23話: リアルで聞いたらやばいセリフ第一位
※この物語はフィクションです
休みが明けて、月曜日。
俺、チーナ、総司、秋本の4人は、いつものように総司の席の周りで4人で昼食を摂っていた。
総司と秋本は手作り弁当。
俺とチーナは相変わらずコンビニの弁当………ではなく、今日はアンジーの手作り弁当だ。
ああ見えてアンジーは料理ができる。
こっちに帰ってる時くらい母親らしい事をしたいと言って、最近持たせてくれるのだ。
世話を焼いて俺の分まで作ってくれるのは、素直にありがたい。
だがアンジーよ、いい加減お土産を消費しようとするのをやめろ。
ドレッシングの代わりにマーマイトをかけるな。食えん。
普通に弁当は美味しいのに、毎日適度に散りばめられている地雷に苦戦する俺とチーナ。
今日も慎重に食べ進めていると、不意に秋本が口を開いた。
「あれ!?鏡くんとチーナちゃん、よく見たらお揃いのブレスレットしてる!」
そう、俺とチーナがペアブレスレットを付けていることに気がついたのだ。
こういうところ、やはり女子は目ざとい。
いや、総司はどうせ気づいてたんだろうけど。
「まあ……な、チーナがバイト代でプレゼントしてくれたんだよ。普段の礼にって」
嘘をつく意味もないので、簡潔に答えておくが、へぇ〜っと目をキラキラさせて見てくる秋本は、明らかに色々問いただしたい様子。
実は朝から似たような視線をずっと感じているのだ。
そんな秋本の興味にあえて気付かない振りをしていると、今度は総司が横槍を入れてきた。
「……落ちはあるんだろうな?もし惚気話で終わったら承知しないぞ?」
「落ちは無いし惚気けてねえよ!!」
『何の話?』
『んんんんん秋本がブレスレット可愛いねって言ってる………』
こんな僕らは仲良し4人組☆
今日も殺伐と食事に勤しむ。
そこでふと、俺はある事が気になって総司に話を振った。
「なあ総司?3年の澤井って知ってるか?」
バスケ部の連中がやばいって言っていた、澤井先輩について、本当に突然聞きたくなったのだ。
虫の知らせか?
まあ日常会話の切り口なんてそんな下らないきっかけばかりだし、話題提供にはピッタリだろう。
「澤井?そんなやつ知らんな。バスケ部の話なら秋本に聞けよ」
「知ってんじゃねぇか!素直に教えろよ!」
話題提供何それ食えんの?とでも言うように流そうとする総司。
だがこいつは、常日頃から人を煽れるように有名人の情報収集には余念が無い。
この手の事は総司に聞けって教科書にも書いてある。
知らないはずが無い。
そんな俺の表情を見て、観念したのか面倒そうに教えてくれた。
「はぁ……3年2組澤井大輔。バスケ部のエースで相当女にモテる。その分女癖が悪い。今までに泣かせた女は8人と……」
「待った待った待った!叩いたら予想外に埃が出てきたちょっとストップ!」
予想の五千倍ヘビーな話に発展してしまい焦る俺。
なんだよ、ただ単にバスケ上手い先輩じゃ終わらねえのかよ。
ていうかこの学校民度低すぎないか?
まともなやつがいねぇ!
「そう言えば、私もしつこく声かけられた時があるんだよね」
同じバスケ部である秋本が憂鬱そうに発言する。
確かに秋本は可愛いし、同じ部活と言うだけあって声は掛けやすいだろうな。
今の雰囲気からして断ったのだろうが、澤井先輩ってモテるんじゃないのか?
少し気になったので聞いてみる。
「秋本は澤井ってやつがカッコイイとか思わなかったのか?人気あるんだろ?」
「あの人は背が高いだけだよ。筋肉だって、鏡くんに比べたら脂肪だよ」
「筋肉が脂肪ってどないやねん……」
そういや秋本は筋肉フェチだった。
かわいそうな澤井さん。アーメン。
「あの人は可愛い子にはすぐ声をかけてくるから、チーナちゃんも気をつけてね」
話の流れで、チーナに話を振る秋本。
その声音には、本気で心配している雰囲気が滲み出ていた。
秋本は優しいのだ。筋肉フェチだけど。
『秋本が、澤井って先輩のナンパに気をつけろってさ』
『サワイ?分かった。気をつける』
チーナに通訳してやりながら、弁当の残りをやっつける。
やべ!マーマイト食っちまったまっず!
俺が劇物をお茶で流し込んでいると、にわかに教室が騒がしくなった。
誰か来たようだ。
詩織か?またあいつなのか?もう食う場所変えようか。
そんな考えが頭に浮かんだが、それは杞憂だった。
入ってきたのは男だったのだ。
190cmは超えてそうなひょろっとした長身に、染めた茶髪。
軽薄そうな表情。
彼についてきたのであろう、廊下から覗く各学年の女子勢。
そこまで読み取った時、ふと別の候補が頭に上がった。
いやいやまさか、そんなタイムリーな………
「さ、澤井先輩じゃないっすか!ちっす!」
石田が頭を下げていた。
確定ですやん。こいつが澤井か……。
そんな澤井は、誰か探しているかのように教室をキョロキョロ見回すと、俺たちの方に目を止めて、嘘くさくニコニコしながら近づいてきた。
やっべ。これめんどいやつぅ。
「やあ、君がクリスティーナだね。廊下で何度か見かけてたんだけど、あまりに可愛かったから、一度話がしたかったんだよね」
そう言って近くの椅子に腰を下ろすサワーイ先輩。
明らかにクリスティーナへのナンパ目的だ。
いくらなんでもフラグ回収が早すぎるだろ……。
口調がキザすぎて、デカい身長とのミスマッチ感が凄い。
「えっと、先輩だれですか?」
少しでも意識を逸らそうと、俺はすっとぼけた質問を投げかけてみるが、それを聞き流して澤井はチーナに話しかけ続けた。
「俺は澤井大輔。ねえクリスティーナ、週末どこかデートに行かない?最近できた遊園地とかさ」
「えっと、その………こんにちは」
相変わらず噛み合わない会話。
ちょっと聞いてて面白い。
だが流石は陽キャと言ったところか、安っぽい笑みを張り付かせながら、その後もしばらくチーナに話しかけている。
だがその瞳には、隠しきれない劣情が宿っていた。
こいつも所詮、ただの面食いだ。
正直佐々木より気に食わない。
あれはあれで一生懸命やっていたのに、こいつときたら、どうせ自分のものになるから余裕、とでも言うような顔をしている。
俺は澤井を止めるため、再度口を開いた。
「澤井先輩。チーナが困ってるんでそろそろやめてもらっていいすかね?」
「困ってるって、ただデートに誘ってるだけじゃないか」
「どうせ伝わってないですよ。デートに行ったって言葉通じないですから、諦めてください」
「言葉なんて、愛さえあれば関係ないさ」
愛が無いから関係あるんだよボケェ!っと言いたくなるが、さすがにそれは我慢する。
俺がだいぶ引きつった笑みを浮かべていると、澤井が少し話の方向性を変えてきた。
「ていうか君は、何の権利があって邪魔をするんだ?君はクリスティーナのなんなんだい?」
その返しに、思わず言葉に詰まってしまう。
友達……隣人?いやいや保護者?
どれも微妙だし、どれを選んでも反撃を許す。
いっその事、こいび…………
「それはですねぇ」
俺の頭がフリーズしかけていたところに、総司が口を挟んできた。
まさか総司、手伝ってくれ…………うわあニヤニヤしてるぅ。これやばいやつぅ。
「こいつらの手、見てくださいよ。これがどういう意味か、分かるっすよね?」
そう言って総司はチーナの手首を指差した。
その先にはもちろん、俺とお揃いのブレスレット。
これがどういう意味……………ってやめろそうじいいいぃ!
「な!んだと!」
「待て先輩誤解だ!いや陰謀だ騙されるな!」
驚愕の表情をしている澤井に慌てて再考を促す。
ってか、そんなに驚かなくても良くないか?傷つくよ俺?
「ちなみにですね先輩、こいつ、クラスマッチでバスケにでるんすよぉ」
ウッキウキな子供みたいな表情で追い打ちをかける総司。
だめだ詰んだ。完全にロックオンされた。
それを聞いた澤井は、俺を値踏みするような不快な目を向けて、俺に名前を尋ねた。
「君、名前は?」
「清水そうj……」
「鏡ですよ先輩?」
なすりつけ失敗。
にしても、俺の名前を聞いてどうしようと言うのか。
そんな疑問を持ちながら、澤井が続ける言葉を聞く。
「なるほどね。それじゃあ鏡くん、クラスマッチで僕と………」
そこまで聞いて、なぜか凄まじい寒気がする。もしも、もしもあのセリフを言われたら、俺は発狂するかもしれない!
「僕と、クリスティーナを賭けて勝負しよう」
「ぅぷ、おぇぇ」
破壊力、マーマイトの5倍。
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