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36話: さぁ、飛ぶわよ!

「ぎゃあああああぁ!」

「無理無理無理無理!」


 機内が阿鼻叫喚の渦に包まれ、みんながパニックになる。

 この高度でハッチを開けば、機内にかなり強い風が吹き、特に外の近くは高さを直接感じるため、相当な迫力のはずだ。


 そしてそこにいるのは、俺。


 立ち上がってハッチの縁に手をかけ、下を覗き込む。

 そして抱いた感想は……


「うーん、低いな!」


 だ。


 半年に一回程度は、高度1万メートルからのHALO降下も体験する俺にとって、4000メートルはちょっと物足りない。

 まともに酸素のある高さなんて、まだまだだね。


 しかしみやもっさんには、そんな俺の感情が理解できるはずもない。


「高いよおぉ!約2878ミヤモトもあるんだからじゅうぶん高いよおお!3000人の私にあやまってええぇ!」


 などと、若干泣きながら意味不明なツッコミを入れて来た。


 1ミヤモト=139cmってことか。

 無駄に計算速いな。本当は冷静なんじゃないか?


 一歩踏み出せば急転直下。

 そんなところに涼しい顔して立っている俺に、気付けば宮本だけでなくみんなが化け物を見るような視線を向けていた。



 うーん、すっずしい!



「お、俺も景色みようかな……」


 そこで近くにいた佐々木が、強がって立ち上がろうとした。

 しかしそれは、インストラクターと繋がれたハーネスに妨げられる。


 あぶないよ…っとインストラクターに注意されてしゅんっとなる佐々木。


「やめとけよ、怖いぞ〜」

「お、おう。鏡は勇気あるな……」


 風に負けない声で煽る俺に対して、相変わらず引きつった笑みを浮かべるさっさきさん。

 だが俺が機外に意識を戻す寸前、一瞬忌々し気な視線で睨んできた気がした。


 少し、ボロが出たな。


 まあいい、スカイダイビングは楽しいんだ。佐々木程度にそれは汚せない。


「そろそろ行きますよ!」


 インストラクターが指示を出し、それを聞いたみんなが一斉に青ざめる。

 さあ、いよいよスタートだ。


 一番乗りは俺。


 先行してみんなが飛び立ったあたりで、一瞬カメラを全体に向けるのが俺の役目だ。

 だがそれまでは、好きに楽しませてもらう!


 ゴーグルをつけた俺は床ギリギリに立って、機外に背を向け両手を大きく広げる。

 体を支えるものは何もない状態で、機内の奴らに不敵な笑みを向けた。


「いおりんが頭おかしくなったぁ!」


 うるせぇ宮本。なってねえよ。


 とにかく俺は風が吹き付ける中、立ち上がり始めたみんなを見渡す。


 そして準備が整ったところで、バック宙をかまして大空へと飛び出した。


 ごおおおおおぉ!!!!


 自然落下特有の内臓が持ち上がる感覚に、意識すらも置いていってしまいそうな速度。

 空と地上が俺の視界をくるりと移動する。


 この瞬間だけが、人生で一番頭を空っぽにできる。


 あぁ、気持ちいい。


 バック宙、前宙、バレルロールなどのアクションをいくつかやった後、両手を広げてスピードを落とし、後ろを振り返る。


 その頃には後続も大体飛び立っており、豆粒のような人影が大空に振りまかれていた。


 お、わーとかきゃーとか言ってんじゃん。

 そうだろうそうだろう。

 飛んでみたら、案外楽しいだろ?


 俺は頭に装着したスポーツ用カメラをそちらに向け、できるだけ全体が写るように調節して撮影する。

 首が吊りそうだ。


 そのままスピードを殺し、みんなと並走。


 詩織の変顔は………無理だな。流石に見つけられない。


 しばらく生徒たちを録画していると、高度1000メートルあたりで一斉にパラシュートが開かれ始める。

 これだけの人数だとなかなかに圧巻で、空挺降下とは違うカラフルな傘たちが青空を彩った。


 ちなみに俺は低高度開傘の訓練も受けているので、まだパラシュートは開かない。

 俺にとって楽しいのはフリーフォールの時間だけ。

 つまらない低速飛行なんて、できる限り削りたい。


 地上300メートル付近で流石にパラシュートを開き、指定されたエリアに正確に着地。


 今回も正確な着地だ。満点!


 自画自賛していると、続々と後続も着地してきた。

 バサッ、バサッっとパラシュートが地面に叩きつけられる音が続く。


 飛び終わった多くの奴らの顔からは恐怖の色が消え、達成感や爽快感が表れているようにみえる。


 にしても、もう終わりか。楽しい時間は相変わらずあっという間だ。

 さて、あと片付けをしよう。


 ハーネスなどの器具を外し、移動の準備を進める。

 この後、前半組全員でバス移動し後半組の所へ向かう予定だ。


 だが、バスに乗り込むのには時間がかかってしまった。

 その原因は……俺だ。


 バスに乗る直前、俺は皆から引き留められた。


「すごいね鏡くん!くるくる回ってたの、ちょっと見えたよ!」

「あんなに低いとこでパラシュート開いて怖くないのか?」


 そう。好き勝手楽しんだおかげで、随分目立ってしまったのだ。

 キラキラした視線を向けながら、俺を取り囲んでくる男女生徒たち。


 このグイグイ感……いつかの海を思い出すな。


 あの時と同じく、ヘイトではなく尊敬が集まっている。

 口々に俺を褒める声は、思いのほかこそばゆい。


 そしてその群衆の中には、詩織ファンクラブと思しき男子も見えた。あろうことか、そいつも俺を称えている。


 いいのか?どやされるぞ?


 そして当の詩織はというと、輪の外側から俺を睨んでいた。

 ここからでも歯軋りの音が聞こえそうなほど、拳を握って肩を震わせている。

 その周りには、同様に不満顔を湛える信者たち。

 いつもなら、俺が目立つ時に必ずちょっかいをかけてくる連中だ。だが今回はそうしてこない。

 圧倒的に経験量の違う俺に、この分野で言い合っても勝てないと分かっているのだろう。


 いい気味だ。

 どうせなら、思いっきり調子に乗ったところを見せつけてやるか。


「大したことないって。ライセンス持ってるって言ったって200回飛んだ程度のCランクだし、慣れれば誰でも怖くなくなる」


 詩織に聞こえるように、分かりやすく嬉しそうにして自慢して見せる。


 へぇ〜、すげぇなぁ!と感心する雰囲気を育てつつしばらく詩織たちを煽っていたら、そろそろバスに乗れと促された。


 残念ながら、ここまでだ。


 もっと詩織の顔を歪ませたかったんだけどな。


 しぶしぶバスに乗り込み、窓枠に肘を乗せてはあっと一息つく。すると、なぜか宮本が俺の隣に座って来た。

 髪はボサボサで、ひどく疲れているように見える。大丈夫か?



「宮本、どうした?」

「いおりんはすごいね。あんな高いところを制するなんて、世界一ビッグだよ。私はちっちゃいけど、いおりんといたらビッグになれるかな」

「お前、高さが関わると途端に盲目になるんだな」


 スカイダイビング は、小さな宮本さんに大きなトラウマを残したらしい。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




 くそっ!くそっ!くそっ!

 鏡の野郎調子に乗りやがって!


 海ではチークキスについてドヤ顔で語ってたくせに、昨日の仮装大会の後やってたじゃねえか!騙したな!


 今日だってそうだ。

 みんなからもてはやされて、嬉しそうにして!後半組と飛んだ後も、クリスやみんなから褒められて!

 それに、宮本とも距離が縮まってる。羨ま……許せねぇ!


 そりゃ誰だって特技くらいあるさ。

 それがたった一つ明らかになったくらいで、あんなに騒がなくったっていいだろ?

 不公平だ!



 でも………いいさ。それも今夜までだ。



 天体観測に乗じて、鏡を懲らしめる。

 あいつもちょっとくらい喧嘩はできそうだけど、俺たちの準備は完璧だ。

 バレることなんてありえない。その為にあえて普段通り接したんだからな。

 鏡が泣いて許しを乞う姿……楽しみだ。


 そういえば、鏡はボイスレコーダーを常備してるかもしれないって詩織が言ってたな。



 でもまあ、ボコボコにしてから奪って捨てれば大丈夫だ。

 鏡……覚悟しとけよ。








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― 新着の感想 ―
[良い点] イキってるロリっ娘、可愛ええな?
[一言] 天体観測、楽しみだなあ(暗黒微笑)
[一言] ごめんなさいまだでした
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