40話: 作戦会議
失敗した!
何なのあいつ! 5対1なのに! 武器まで持たせたのに! クリスティーナを利用したのに!
全部ねじ伏せられてしまった。
5対1でボコらせて、澤井にクリスティーナを剥かせて、その動画を盾に口封じ。
いくらなんでも上手くいくだろうと思ってたのに。
まさか……バレてた?
いや……だとしても私に影響が出ることは無い。
一応佐々木たちも助けるつもりだったのよ?
けど、あいつら自身が情けなかったのだから、仕方ないわよね。
これからは大切な時期なんだもの。少し慎重に動かなくちゃ。
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あれから5日経って、土曜日。
俺は先生に容赦なくボイスレコーダーを叩きつけ、6人は停学かつ保護監督処分となった。
言ってしまえば、ほぼほぼ学校内で処理された形だ。
教員側が大ごとにしなかった理由は二つ以上ある。
一つは、被害者側がほぼノーダメージだった事。もし俺やチーナが取り返しのつかないダメージを負っていたなら、退学かつ施設送りになっていたはずだ。
そしてもう一つは、俺がやりすぎた事を隠すためだ。
なんでも、格闘技を習ったりしていると過剰防衛のラインがかなり厳しくなるらしい。
6人を退学処分や施設送りにしてしまうと、俺のやり過ぎ問題も言及せざるを得なくなり、最悪停学くらいにはなっていたかもしれない。
そこら辺は、橘先生がかなり奮闘してくれたらしい。ありがたや。
そして不確かだが、もういくつか考えられる。
まあ、その話は次話にしよう………次話ってなんだ?
ちなみに総司が撮った録画記録は提出していない。これも突き出したら、詩織にもある程度疑いの目が向いたかもしれないが、それでは困るのだ。
この切り札、今詩織に勘づかれる訳にはいかないからな。
そして、今俺はチーナと共に総司の家に来ている。
総司は実家暮らしだが、今日は総司以外家には誰もいない。
秋本が到着し次第、大事な話をする予定だ。
それまで俺たち3人は、総司の部屋でテレビゲームをして時間を潰す。
「おい伊織、バナナを道に捨てるな。食べ物を粗末にするな」
「そういうゲームだろ!! お前こそ亀の甲羅ぽんぽん投げて! 動物愛護団体に怒られるぞ!」
『ヨリ! じゃま!』
『チーナがうまいんだが!?』
わちゃわちゃとレースゲームを楽しむ俺たち。
ちなみに俺はゲームが下手なので、基本ボコボコにされる。
いや、2人が上手すぎるだけかもしれん。
そんなこんなで時を過ごしていると、ガチャりと部屋のドアが開いた。
秋本が到着したらしい。いつもの元気そうな顔を、扉からひょこりと覗かせる。
って勝手に入ってきただとぅ!?
「やっほ〜総司くん。連れてきたよ〜」
「ああ秋本、悪いな」
何か名前で呼んでるしいい!
家に勝手に入る+名前呼び。これはそう言う仲だろ間違いないだろ!
あれ、他にもそんな奴いた気が……気のせいか。
「やっほーいおりんチーナちゃん、お母さんだぞ」
「ようお前ら、楽しそうだな」
そして秋本に続いて、宮本や細井も入ってきた。
ん?呼んだのは秋本だけのはず。2人が来るなんて聞いてないぞ……
『私がユキに頼んで呼んでもらったの』
俺が疑問に思っていると、チーナが俺に耳打ちしてきた。
『どうしてそんな事を?』
『2人ともヨリの友達だから、知っておいて貰った方がいいよ』
友達……そうか、友達か。そうだな、話しておくのも悪くはないだろう。
「じゃ、みんな座ってくれ」
「お茶入れてくるね」
総司が座布団を用意し、秋本がお茶を用意する。
うん…………おん?
まあいいか。
そして6人でちゃぶ台を囲み、少し雑談をした後、ついに本題を切り出す流れになった。
皆が俺に注目する中、俺は静かに口を開く。
「これは、完全に俺の家庭の問題だ…。詩織や母さんに復讐するっていう、ただの私情だ」
みんな、俺の話を真剣に聞いてくれている。
「でも、皆には話しておきたい。みんなはその……友人だから。そして話を聞いたあとで、もしも……もしも協力してくれると言うのなら、とても助かるし、嬉しい」
そして、俺はみんなを見回す。
緊張した空気が張りつめる中、俺は宣言した。
「俺は、母さんの親権を喪失させる」
それを聞いて、驚いた顔をしたのが秋本とチーナ。
疑問符を浮かべているのが宮本と細井。
総司は知らん。
「親権喪失って、親子の縁を切るって事?」
最初に口を開いたのは宮本だ。明らかに低い座高を必死に伸ばして、首を傾げる。
「法律上親子としての縁は切れないけど、まあそんな感じだな」
「でもでもそれって、しおりんへの復讐にはならないんじゃないの?」
「いや、そうとも言えない」
口を△にして聞いてくる宮本に対し、俺は説明を続ける。
「親権ってのは、子供1人ごとに発生するものじゃない。親ごとに発生するものだ。だから俺への親権を失うと、同時に詩織への親権を失う。そうなると一緒には暮らせないし、詩織には代わりの後見人が用意される。親が子供にしてやれることが、ほぼ一切失われるんだ」
つまり……っと俺は続けた。
「詩織と母さんが、ある意味で親子じゃ無くなる」
「な、なるほど……」
目からウロコが取れるみやもっさん。
「あ、コンタクトとれちゃった」
もとい目からレンズのみやもっさんは、納得したような顔で部屋を出て行ってしまった。
どこ行くねーん。
そしてコンタクトをつけ直した宮本が戻って来るのを待って、話を再開する。
「でもよ、そんなに簡単に親権って無くせるもんなのか?」
「簡単ではないな。特に双子の片方だけが親を訴えるなんて、事例としてはレア中のレアだ」
細井の疑問は尤もなので、ここは少し丁寧に答えておく。
「親権喪失が適用される例はケースバイケースだし、親権喪失の条件もふわっとしてて明確なボーダーはない。それにこれは裁判で扱われる案件じゃないから、過去の事例の詳細は公開されない。だから出来るだけ、万全を期しておきたいんだ」
「そこで私たちに協力して欲しいってこと?」
「その通りだ」
意外と頭が回る秋本に、俺は頷く。
「こないだの林間学校で、詩織が母の俺への仕打ちを認知していると言う確認は取れた。母の虐待の記録は、実家にいる時にある程度集めてある。あとはその確度を上げるために、皆にはひとまず詩織が漏らした本性を集めて欲しい」
ここまで話した俺は、総司以外の目を見て問いかける。
「どうか、手伝って欲しい」
心臓がバクバク言う。こんな話、友達に話す事なんてほとんど無かった。
完全に自分勝手な頼みに、皆がどう答えるのか。
俺が緊張して待っていると、まずチーナが口を開いた。
『私はもう関わってるんだから、今更でしょ?なんなら私だって被害者なんだし、仲間外れなんて許さないから』
『そうか………ありがとう、チーナ』
チーナならそう言ってくれるのではないかと思っていたが、正直ほっとした。
俺はチーナの目を見て、静かに頷く。
「私も協力するよ。伊織くんが正しいって証明したいもん」
さらっと伊織くん呼びしてきたのは秋本。ウブな俺には刺さるからやめて。
「そういう事なら、俺もやるぜ。なんかざまあ展開っぽくて面白そうだ」
これは細井。彼も手伝ってくれると言う。ありがたい。
「俺は……」
「お前は断らせない」
既に片棒を担いでる総司は強制参加です。そもそもお前がいなきゃ色々と破綻しそうなんだよ。
そして、最後は宮本だ。みんなの視線が集まる中、彼女はゆっくりと話し始めた。
「私……」
緊張する宮本。
妙に顔が赤くなり、テーブルの上で手をギュッと握る。
そして、意を決したように口を開いた。
「私も、手伝うよ!だって私、いおりんのこと好きだもん!」
「「「「「え?」」」」」
ええええええええええええぇ!?
え、これって、ええええぇ!?
「あ……アカリ?」
チーナがなぜか顔を青くして尋ねる。え、なにそのオーラ怖い。
ちなみに明里と言うのは宮本の名前って今はそういうのどうでもいい!
「あ、いやその別にいおりんと付き合いたいとかそういう事は言ってないよ! 普通にこれはその………そう! ライク! ライクの意味だから! いおりんにはもうベストなパートナーがいるわけだし!」
大慌てで手をバタバタさせる宮本。
なんだなんだ、そういう事か。びっくりしたぁ。ってかパートナーって誰だよ全くもう。
そうだよな、宮本が俺の事愛してるとかそれは無いよな。
俺は急激にピッチをあげた心臓をなだめ、麦茶を飲んで心を落ち着かせる。
当の宮本はと言うと、真っ赤な顔でチーナの事を羨ましそうに見ていた。誤解を生んでしまいよほど焦ったのだろう。
チーナもほっとした顔をしている。うん、うん、よかった。誤解が解けて一段落だな。
とにかく、みんな協力してくれると言うのだから、これは大きな前進だ。
「みんな、ありがとう。これからよろしく頼む」
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次回、二章完結。