33話: フレンズ
風呂と夕食を終えて、いよいよ仮装大会。
俺たちは班の男子達と共に、多人数用コテージの一角で仮装用の衣装に着替える。
俺は……ウサギだぴょん……。
着替えた自分を姿見で確認し、無事に発狂する俺。
「誰だよ俺にウサギ選ばせた奴はああぁ!キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!!!」
ウサギの手や尻尾、耳を付けて、白のパーカーに白地のカーゴパンツを装備。
今日初めてウサギになりきってよく分かった。
俺はどうしようもなく人間だ。
うさぎを名乗るにふさわしい人間は、きっと木組みの家と石畳の街にしかいないだろう。
「はははははは!いやよく似合ってるぜ鏡!はぁ、めっちゃかわい……ぶふぉ!」
「笑っちゃまずいよ細井。鏡だって恥ずかしいんだから」
そんな俺の醜態を見て、バカ笑いする細井となぜか堪えきれてる高原。
正直、これが他人事だったら俺も絶対に笑う自信があるのに、高原って時々価値観が常人と真逆の時があるんだよなぁ。
「にしても鏡、ウサギがいいって言ったのはクリスなんだぜ。諦めろよ」
「そこまでは言ってねえ。お前らが勝手に悪ノリしただけだ」
ため息をつきながら再度姿見を見る。
うわぁ、きもぉ。
そういや、昔のパソコンにデフォルトで入ってたエアホッケーのゲームに、こんなきもいウサギいたなぁ。
かく言う細井と高原は、アルパカにカンガルーの衣装だ。
細パカに関しては、アルパカ感を出すためにもっふもふのウールマフラーを巻いている。すごく暑そう。
高ンガルーは……うん、面白くない程度には似合っている。イケメンめ、器用に着こなしおって。
他の班はまだ着替えに時間がかかっている様なので、俺たちは早めに会場へ向かう。
一応トリックオアトリートを言い合う催しなので、皆に配るためのお菓子も用意した。
俺は不思議の国チックなバスケットに、飴ちゃんを大量に入れて持っていく。
まあここまできたら、世界観は徹底しておこう。
俺はノリと察しがいい男だ。そのはずだ。
陽が落ちた夜の道を、会場に向けて移動。
ザワザワと鳴る葉の音や、頬を撫でる冷たい風が秋の深まりを感じさせる。
会場は木々に囲まれた広場になっており、草が丁寧に刈られた中心部に、大きなキャンプファイヤが焚かれていた。
クラスマッチの時の物より、一回り大きいそれは、離れていても熱を感じるほど高く大きな炎を上げている。
まだあんまり来てない……まあ俺たちは簡単な衣装だから、早くて当然か。
先生に到着の報告を済ませ、班全員が集まるまで広場端の木の根元で待機する。
10分程で広場にはほとんどの生徒が集まり、今か今かとイベント開始を待つ話し声で、そこそこの喧騒になってきた。
まだチーナ達は到着していない。
何かあったのか?大丈夫か?っと心配になってきた俺は、スマホを確認しようとポケットに手を伸ばす。
その時、突然俺の両肩に重みが加わり、耳元で可愛らしい声が囁いた。
『ヨ〜リ、お待たせ』
「うお!びっくりし…かわ!」
驚いて振り返った俺のすぐ目の前には、まっこと完成されたチーナキャットがいた。
純白のワンピースに、栗色の猫耳。左右色違いの猫の手をつけ、ワンピースからはまだらの尻尾が伸びている。
安全ピンでも使って固定しているのだろう。
モチーフは、茶トラ猫って所か。
『どーお?ネコにみえる?』
そう言って、顔の前で手をにゃんにゃん振るチーナさん。
買い出しの際の、不完全なネココスとは比にならない可愛さ。
やばい、呼吸の仕方がわからん。今吸った?吐いた?く、どこかに色欲の魔女がいる……。
あ、細井が崩れ落ちた。あいつダイスロール失敗したな。後できもウサギが正気に戻してやろう。
俺がいつまでもフリーズしていると、チーナが答えを催促するように見つめてきたので、何とか発狂を抑えて褒め言葉を紡ぐ。
『だ、大丈夫。本物のネコが嫉妬するくらいその……オシャレキャットだよ』
まあ失敗して意味不明な事言ってるのは後の黒歴史。
普段の私服ではショートパンツが多いチーナのワンピース姿は、凄く新鮮だ。
多分猫耳外してハープに手を添えたら、さぞ神秘的な天使に見えるだろう。
『そっか、ありがと。ヨリは……ふっ』
『笑ったな?今笑ったなチーナ?』
『笑ってない笑ってない。ね、写真撮ろ』
そう言って俺の横に立ち、スマホの内カメでツーショットを撮るチーナ。
「ぬ〜。合流そうそうイチャイチャして〜」
「ん?何か言ったか宮本」
「なんでもなーいー」
宮本の不満げな声が聞こえた気がしたが、尋ねてもぷいっとされた。
激おこじゃん。なんで?
ちなみに宮本はリスのコスプレだ。
茶色のシャツに茶色のオーバーオール。
腰から背中にかけては尻尾としてふっさふさのフェイクファーが貼り付けられ、もちろんリス耳にお手手も装備済み。
さらに、腕組みをしてプーっと頬を膨らませての不満顔。
リスじゃん。
大丈夫か?それ以上リスとシンクロ率を上げれば、人間に戻れなくなるぞ。
ある意味チーナより似合って見える宮本の次は、藤田に目を向ける。
彼女も、キツネのコスプレを似たような工夫で着こなしていた。
と言っても、他2人に比べたらコスプレって感じがする。
よかった、君はヒトの姿を忘れないフレンズなんだね。
「それではみなさーん!全員集まった様なので、お菓子交換を始めてくださーい!それと、前半は必ず班全員で行動してくださいね!」
お互いのけもフレ感を確かめあっていると、拡声器からアクティビティ開始の声が響いた。
今から俺たちは6人で広場を練り歩き、目が合った班とポケも……お菓子交換をする。
おい、誰がホル〇ドや。2倍の攻撃力でぶん殴るぞ。
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書きたいことが多くて、仮装大会が2話構成になっちゃいました。
ちなみに作者はシマリスを飼っています。ちっちゃくて可愛ええんやで。




