62話: ハズレでーす!
てなわけで迎えた24日土曜日。
昨日で二学期は終わり、これから2週間程度の冬休みに入る。
そんな日の朝7時。
いつもよりさらに早く目が覚め眠れなくなった俺は、チーナとのデートを前にそわそわしていた。
そりゃそうだ、一世一代の告白を控えているのだから。
だからといって、今ここでうだうだしてても時間の無駄。
そう思った俺は、ひとまずいつものルーティンに繰り出すことにする。
早朝ランニングからの、朝シャワー。
その後、いつもより時間をかけて服を選び、髪をセットする。
悩んだ末、黒シャツの上に黒のライダースジャケット、下はスキニージーンズ、あとはスヌードでも巻いて行くか。
それと忘れてはいけないドッグタグとブレスレット。
髪は適当に上げておけばいいとして……。
やること無くなった。
そうなると、またも心に移りゆくよしなしごとに一喜一憂する事になる俺。
チーナはどんな服でくるんだろうか。
人が多すぎて雰囲気ぶち壊しにならないだろうか。
告白の時、間違えてリリーって言ってしまったらどうしよう(練習の時言わされた)。
…………間違えてリリーって言ったらどうしよう!!
だめだああぁ!
はぁ〜い合格でぇ〜っすってニヤニヤしたリリーの顔を思い出すううう!
今日は9時にここを出る予定なのだが、まだ7時にもなっていない。
朝食どうしよう……。
などと半ば混乱しながら、椅子に座って考える人像を体現していた時だった。
ガチャ、
『ヨリー、起きてる?』
なんと、もうチーナがやって来た。
『あれ、もう来たのか。まさか、また考え過ごして時間が!!』
『考え過ごすって……大丈夫。まだ7時半だよ。朝ごはん食べよ』
そう言って視線を上げると、そこには冬コーデに身を包んだチーナがいた。
立ち上がってチークキスを交わしてから、改めてチーナを見やる。
『今日はその……服、似合ってるぞ』
『いつもと同じだよ。でもありがと。ヨリは相変わらずアメリカンだね』
『流行りとかわかんねぇからな』
今日のチーナは、ベージュのダッフルコートにデニムのパンツという格好だ。
ポケットに手を入れている姿がクールで良く似合う。
朝食を用意するため、2人でキッチンに移動したところで、俺は不意にどうでもいい事が気になった。
『そういやチーナは、ロシア帽あんま被らないよな。なんで?』
『ん〜。日本はそんなに寒くないし、あんまり被ってる人見かけないからかな』
ちなみにロシア帽とは、ウシャンカとも呼ばれる毛皮製の防寒用帽子だ。
分かりやすく言えば……イ〇ヤが被ってるあれである。
もう一度言おう。イ〇ヤスフィールが被ってるあれである。
ロシアでは一般的な帽子なのに、まだチーナが被ってる所を見たことがないので、少し不思議に思っていたのだ。
そんな俺の質問を受けて、手を洗っていたチーナが不意に小悪魔的に微笑んできた。
『ご所望なら、次は被ってこようか?』
『う……考えとく』
お望みの格好をしてあげるよ、と聞こえてしまう魅惑的な発言。
出発前からドキリとさせられたのは、秘密である。
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そんなこんなで朝食を済ませ、予定より少し早めに出発。
バスや電車を乗り継いで、隣町の少し田舎の水族館を目指す。
田舎の水族館と言っても、周りが多少田舎なだけであって、施設自体はそこそこ大きい。
さらにクリスマスイブだけは入館制限を設けており、予めチケットを購入しておかなければ入れない。
普段より入館料自体は少し高くなるが、それでも粋な計らいだ。
『さて、今日はどこにエスコートしてくれるの?』
最後の乗り換えを終えた電車の中。
肩を寄せあって椅子に座り、到着をまっている間に、チーナが俺に尋ねてきた。
今日までデートプランは秘密にしておいたのだ。
だがそろそろ話してもいい頃合いだろう。
到着直前に、ワクワクするチーナも見たいしな。
『ふっふっふ、多分チーナが行ったことないところだ。どこだと思う?』
『水族館?』
『……なぜ分かった』
速攻で当てられた。
『ま、まあいいや。一箇所当てられたところでどうということは……』
『その次は、イルミネーション?』
『…………帰る』
『拗ねないで! 大丈夫、普通に水族館楽しみだから!』
肘掛けにもたれかかって膨れる俺を、チーナが肩を揺すりながら宥めてくる。
くそう、ここまで俺の心が読まれるとは。
もしかして、チーナに一生サプライズを成功出来ないんじゃなかろうか。
そんな中、電車が目的の駅についたので、降りる。
快適な車内から一転した外の寒気に触れて、俺は思わず肩をすくめた。
『さ〜む』
『だらしないなあ。ほら、早く行こ?』
寒い中でも元気なロシアっ子。
彼女にグイグイ手を引かれながら、俺たちは歩き出した。
と言っても、目的の水族館はすぐそこに見えている。
流線型の特殊な形状の建物のおかげで、見逃すことはまず無いだろう。
時刻は11時前。
昼食を挟みつつ水族館を回っていれば、ちょうどよく夕方くらいか。
水族館にたどり着いた俺たちが入口を入ってすぐに、ゲートで受付のお姉さんが声をかけてきた。
「ようこそいらっしゃいました! 綺麗な彼女さんですね! チケットはお持ちですか?」
「あ、あります」
家で悶々としている間に、無限回やった忘れ物確認。ぬかりはない。
「はい、たしかに。それでは本日、当たればアシカショーでアシカにおやつをあげられるクジを開催しています!チャレンジされますか?」
すると、カップル向けの特別イベントなのか、そのままイベントの誘いを受けた。
どうやら、クジで当たるとアシカの餌やり体験をさせて貰えるらしい。
そういや、昔もイルカの触れ合い体験とかやってたな。懐かしい。
『どうする、やって見るか?』
『アシカ……やってみたい!ヨリ、当てて』
『任せとけ』
よしよし、ここは男としていい所を見せてやらな!
てかチーナ、アシカが何か知ってるのか。意外だ。
「やります」
「はーい。では先の赤い棒がでたら当たりです!」
そう言って、透明な棒が5~6本入れてある筒状の容器を差し出すお姉さん。
どれにしようか……これだ!
「せいっ!」
「ハズレでーす!」
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このくじが外れたことを、後に安堵する事を2人はまだ知らない……
てかこんなクジほんとにあんの?って思われるかもですが、実際私の地元の水族館でありました。
その時は、イルカに触れる体験でしたね。
イルカって肌パッツパツなんですよ笑
最近忙しくなり更新頻度が悪くなるかもしれません。申し訳ありません