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35話: ああああぁ!

 次の日。


 自然の家特有の朝礼の後、朝食や軽い掃除を済ませる。その間、昨日のチーナの行動について考えていたが、まじで禅問答みたいだったからやめた。

 彼女自身もいつも通りだったし、まあ本当にいたずらだったのだろう。


 そして9時。


 学年全員で一度集合してから2つの集団に分かれ、それぞれバスで移動を始める。

 片方は渓流下りのグループ、もう片方は俺たちスカイダイビング組だ。


 渓流下りは約90人、スカイダイビングは60人。

 スカイダイビングにこんなに参加するなんて、正直意外だ。

 そんな恐怖のアクティビティやりたくねぇ!って人が大半だと思っていた。


 だがその疑問はすぐに解決される。


 あ、詩織もいんじゃん。


 そう、詩織もスカイダイビングを選択していたのだ。バスに乗り込む際、その後ろ姿を見かけた。

 そうなると必然、芋づる式に親衛隊やファンクラブの信者共も、詩織にいい所を見せたいと参加する。


 大丈夫か?高所恐怖症とかいないだろうな。


 バス移動中、窓の外を眺めながらそんな事を考えていると、隣に座る細井がうとうとと俺の肩で寝始めた。即ミリタリーエルボーで叩き起こす。きもい。


 20分ほどバスで移動していると、山の麓からさらに少し行ったところで目的地に到着した。

 この辺りでは1番大きなスカイダイビングクラブ。

 広い芝生の敷地が見え、その中に何本か滑走路が引かれている。


 脳が震える。楽しみだ。


 書類などは事前に提出してあるので、受付は素通りして芝地に集合する。するとそこには、既に30人程度のインストラクターが控えていた。

 ライセンスのない人間がスカイダイビングをするには、インストラクターとタンデムで飛ぶしかないので、必要な人数だろう。

 外国人インストラクターも多い。日本人じゃライセンス取り辛いから、海外から雇ってるんだろうな。


 整列して芝生に座り、橘先生がインストラクターと少し話をした後で、


「それでは、今からインストラクターの方から説明を受けますので、しっかり聞いておいてくださいね」


 っと引き継いだ。

 それを受けて、リーダーっぽい人が笑顔で進み出て、よく通る声で話し始める。


「堀北高校の皆さん、今日はようこそいらっしゃいました!私はインストラクターの……」


 最初は、自己紹介や施設の概要など特に関係の無い説明。

 生徒たちは期待や不安、中には強がったりと、様々な態度でそれを聞いていた。


「それではスカイダイビングの説明に移りますが、今までにスカイダイビングをやったことあるよって人は、手を上げてください!」


 よくある緊張ほぐしのアイスブレイクだ。


 だが、スカイダイビング経験者なんてほぼ居ないだろう。日本だとワンジャンプ3万円以上かかる高級な遊びだ。

 案の定、手を挙げたのは3人だけ。全員見知った顔で、その面子は佐々木、詩織、そして俺だった。


「すごーい。詩織飛んだことあるんだあ!」

「詩織ちゃんはなんだって出来るんだな!」

「かっこいぃ!」


 すかさず褒め称える熱心な信者たち。

 俺と佐々木は完全に放置だ。まぁいいけど。



 その様子を見たインストラクターは、


「3人もいるなんて凄いですね。あ、そう言えば……ライセンスを持っていて、今回タンデムではなく1人で飛ばれる方がいるって聞いているのですが、どなたですか?」


 っと、メモを見ながら口にした。


 ざわつく生徒たち。


 ライセンスを持った高校生ジャンパー。そんなレアな人間がいると聞いて、皆物珍しそうにキョロキョロ探し始めた。

 もちろんそれを聞いた詩織信者たちは、疑うことなく即行で詩織を持ち上げようとする。


「ライセンス持ってるなんて詩織すご……あれ」

「だれだれ~って、しおりに決まって……あれ」


 ほとんどの人達が詩織に注目するなか、その声は一様に尻切れる。

 詩織がとても悔しそうに、ゆっくりと………手を下ろしたのだ。


「うそ、詩織ちゃんじゃないとしたら誰が………」


 生徒たちはざわつき、慌ててその人物を探す。候補は3人。そのうちの一人は消えた。もちろん、もう一人手を下ろす。


 そして、一人だけ手を下ろさなかった人物はすぐに視線を集めることとなった。


 ま、俺なんですけどね。


 おいチーナ、俺の腕を下から支えるな。別に下ろしたりしねえよ。


 そう、俺は軍の訓練に混ざって空挺降下(スカイダイビング )の訓練を受けているため、一人で飛べるようにライセンスを持っている。

 軍にはある程度免許の発行能力があり、スカイダイビングのライセンスは加盟国共通。


 え?滅多に体験出来るアトラクションじゃないから楽しみにしてたんじゃないかって?

 そりゃあ俺だって、スケジュールの関係で月に1、2日程度しか訓練に参加できない。ほんとなら毎日飛びたいくらいだ。

 ちなみにスケジュールが合った日は一日に10回近く飛んだりする。

 それほどに、俺はスカイダイビングが好きだ。


 俺がその人だと分かった途端、さらにざわつき出す生徒たち。

 詩織からも憎らしげな視線を受信しました。

 電波良好です。


 ここで橘先生が口を開いて、なだめるように補足した。


「静かにしてくださーい!今から2回に分けて皆さんに飛んでいただきますが、鏡くんには2回とも飛んでもらい、空から皆さんの動画撮影をしてくれることになっているんです」


 そう、今回は俺は撮影係をさせられることになった。

 本当はやりたくないのだが、2回飛ばせて貰えるという条件で引き受けたのだ。

 本来は余りのインストラクターがやるのだが、今回は参加者が多く余裕がないらしい。


 少しして喧騒も収まった所で、インストラクターが説明を再開。その後姿勢などのレクチャーが始まった。

 インストラクター達がばらけて生徒達に教えている間に、俺は先生からスポーツ用の小型カメラを受け取り、持参したジャンプスーツを着込む。


 皆と同様にジャージでも問題ないのだが、いろいろ楽しむ予定なので念のためだ。


 それらが終わっていよいよ、前半組が二台のプロペラ機に分乗し空へと飛び立つ。


 そしてこの頃には詩織信者達も調子を取り戻しており、ぎゅう詰めの機内で俺への陰口がささやかれる。


「あいつ写真係だからって、二回飛ぶとかずるいよな」

「鏡のやつ、詩織の顔ピンボケさせたりなんかしたら許さないんだから」


 個人の顔撮るなんて無理に決まってんだろ。

 体験ダイブは200メートル以上の間隔が開くし、飛んでる時間は数分だぞ。俺は引きで全体を少し写すだけで、撮るのも写真じゃなくて動画だし。

 でも詩織の変顔はありだな、いつかやってみよう。


 10分程度で目標の4000mに到着。雲はなく、天気も良好。地平線の彼方まで見渡せる絶景が窓のそとに広がっている。


「すげえたっけえ!」

「お前びびってんじゃねえか?」

「まさか!めっちゃ楽しみだぜ!」


 機内からは歓喜の声。と言っても、半分くらいは強がりに聞こえる。

 女子のほとんどは結構青ざめていた。

 特に俺の後ろに座る宮本は、口を△にして慌てている。


「え、高くない!?私なんかが飛んだらハーネスからすっぽ抜けてああああぁ!」

「おちつけ宮本。確かに身長制限ギリだったけど大丈夫だ。そなたは美しい」

「ごめんなさい!高いところから見下ろしたいとか身の丈に合わないこと考えてごべんなざい!」


 今からが本番だというのに、大丈夫か?


 何が本番って、飛ぶことではない。恐怖が……だ。


「ハッチ開きまーす!」


 インストラクターの一人がそう言い、側面の大きなドアが開かれる。

 初心者が一番怖いと思う瞬間。それは、外とつながって風が機内に入り込む時だ。


 ごおおおおぉ!


「ぎゃあああああぁ!」

「無理無理無理無理!」

「空が……見える」



 阿鼻叫喚、思った通りだ。


宜しければブックマークや評価☆をよろしくお願いいたします!


書いてる時、勝手に喋り出すランキング。

1位 総司

2位 宮本

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ついにリ○ロまで… …月夜さんが何も言われないし、 案外大丈夫?
[良い点] ここでなんか仕掛けてきそう
[一言] スカイダイビングのできる飛行機が2機で×2回? ならガイドは10人ぐらい、生徒20人ぐらいが限度と思いますが・・・なにか計算間違えた? 別にイチャモンつけたいわけじゃないんですよ…リアリテ…
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