42話: プロローグ 〜アルー晴レータ日ーノ事ー♪〜
魔法以上のユーカイが♪
10月末の日曜日。いつもジジイみたいに早起きする俺は、珍しく寝坊をかましていた。
『ヨリ、起きて』
「んん……あと四半期」
『冬眠じゃん……ほら起きて。目覚めなさい』
「うう……ご先祖………は!」
ゆり起こされて、俺は目を覚ます。
やばっ!俺魔族っぽい角生えて……ない。夢か、良かったぁ。
そして目を開けると、一人の美少女が俺の顔を覗き込んでいた。
栗色の長髪にエメラルドグリーンの瞳、あどけなさと大人っぽさが両立した完璧な美貌。
俺の隣に住む、クリスティーナ・クルニコワだ。
『てか顔近いって!もう目覚めたから少し離れろ!』
起き抜けにこのゼロ距離はまじで心臓に悪い。
『ヨリがいつまでも寝てるからでしょ』
『昨日は色々と調べ事してて疲れてるんだよ』
『にしたって、もう9時すぎてるよ。せっかく朝ごはん作ったのに』
『もうそんな時間か!悪い。すぐ起きる』
頬を膨らませるチーナ。いつの間にか俺の部屋に来て、朝飯を作ってくれていたらしい。
髪を後ろに束ねて黄色いエプロンを着た彼女。
最初のうちはよく心臓が止まっていたが最近慣れてきて、すっかり平常心で受け入れられるようになっている。
ほら、心拍数だっていつもと変わらなドルルルルルル。
ちなみに今日はゆっくりしようと決めていたので、バイトは休み。
あくびをしながら上半身を起こす。
っておいチーナ、顔よけてくれないと当たりそうなんだけど?
俺が身をよじりながら苦労して起き上がると、チーナは、
『じゃあ待ってるから、早く来てね』
そう言って俺の頬にキスしてきた。
唇で。
「!!!」
そして部屋から出て、キッチンへと向かうチーナ。
林間学校以来、時々チークキスの際チークにキスしてくるようになった彼女。
流石にこればかりは全然慣れない。
彼女にとっては仲のいい友達くらいのつもりでやってるのだろうが、こっちは毎回寿命縮まってるんだぞ。
まぁ別に……いいけどさ。
俺は着替えを済ませてから居間に移動し、テーブルにつく。今日のメニューは、サラダにボイルしたウィンナー、そしてグランキだ。
グランキとはロシアの郷土料理で、白パンを卵と砂糖で味付けした甘い料理である。
俺のために、沢山作ってくれたらしい。
最近妙に世話を焼いてくれるんだよなぁ……不思議だ。
『何を飲む?』
「…アイス」
『アイスコーヒーね』
慣れた所作でコップを2つ取り出し、コーヒーを淹れるチーナ。
その間俺は椅子に座って、スマホでネットニュースを流し見する。
今日は1つの記事がメインで取り上げられていた。
「へぇ、ララバイ新メンバー入るんだ」
『あぁそれ、ユキも言ってた。11月中には歌番組でお披露目だって』
チーナがコーヒーを運びながら俺の呟きに答える。
結構日本語聞き取れるようになってるな。
話しているのは、今話題の4人組アイドルグループ、LOVE LOVE BUYER、通称ララバイについてだ。
彼女達は今テレビでも出演が増え、どんどん人気が出ているらしい。
らしいというのはもちろん、俺には興味のない分野だからだ。
ていうか、ララバイのメンバーよりチーナの方がよっぽど可愛いんだが……
『え!急に何言ってるの!』
『え……やば!声出てた!』
ミスったあああ!はずっ!
ってかなんでチーナも顔真っ赤なんだよ。いつも褒められてるから慣れてるだろ?
『ええっと、ヨリもビッグでカッコイイと思うよ』
『宮本か!』
そんなこんな言いながら、チーナからコーヒーを受け取り、手を合わせてからグランキを口に運ぶ。
『どう?』
『うまいよ、いつも通り』
『そっか……良かった』
席についたチーナが、俺の顔を覗き込みながら聞いてきたので、素直な感想を言う。
うれしそうだな。
『そういえば、調べ事の成果はあった?』
再度質問してくるチーナ。これは、俺が昨日調べていた法律関係の事についてだろう。
本格的に動く以上、少しでも多く知識をつけた方がいい。
いいのだが……
『何の成果も得られませんでした!今まで以上の情報は……な。やっぱ審判の内容が公表されてないってのがきついな。前例を参考に出来ない』
『そっか。じゃあやっぱり、弁護士さんとかに相談してみないとね』
『そうだな。中途半端に親権停止とかになったら面倒だし』
親権停止とは喪失の一歩手前の処置で、最大2年間親権の行使が出来なくなる。
奴らに2年間なんて生ぬるいし、俺だってそれでは困ることがある。
何としても喪失まで持っていかねば。
グランキをおかわりしつつ、その後もだらだらと世間話を続ける。
今日は天気もよく、窓から入る日差しが暖かい。
こんな日はのんびりと朝食を摂るに限るな。
そんな中、不意にチーナがある話題を持ち出してきた。
『そう言えばバイト中に聞いたんだけど、ヨリって、オリバー大佐と友達なの?』
『え?あぁ、オリバーさんね。友達なんて言い方は……恐れ多いな。世話にはなってるけど』
オリバーさん……オリバー・コックス大佐とは、在日米軍現指揮官、つまりこの基地で一番偉い人だ。
最近チーナは定期的に基地のバイトに入っており、この話はその時に聞いたらしい。
『小さい頃、父さんに連れてきてもらった時にたまたま会う機会があってさ。その頃からいろいろ良くしてもらってるんだよ。ここで暮らせるように手を回してくれたり、俺のバイクだってオリバーさんに貰ったようなもんだ』
『へえ………すごいね。そんなビッグな人と知り合いなんて』
『ボキャ貧か?ビッグ便利に使いすぎじゃないか?』
俺の話を聞いて、チーナの顔が少し引きつっている。
無理もない。何でも無いように言っているが、オリバーさんはやばい人なのだ。
会社で言えば社長や会長、体で言えば心臓。
とにかくこの基地において、指揮官の権力は絶大だ。
そんな天上人と個人的に交流があるなんて、我ながら驚きである。
バイト始めてからは特にオリバーさんの凄さが分かってきて、最近は話す時もガクブルだ。
そんな話をしながら食事を続けていると、プルルルルっと俺のスマホが鳴った。
誰だ?っと思い通知画面を見ると、表示された人物名に驚愕する。
急いで通話をタップし、いつも通り日本語で応答。
「はい、伊織です。お久しぶりです。はい…はい。え、それは………行きます!行かせていただきます!はい、それでは後ほど。はい、失礼します」
会話が終わり、通話を切る。
するとチーナが会話の相手を尋ねてきた。
『誰からだったの?随分ビクビクしてたけど』
『それが………オリバーさん』
『うっそ。そんなタイムリーなことある?』
まじやねん…ビビったあ。
『それで、どんな用事だったの?』
『今日の夕食、うちに食べに来いってさ』
『Ой……』
電話の内容は、夕食のお誘い。当然断れるはずもない。
やばいな……失礼なことしたらマミられるかもしれん。
胃が痛いいい。
俺が顔を青くしてるのを見て、
『まぁ、その……頑張って!』
っとチーナがサムズアップしてきた。
だがな……
『呼ばれたの、俺とチーナだから』
『ごめん、お腹痛くなってきた』
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作者自身がチーナ可愛い成分を補充したかった日常回&ちょっとのストーリー
かくして作者は腱鞘炎になった