41話: エピローグ ~母~
「くれぐれも、粗相の無いようにお願いしますね」
「分かってますよ」
「特に佐々木君のお父様は重機械会社の社長さん。そしてモンスターな親御さんですから超気をつけてください!」
「うわ、めんどくさいな」
総司の家会議から二日後、月曜日の放課後。
例の6人の処分が決まり改めて詫びの場を設けるという事で、学校に加害者親子が来ているらしい。
俺が一人暮らしという事情を考慮して、学校で集まることになったそうだ。
なぜこのタイミングなのか、それはアンジーの帰国を待っていたからである。
と言っても、チーナとアンジー、そして澤井親子は俺達とは別室。
そっちの方は既に始まっているらしい。
俺は今から橘先生と共に、二年生5人の親子と面会だ。
めんどくせええぇ。
別に親の謝罪とかいらないし、本人に謝られても頭に来るだけだ。
それもモンペがいるとか、だるだるのだる。
俺は先生と二人で廊下を歩きつつ、会場となる特別教室へ向かう。
「そういや先生、うちの親は?」
「用事があるから、少し遅れて参加すると言っていましたよ」
「それ来ないやつでしょ、絶対」
行けたら行く的なノリだ。
まあ来たら来たで不快だけどさ。
そんな会話をしているうちに、会場についた。
「失礼します」
先生が引き戸をノックして開き、中に入る。
俺もそれに続くと、そこには既に大勢の人が集まっていた。
部屋には長机が6つ。部屋の前方に1つ、そこから少し離して、残り5つが縦2列に配置されていた。
5つの机には、それぞれ加害者親子が3人ずつ座っており、詩織ファンA家だけは母親と息子だけだ。
そして前方の机には椅子が二つ、これは俺と母親用だろう。
その横には、校長と学年主任、そしてファントリオの担任、計3人の先生が並んでいる。
教頭や生徒指導の先生は、チーナの方か?
俺は机の後ろに立つと、鏡ですと軽く一礼してから椅子に座る。
あ、お茶置いてある。後で飲もう。
「それでは、ひとまず全員揃った所で始めたいと思います。本日は………」
橘先生が教師陣の列に加わったところで、司会の学年主任が進行を始めた。
挨拶から始まり、事件の経緯、その対応などが説明され、ついに加害者親子の謝罪のターンになった。
各親子毎に順番に席から立ち上がって、つらつらと謝罪文を述べて来る。
めんどくさい。
ほとんどの親からは誠意が感じられたし、高そうな菓子折りも渡された。
だが当の息子が違う。どいつも殊勝な態度を装ってはいるが、その目には面倒臭さと不満とが浮かんでいる。
まあここで反省するくらいなら、そもそも事に及んではいなかっただろうな。
五億回くらいため息をつきながら謝罪を聞いていると、最後に佐々木親子の番になった。
佐々木の両親はきらびやかな洋服に身を包み、明らかに機嫌が悪そうな表情で腕を組んでいる。
そしてその父親は立ち上がることもなく、極めて横柄な態度で口を開いた。
「うちは決して謝らんぞ!むしろ謝罪を要求する。うちの子はあばら骨にヒビが入っていたというのにそいつは無傷……被害を受けたのはうちの方だ!」
「あの、最初に殴られたのは僕なんですが」
「それが何だ!私が間違っているというのか!?」
………ほう?これが本物のモンペってやつか。俺のための軽い処分だと先生は言ってたが、本当はこいつらが警察に金を積んだんじゃなかろうか。しゃっちょさんだし。
俺がイライラして眉をひきつらせていると、慌てて橘先生が間に入ってきた。
「あの、今回の件は明らかに鏡くんが被害者側であり、その証拠も揃っています。佐々木様におかれましても、停学という処分にご納得された上で………」
「示談という形を受け入れただけだ!停学に関して了承した覚えは無い!」
「そうですわ!そもそもその証拠だって、捏造したのではなくって?」
取り合わない佐々木の父母。
下手に刺激してもいけないので、俺はしばらく先生とのやり取りを傍観する。
だがそれが気に食わない様子のモンスターパパは、俺を指差して腹立たし気にイチャモンをつけてきた。
「そもそもお前の親はなんなんだ!こんな大事な場に参加しないなんて、非常識にも程がある!」
「激しく同意します。お友達になりましょう」
いいぞぅ。アンチマイマミーはみんなフレンズ。多少の無礼は許そうぞ。
っと、その時だった。
「すみません、遅くなりました」
なんと部屋の扉が開き、一人の女性が入って来たのだ。
170台前半の高身長に、二十歳にすら見える若々しい美貌。茶髪のロングヘア。
鏡紗季。俺の母親だ。
マジかよ、来たのか。あの毒親がどうして?
異世界転移しちゃったレベルで驚いている俺をよそに、母は優雅な足取りで俺の横に座る。
案内してきたであろう若い先生が扉を閉めて、立ち去っていった。
これ、今からどうなんの?
俺が驚きで固まり、先生たちも突然の事で驚いている。
そんな中、佐々木父がいち早く立ち直り言葉を紡いだ。
「あんたが母親か!今回の件、いったいどう落とし………」
「待ってあなた!」
だがその勢いは、何かに気付いた佐々木母によって止められた。
いったいなんだと怒鳴る夫に対し、慌てた様子で母は説明する。
「あの方!鏡くんのお母様!もしかして、クイーンドールズのサキちゃんじゃ無いかしら!」
「な〜にぃ!?あの謎の引退を遂げたサキちゃんだとぅ!?」
それを聞いた佐々木父は、妻同様に驚いて俺の母を刮目してきた。
クイーンドールズ………俺が生まれる直前に猛烈な人気を博していた、歌って踊る音楽グループだ。
そして妊娠するまで、母が所属していた集団でもある。
大きな音楽番組にもしょっちゅ出演していたらしいので、年代的に知っていてもおかしくはないか。
「あら、ご存知頂いてたとは嬉しいです。グループを抜けて17年も経つというのに」
おしとやかに答える我が血縁者。
超ネコ被ってやがるその態度に、業腹にも佐々木の両親は急にペコペコし始めた。
「まさか本当にサキち………さんだとは!えっと、この度は息子が大変失礼を致しました!」
「この罪は末代まで背負わせて頂きますわ!」
まさか、サキちゃんファンだからって態度を変えるのか?
おいおい、さっきまでの友情はどうした。一緒に毒親叩こうぜ!
だがその願い儚く、この場は既に母の独壇場。俺の入り込む余地など無くなっていた。
「いえいえ、こちらの方こそ息子がご無礼を。昔から乱暴な子で手を焼いておりまして、むしろもっとお灸を据えて頂いても良かったくらいです」
「そんな!悪いのはうちの息子です!ほら聡太、お前もお詫びしろ!」
「ええ!す………すみません、でした」
大◯田常務よろしく悔し気に謝る佐々木。
こうして、謝罪の会は予想外の連続で幕を閉じた。
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「まさか、あんたが足を運ぶとは思わなかったよ」
「本当よ。こんな時期じゃなければ………ったく」
解散してから10分後。正門前にて、俺は母と二人で話をしていた。
こんな機会は数ヶ月ぶりだ。
忌々し気な目を向けて来る母。
実の親子とは思えない不快なオーラを漂わせつつ、親子水いらずの会話に花が枯れる。
「あんたが問題を起こせば、詩織にも迷惑がかかるのよ?その事を分かってやっているの?これだからあんたは……」
「その詩織が首謀者なんだが?そして、俺は被害者だ」
「まあいいわ。どの道、先生がどう動こうと示談に持って行くつもりだったもの。詩織の足は引っ張らせない」
「足を引っ張るだと?それに、さっき言ってた“こんな時期”っていったいなんだ?何かあるのか?」
「そんなこと言ってないわ。いちいち波風立てないと気が済まないの?」
ちっと舌打ちしつつ、適当に誤魔化すポイズンマミー。
明らかに何かありそうだが、これ以上問いただしても無駄だろう。
そしてこの質問も、答えてはくれないだろうな。だが決意した以上、聞かない訳にもいかない。
俺は母を睨みつつ、人生何度目かも分からない問いを投げかけた。
「なあ、あんたはなんで俺を毛嫌いするんだ?」
「さあ?雄一にでも聞いてみれば?」
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姉の初登場?で始まり母の初登場で終わる第二章。いかがだったでしょうか?
次回から第3章。ついに母が伊織を恨む真相も明らかに。そして復讐の結末は?