47話: 勘違い女共
「きゃああ!変態!」
「きゃあああ!助けて沙耶!!」
「無理無理!絶対この人強いもん!」
ただただ叫ぶ者、へたり込んで後ずさる者、絶望に崩れ落ちる者。
阿鼻叫喚とはこの事かと、身をもって感じさせられる。
ていうか、スカートの人はお願いだから立って……下着見えるから。
突然のばくおんぱに等倍攻撃を受けつつ、気になることがもう一つ。
多分この4人は、うちの学校の生徒じゃない。
身長は、一人が少し高く俺と同じくらいで、二人は詩織と同程度。残り一人は少し低い。
そして4人とも、かなり容姿が整っているように見える。
美人系、可愛い系、幼い系、整形と、四者四様のクオリティだ。
詩織の取り巻き全員を覚えているわけでは無いが、このレベルが4人もいて1人も心当たりがないなんて事は流石に無いだろう。
それに、向こうも俺の事を認知していないように見える。
詩織の親衛隊なら、そんな事は絶対にありえない。
「な……なんだ伊織、帰ってたんだ?」
ここで、驚いてフリーズしていた詩織がようやく立ち直った。
他の4人に気づかれないように俺を睨みつけながら、精一杯平静を装っている。
「まあ、たまにはな」
「帰ってくるなら連絡くらいしないと。こっちもビックリしちゃうでしょ」
「そりゃ悪かったな。そっちの4人も、驚かせて申し訳ない」
「みんな大丈夫だよ、私の弟だから」
人前だからとお姉さん風を吹かせる詩織は適当にあしらっておき、へたりこんでる4人に頭を下げておく。
上裸の男が突然現れたら俺でもビビるだろうし、初対面の相手には誠意を見せておかないとな。
まだアンチ俺思想に染まっていないかもしれないし、のっけから高圧的に行くのは紳士じゃない。
その様子を見て、ようやく俺が不審者で無いと分かったのか、そろそろと立ち上がる謎の少女A〜D。
大きな荷物を廊下の隅にまとめてから、5人で俺に聞こえないようにコソコソと話し始めた。
「やばいやばい顔見られちゃった。ってか筋肉すごい」
「弟くんには秘密にしてるって話だよね?筋肉すご!」
「バレたら言いふらすかもしれないんでしょ?……いい体」
「男子なんだから、黙ってられるわけないじゃん!Oh…筋肉」
「ごめん!まさかこんなタイミングで帰ってるなんて思わなくて……ってみんなどこ見てるの?」
まあ聞こえてるんですけどね。通訳者なめんなよ。
一応紳士的に聞こえないよう振りをしつつ、傍に放っていたシャツを着る。なんかチラッチラ視線を感じて居心地が悪い。
この4人がどんな繋がりで詩織と友達になったかは知らないが、会話から察するに、やはり同じ高校の生徒では無いようだ。
だったら今後も、関わることは無いだろう。
ちゃんと謝ったし、もういいかな。
「悪いけど今日はこういう訳だから、俺の部屋は勘弁してくれ。それじゃ」
っと言い残し、俺はドアを閉めようとする……
ガッ!
だが、閉まり切るまえに複数の手によって止められてしまった。
場合によっては指を怪我する危ない行為だ。何をそんなに慌てているのだろうか。
「待って弟くん!今ここで君を逃がす訳には行かないの!分かってよね?」
「はぁ?」
「今日私たちがここにいたこと、友達にでも自慢するんでしょ?させないわよ!絶対!」
「そんなむちゃくちゃな。っていうか、名前も知らないのに言いふらすもクソも無いだろう?」
「「「「「えっ!?」」」」」
えっ?
常識的な対応をしていると、急に信じられないみたいな目をされた。
ガーンって音が聞こえてきそうだ。
俺の言動は極めて普通だったし、おかしな事は無かったはず……。
なのに何故、こんなにも驚かれているのだろうか?
俺は訳が分からず疑問符を浮かべた。
「ええっと、弟くん?」
「伊織だ」
「伊織くん?もしかしてだけど……私たちの事、知らない?」
「え?そうだなあ……」
背の高い一人が、俺に対してそう問うてきたので、改めて4人を観察してみる。
平均的に顔が良いなぁくらいの印象で、会ったことがある奴はいないと思う。
いや待て、どっかで見たことあるような気も……いや、そういうのは大体そっくりさんか有名人の記憶だ。
俺が完全に忘れてしまってるだけで、私たちの事忘れちゃうなんてひどい!っみたいなパターンも考えられる。
嘘でも覚えるって言った方がいいのかもしれないが、そんなのすぐバレるだろうな。
よし、ここは知らないでファイナルアンサー。
「その、もしどこかで会ってたなら悪い。覚えていない」
「ええ!?いやそうじゃないんだけど……ちょっとごめん」
再び集合してヒソヒソ話し合う5人。
「バレて……ない?」
「いやいや、それはないでしょ。男子なんだから」
「知っててカッコつけてるだけじゃない?俺は流行なんて追わないぜ!…みたいな?」
「うわ、だっさw」
また訳の分からない事を言い合うJKたち。
伝家の宝刀ヘイト集めもぐんぐん効力を効かせてきたようで、明らかな風評被害が漏れ聞こえる。
なんで俺の周りには、こんなやつばっか集まるのかね。
心中でため息を吐いていると、ふとあることに気づいた。
この4人、高校の親衛隊のように詩織に媚をうっている様子がない。
俺の目には、彼女と対等の関係を築いているように見える。
意外だ。
これ場合によっては、利用できるかもしれない。
そもそも4人とも間違いなく美少女。容姿では詩織と引けを取らないレベルだ。
仕方ない。男としても紳士としても、ここはグッとこらえて仲良くしておこう。
……っなんてすると思ったかこの勘違い女ども!!!
「そんじゃ、俺はこれで」
「待てえええい!なんで?なんでそんなほいほいドア閉めようとするの?この美少女5人を前にして!?」
「だからドアを掴むな!それに俺の知っている本物の美少女は、自分のこと美少女って言ったりしない!」
「私たちは可愛くないってこと!?」
可愛くないとは言わないが、チーナに比べればどんな美少女も霞んでしまう。
悔しかったら性格治して出直してこい!
「なんか頭に来た!本当は私たちのこと知ってるんでしょ?正直にいいなさいよ!」
「ちょっとくらいいい体してるからって、調子乗ってない?」
「伊織、あんたどれだけ失礼なこと言ってるか自覚してる?ちゃんと謝りなさい!」
「はぁ?知らなかったらなんだってんだ?有名人じゃあるまいし、例えそうだとしてもお前らは知らん!」
勘違い女子たちの偉そうな態度にイライラしてきた俺は、思いついた言葉をぶっちゃける。
ぶっちゃけ過ぎた気もするが、どうせもう会うこともないしいいだろう。
だが俺の態度に腹を立てたのか、可愛い系女子が俺の前にずずいっと近づいてきた。
そして、偉そうな態度である提案を持ち出してくる。
「ねえ伊織くん。正直に、“私たちの事知ってます、可愛いです”って言ったら、手繋いであげる。こんな機会滅多にないんだから、嘘ついたままじゃ後悔するわよ?」
「はあ?」
「ついでに、あなたの体……少し触ってあげてもいいわよ。さあほら」
そして、ひらひらと手を差し出してくる可愛い系。
何でそんなに自信があるのか分からないが、馬鹿にしたような目で俺を煽ってくる。
後ろの4人も、“あいつ堕ちるな”っとでも言うような、不愉快な視線を送ってきていた。
だが………
「あんたらの事は知らない。別に可愛くないとは言わないが、そこまで自賛するほどか?それに、あんたに触りたいとも触って欲しいとも思わない。願い下げだ」
「え………うそ………」
俺の冷めた声音を聞いて、女共は再度膝から崩れ落ちた。今回は恐怖ではなく、絶望のために。
ほんと、なんだってんだよ。
詩織の怒声を背中に受けつつ、俺は今度こそドアを閉めた。
宜しければブックマークや評価☆をお願いいたします!
今回会話ばっかりであんま話進まんやった……
ごめんやでm(。>__<。)m
次回はちゃんと進みます。




