司は呆れを隠そうともせず、大きくため息をついて文句を垂れた。
「横手が恋に目覚めたら、恋愛禁止の提案も取り下げられて万事解決って言いたいのか? ならどうやって改心させる? 確実性の高い方法があるのか?」
「それは……プレゼンするとか、プレゼントするとか」
「なぜ韻を踏んだ」
総司の圧に、だんだん勢いを無くしていく細井。
だがそこに、なんと宮本から援護が飛んできた。
「え〜、私はいいと思うな。慎二くんの考え。メルヘンチックで」
「宮本……」
箸でつまみにくい芋煮と格闘しながら、何の気なしにそう口にする宮本。
他の誰でもない宮本からのカバーに、細井の表情は途端に明るさを取り戻す。
さらに、その会話に秋本たちも参加してきた。
「確かに、横手さんにも好きな人ができたら、素敵なハッピーエンドになると思うな」
「ねっ! むしろバレンタインイベントとか開催してくれたりして! そういえば、ロシアにもバレンタインってあるの?」
「うん……ある。メッセージを、書いたを、家族や恋人に……プレゼントし合うんだよ」
「日本は女の子が男の子にチョコレートをプレゼントするんだよ〜。チーナちゃんも用意しないとね」
女子トークに発展しつつある会話を聴きながら、急に味方が増えた細井は、俺と総司に向かって得意げな顔をしてきた。
どやぁ……。
Oh……うっざぁい。
しかしそのドヤ顔は、長くは続かなかった。
「っということで、頑張ってね慎二くん! 私応援してるから」
「え……宮本……どゆこと?」
なんの事もない応援してるよ宣言。しかしその雰囲気に違和感を感じたのだろうか、細井はその意図を聞き返す。
「分かってる、分かってるよしんじくん……」
対する宮本は、私空気読めてますよ〜っとでも言うようなえっへん顔。
いったい何が分かってると言うのか……
「慎二くんは、横手会長のことが好きなんでしょ? だからこんなに頑張ってるんでしょ?」
あ…………。
凍りつく空気。突然の沈黙。
思わずチーナの方に目をやると、彼女も超絶気まずそうな目でこちらを見ていた。
この沈黙を破ったのは、宮本。
「えっと……みんな、どうしたの……」
流石の彼女も雰囲気の異常に気付いたのか、おろおろした様子で口を開いた。
そして当の細井はというと、
「ちょっと、トイレ行ってくる……」
っと、言い表せないような悲しい表情を一瞬見せ、部屋を出てラブコメの世界に帰ってしまった。
そりゃそうだ。惚れた女からこんなこと言われたらショックだろうさ。
別に細井は、横手に自分を惚れさせようと言う意図で先程の発言をした訳では無い。単に恋愛の良さを気付かせたいくらいのつもりだったのだろう。
だが宮本の性格を考えれば、この勘違いはある程度予想できたかもな。
そして、残された俺たち5人。
直後、何人かのはあぁ……っというため息が響いた。
「やっちまったなあ、宮本」
「アカリは、悪くないよ」
「明里ちゃん、ドンマイ」
「え、何?私何かしちゃったの!?」
総司、チーナ、秋本がそれぞれ宮本に声をかける中、俺は発言を控える。
俺が下手な発言をすると、後々宮本を傷つけるかもしれないからだ。
まぁ、こればっかりは俺たちが勝手に教えていいことじゃ無い。
宮本が自分で気付くか、細井が伝えるか……だ。
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