26話: クラスマッチの終わり
✳︎この物語はフィクションです
女子決勝戦。
相手は2年5組、詩織がいるチームだ。
俺は軍人達に混ざって2階から応援。
詩織の取り巻きと軍の男たち(&アンジー)の応援合戦は苛烈を極めた。
にしても、チーナや秋本も上手いが、腹立たしい事に詩織が相当に上手い。
ばかすか点を入れまくり、味方のサポートも欠かさない。
ダンスをやっていた母の運動神経。
それをしっかりと遺伝し、遺憾無く発揮している。
滝のように汗を流しながら頑張るチーナ。
その健闘届かず、うちのクラスは僅差で負けてしまった。
『ごめんねヨリ。詩織さんに勝てなかった』
『そんなの、別にいいんだよ。楽しかったか?』
『うん。久しぶりに全力で走っちゃった』
試合後チーナの様子を見に行くと、落ち込んではいるものの、とても清々しい顔をしていた。
ま、あんだけ動けば気持ちいいだろう。
ぽんぽんっとチーナの頭に手を置くと、チーナは嬉しそうに微笑んだ。
そこへ、
「あら伊織。来てたのね」
詩織がつかつかと歩み寄って来た。
相変わらずムカつく笑みを浮かべる彼女に、親衛隊気取りの女子やファンクラブを名乗る男子が数人続く。
また何かケチを付けに来たのだろう。
「そういえば伊織、さっきの試合見てたよ」
首に掛けたタオルで汗を拭きつつ、鋭い眼で言い放つ詩織。
「そうか。応援してくれてどうも」
「ええ。でもあの試合、伊織は随分好き勝手動いてたね。ずっと試合を混乱させて、チームの皆に迷惑かけちゃだめじゃない」
なるほど。詩織は俺が勝った事が不服なのだ。
事実は塗り替えられないものの、喜ぶ俺に少しでも泥を塗っておこうという魂胆だろう。
相変わらず、不愉快なタイミングだ。
「あの試合の最多得点は俺だ。そんな俺を使おうとしなかったチームに、迷惑も何もないと思うけど?」
「また言い訳して。あなた以外バスケ部だったんだから、そのチームワークを活かすのは当然でしょ?」
だが今回ばかりは、攻めが少し雑だ。
少し、焦っているのかもしれない。
「それに、あの人達は何なの?あんなに大声出して、さすがに迷惑よ」
詩織が矛先を向けたのは軍の野郎ども。
そしてついに、ボロを出した。
俺は、心の中でほくそ笑む。
「おいおい、俺を応援してくれてる友達に、随分酷いことを言うじゃねぇか、それに……」
俺はギロりと詩織を睨んで、言葉を続けた。
「うるさいと言うのなら、そのお連れさんたちにも、黙れって言ってやれよ」
「なっ、なんてこと……く」
なんて事を言うんだ、そう言おうとして……辞めた。
なぜなら、彼女も同じ事を言っているからだ。
今日ばかりは、俺の勝ちだな。
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クラスマッチ2日目の競技のうち、我がクラスが出場したのは、サッカーとソフトボール。
そしてサッカーには総司が出場し、優勝した。
2種目で優勝、1種目で準優勝したうちのクラスは総合優勝。
担任の橘先生はほくほく顔だ。
多数の軍人が応援に来た事で俺は質問の嵐を受けたが、父の友人で交流があっただけだと誤魔化しておいた。
現在は全ての競技、閉会式が終了し、オリエンテーションのフォークダンスが始まろうとしているところだ。
陽の傾いたグラウンドの中心に、大きなキャンプファイヤーが設置され、それを待っている間、まだ相手が見つかっていない男子達が必死に女子を誘っている姿が散見される。
そんな中俺は………昼寝していた。
グラウンドの端にある芝生にごろ寝し、準備が進むキャンプファイヤーを眺める。
横には総司。奴も同様に芝生にゴロリ。
日の落ちかけた校庭に吹く風が、顔に当たって気持ちいい。
「そういや総司、お前フォークダンスの相手いんのか?」
よくある高校のフォークダンスは、相手がもともと決められているか、一定時間でローテーションする。
どちらにしても、相手がいなくて踊れない………なんて事にはならない。
だがうちの学校は、踊りたい奴だけ踊る………というスタンスだ。
相手がいなければ踊らなくていいし、相手がいれば踊ればいい。
自由意思によって選ばれるカップル。
当然、一部の男子は躍起になって相手を探す。
そして俺は、もちろん相手は決まっていない。去年もそうだ。
総司も、きっと相手なんて………
「秋本と約束してる」
「そうか…………はあぁ!?お前らそういう関係なの!?」
あまりの驚きに、ガバッと身を起こす。
そんな俺を、別にそんなんじゃない……っと、総司は静かに諭した。
「俺が秋本と踊るのは、踊ってる奴から見下されるのが許せんからだ」
「あぁ、なるほど」
いつも煽る立場の総司は、え?踊る相手いないの?って言う視線を受けるのが耐えられないのだろう。
そんな会話をしていると、
「あ、こんな所にいたー」
『何で隠れてるの?』
秋本とチーナがぱたぱたとこちらにやって来た。
なんだろうか。
ていうか、カクレテナイヨ?
「そろそろ始まるから、行こう?清水くん」
「ん?ああ、行くいく」
なるほど、秋本が総司を呼びに来たのか。
そして秋本の目を見て分かったのだが、誘ったのは秋本だ。
お前、筋肉質な総司の腕触りたいだけだろ……。
あの二人、案外お似合いなんじゃないかとふと思う。
連れ立って歩き出す2人を見送って、芝生に腰を下ろすと、チーナも横に座った。
『ねえ、昨日の試合ヨリが勝ったじゃない?それって、ヨリが私を勝ち取ったって、思われるのかな』
不意にそんな事を言い出すチーナ。
なんだ、そんな事を心配していたのか。
『それは大丈夫だろ。みんな、澤井に手を引かせた、くらいに思うんじゃないか?ご都合解釈は得意そうだしな』
『………そ』
だから俺は安心させるようにそう伝えるが、どうしてだろう。一瞬チーナが不機嫌になった気がする。
『と、とにかく、澤井を黙らせたのは僥倖だ。ラスボス攻略って感じだな』
『ふふっ。ラスボスは詩織さんでしょ?』
そう言って少し笑い合う。
すると不意に、俺の左腕に何かが当たった。
見ると、チーナが少し恥ずかしそうに俺の腕に手を添え、上目遣いで見つめていた。
『う……ど、どうした?』
その破壊力に少し心をやられながらも、何とか言葉をかける。
するとチーナは、少しモジモジしながら、口を開いた。
『えっと、その……フォークダンス、一緒に踊ろう?』
『え、俺と?』
その内容は、ダンスの誘いだった。
ひょっとしたらと、期待していなかったと言えば嘘になる。
一緒に踊るとしたら、チーナがいいとも思っていた。
だが、俺が誘ったのではきっと彼女は断らない。
普段世話になっているからと気を遣って。
ヘタレと言えばそれまでだが、チーナの方から誘ってくれることを、少し願っていた。
だから俺は、素直に答える。
『いいのか?俺踊り下手だぞ?』
『リードしてあげる。チークキスみたいに』
そう言って俺たちは、手を取って歩き出した。
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最近、伊織が学校で明るい。
調子に乗っている。
理由は、クリスティーナ・クルニコワ……彼女に間違いない。
転入して来てから、伊織はその子を甲斐甲斐しく世話をしてるし、そうしてる時あいつはすごく楽しそうだ。
今だって、キャンプファイヤの周りで2人仲良く踊っている。
許せない。
あんなにも母さんを傷つけておいて、幸せになんてさせない!
母さんの夢を奪っておいて、どうしてへらへら笑っているの?
お灸を据えておかないと!
そう言えば、もう少しで林間学校があったわ。
場所は山中にある自然の家。
あそこなら……ふふ。
伊織には少し痛い目を見てもらおうかな。
そう言えば、伊織のせいで傷つけられたバカが何人かいたわね。
名前は確か、佐々木と石田。
あの子たちはまだ私の手駒じゃないけど、この手の奴らを操るのは簡単。
うん、うん、いい事思いついちゃった!
悪く思わないでね伊織。
だって、悪いのはあなたなんだから。
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ご要望の多かった詩織視点、やっと書けました!
話の流れを考えるとここで出すのがいいと思っていたのですが、ご感想欄で誤魔化すの大変だった………
それでは、今後ともよろしくお願いします!