31話: カレー様
まえがきー、まえがき。美味しい前書きはいかがですか?
※作者は深夜テンションです
「みなさん、登山お疲れ様でしたー」
無事全部の班が自然の家に到着し、現在。
何故か何処の合宿施設にもある国旗掲揚台の広場に、5クラス約150名の生徒と10人の教師が集まっている。
その全員の注目が集まる中で、橘先生の話が始まった。
「誰も大きな怪我なく無事に到着出来て安心しています。皆さんよく頑張りました!それでは、1番タイムの早かった班を発表しますね」
登山を頑張る唯一のメリット。
それは、1番早く到着した班にはこれから行われるカレー作りで豪華な食材が使える事だ。
期待しててくださいね〜、っと橘先生が言っていたので、実はなかなか楽しみにしていたりする。
さて、うちの班は1位になれただろうか。
「1番タイムの早かった班は、1組の第3班です!はくしゅ〜」
「おっしゃあ!」
発表された1組3班とは、まさしく俺たちの班。
思わず喜びの叫びを上げたのは細井。
俺も内心は喜んでいるが、さすがにこの人数の前でよっしゃあは無理だなあ。
バスケの時は野獣みたいに叫んだけど…。
とは言え俺たちは1位。高級食材は頂きだ。
さて、どんな食材をあてがわれるかな?
「そして、お楽しみの豪華食材は……」
……ごくり。
「カレーに使う牛肉が、飛〇牛になります!」
「「「カレーに飛〇牛!!!?」」」
だぎゅぅ……dぎゅぅ……ゅぅ……
直後、学年全員のツッコミがこだました。
正直俺も同じ気持ちだ!
せっっっっっかくのいい牛肉を、カレーに使ってしまえと言うのか!
所詮カレーなんて、ちょっと安物の肉をぶち込んだって美味しくなる魔法の料理。
なんならちょっと固いくらいの肉の方が歯ごたえに変化があって俺は好きだ。
それをよもや飛〇牛なんて……カレーにぶち込んだら味わかんねぇし、高級にするなら米とかカレー粉だろ!
橘先生、ゲームやらせたら絶対ステータス極振りするタイプだわ。ひどら〜。
ここで隣に座るチーナが、俺のジャージをクイクイっと引っ張る。
『ヨリ、ひ…らぎゅう?ってなに?』
相変わらず小首を傾げる仕草が似合う彼女に、俺はため息まじりに答えた。
『日本のブランド牛だよ。先生は何考えてんのかね』
『え、いいお肉なのに嬉しくないの?』
『その気持ちは……ほら、今から細井が代弁する』
そして俺が指さした先で、耐えられなくなった細井がばっと立ち上がった。
「せんせえわかってねえよォ!」
拳を握って熱く言葉を紡ぐ細井。
あいつ、力説するの好きだなぁ。
「一つだけいい食材使っても、カレー様の下ではみな平等!ただ円環の理の一部になっちまうだけなんすよ!」
「だ、大丈夫です!いいお肉は、カレー様の下でもしっかり自分の力を発揮してくれます!理に飲み込まれても、ほ〇らちゃんがきっと引きずり下ろしてくれます!信じてください!」
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野外にある調理場。
登山を終えて休憩が取られた後、いよいよカレー作りが始まった。
俺の担当は……火。
まあ得意分野を活かすというなら、サバイバル訓練も受けている俺にとってこれが最適解だろう。
「いおりんは調理担当じゃないの?海軍カレー作れそう」
と言うのは宮本の意見。だが、
「海軍カレーの"海軍"は旧日本海軍のことだ。米海軍でカレーは作らん」
と言うのが事実。
実際俺はカレーを頻繁に作ったりなどしないので、調理よりこちらの方が活躍できるだろう。
火の番くらい俺一人で十分なので、他の5人にはフルに調理に回ってもらう。
ちなみに高校生の野外炊飯ということで、火起こしや調理手順の指導は無い。
各自事前に調べて準備しておくようにとのお達しだった。
そうなると、普通の班は火起こしにも2、3人必要になるだろうな。
俺はナイフで細い薪を削いでフェザースティックを作り、マッチで着火。
火がついたところで細い木から乗せていき、最終的に太い薪に火が移ったところで、滞りなく焚き火が完成した。
マッチが支給されている分、俺にとってはかなりイージーゲーム。
例え道具が一切支給されなくても、おそらく摩擦式で着火できたと思う。
早々に仕事が終わり、後は火を絶やさないようにするだけになった俺は、ボーッと火を眺めて過ごす。
なんでだ!なんでつかないんだ!
っと言う叫びが至る所から聞こえてきた。
まぁ火起こしは慣れが大きい分、いくら調べてきても上手くいくかは別問題。
がんばえ〜っと心の中で応援する。
途中秋本や他の知り合いがアドバイスを求めて来たので、その都度やり方を教えてやる。
だが意外なことに、石田も俺に教えを乞うて来た。
登山の時同様、ぎこちない様子で俺に頼む石田。
クラスマッチの後からはずっと俺に関わらないようにしていたあいつが、合宿が始まってから妙に接触してくる。妙だ。
だがシカトするのも感じが悪いので、簡単なコツだけ教えてやると、すぐに帰って行った。
いったいなんだと言うのだろうか。
『もう火ついたんだね。さすが』
石田を見送っていると、チーナが様子を見に来た。
『そっちの調理は終わったのか?』
『もう少しで終わるから、様子見てきてくれって』
『そうか、早いな』
予想ではもう少しかかると思っていた。
うちの班は優秀なのか?
俺の近くまで歩いてきて、そのまま隣にしゃがみこむチーナ。
『そう言えばヨリって、星に詳しかったりする?』
一緒に火を見つめていると、不意に彼女がそんなことを聞いてきた。
星と言うワードに少しビクッとすると同時に、「チーナと一緒に観るんだろ?」っと言う細井の言葉が頭に浮かんだ。
あれが関係あるかは分からないが、ここで見栄を張っても仕方がない。
『いいや、全然知らない。あ、オリオン座くらいなら分かるぞ』
『そっか』
正直にそう話すと、チーナがなんだか微妙な反応を示す。
期待が外れた……っという様な表情をしている。
なにか考えていたのだろうか。
少し考えた後、意を決したように再度口を開くチーナ。
『と、ところでヨリ、明日の………』
「おーい、こっち準備できたぞー」
しかしその言葉は、細井達が鍋を持って来た声によって遮られる。
「あれクリス、何か話してたのか?」
「………なんでもない」
「え、どしたの怖い顔して」
細井に対してジト目を向けるチーナ。
何か機嫌でも損ねたのだろうか。
「と、とりあえず、カレーを作ろう。腹減ってきた」
「そ、そうだな。そうしようぜ」
変な空気になる前に俺はそう提案し、カレー作りを再開する。
そして出来上がったカレーは…………先生、さーせんした。
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お陰様で、書籍化&コミカライズが決定致しました!
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