22話: ペアルック
前回のあらすじ。
田中が仲間になった!!テロレロリーン
✳︎この物語はフィクションです
土曜日。
今日はチーナ、アンジーと共にいつものショッピングモールに向かっている。
もちろんアンジーの運転する車でだ。
日本で一ヶ月過ごしたチーナには、いろいろと足りない物も出てきた。
アンジーも久しぶりの日本で、買いたい物があるらしい。
『でも、何で俺まで連れてくんだ?たまの機会なんだから、親子の親睦深めろよ』
『なに水臭いこと言ってんの。チーナだって、伊織がいた方が楽しいもんね?』
『うん。ヨリがいないと始まらないよ』
俺はガラスを固定する僅かなでっぱりに肘をついて、ぼーっと外を眺めつつ、すっかり定番になってしまったロシア語で会話をする。
そんなふうにしばらく過ごすと、モールに到着した。
見慣れた駐車場に慣れた運転で車が停められ、3人でモールに入る。
だが今日は少し、様子が違っていた。
『人が、多くないか』
そう、今日は普段の週末より随分と人が多い。注意しておかないと、しょっちゅう肩がぶつかってしまうくらいだ。
何かあるのか?
『今日は年に一番の大セールらしいから、そのせいね』
アンジーはその理由を知っていたようで、人混みをかき分けながら説明してくれた。
なるほど、人が多い訳だ。
『にしても、流石に多すぎね、はぐれちゃわないように気を付けないと………』
はぐれた。
「アンジーのやつ秒ではぐれやがったぁ!迷子センターの厄介になって、恥かかせてやるわああぁ!」
“三十代半ばの、アンジェリーナ様。お連れの方がお待ちです”みたいな?
いやいっそ、アンジェリーナちゃんでも面白いかもしれない。
『ヨリ、怒ってるの?』
『……本気じゃねえよ。さあ行こう。アンジーがいなくたって買い物はできる』
はぐれたと言っても、俺とチーナは一緒にいる。
いなくなったのはアンジーだけ、買い物には支障ない。
迷子になったのは俺たちだって?違うな、正義は多数にある。
とりあえず時間を無駄にしたくないから、歩き出そうとする。
だが人混みのせいで、その歩みはすぐに止まった。
『人が多すぎるな。これじゃ、俺たちもはぐれかねない』
正月の神社とまでは言わないが、かなりの人の多さだ。
はぐれないように気をつけてたんじゃ、まともに移動もできない。
『どうするかな……』
『手でも繋ぐ?』
『そうだな。そうすればはぐれなくてんでなに言ってるか分かりませんが?』
驚いてチーナを見ると、少し挑戦的な、それでいて照れているような表情をしていた。
いやそれ、どんな表情よ。
『おいおいチーナ、手繋ぐって本気で……』
『あーいいのかなー?私ちっちゃいから、はぐれたら合流するの大変だろうなー?』
『おまぇ……く、分かったよ。ほら』
チーナめ、いつの間にそんな悪知恵を習得しやがったのか。
まあ、このままだとまともに動けないのも事実。
断れなくなった俺はそう言って投げやりに左手を差し出すと、チーナはしてやったりとほくそ笑み、その手を握ってきた。
恋人繋ぎで。
え?なんで?なんで普通に繋がないんだ?ロシアではこれが普通なのか?
急なことに混乱する俺。そしてその中で、一つの、ある推測が浮かび上がった。
もしかして、チーナは俺の事……。
そんなとんでもない妄想が浮かんでしまい、慌ててチーナの顔を見やると、
『何してるの、早く行こう!』
っと、チーナはさっさと歩き出してしまった。
『ちょっ!待て待て引っ張るな!』
あれ、さっき何か考えてた気がするけど、まあいいか。
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いくつか店を回って、必要な物を買い揃えていく。
アンジーにスマホでメッセージを送ってみたのだが、この人混みだと1日で買い物が済むか分からないので、少し別動で買い物をするとのこと。
確かに、手分けした方が効率的だろう。
俺とチーナは相変わらず手を繋いで行動している。
握る力加減がゲシュタルト崩壊してきた。
手が汗ばんでいないか心配だ。
歩いていると、常に嫉妬の視線に晒されて落ち着かない。
そんな俺の心情など露知らず、次はあっち!っとぐいぐい引っ張っていくチーナ。
まったく、なにがそんなに楽しいのやら。
そんな風にしばらく買い物をしていると、突然チーナがある質問をしてきた。
『ねえ、うちの高校って、アクセサリーとか付けても大丈夫?』
『え?確かシンプルなやつなら問題ないはずだが。クラスにも何人かつけてたはずだし』
不思議に思いつつもそう答えると、さらに奇妙な事を言ってきた。
『そっか……。ねえヨリ、悪いんだけど、ちょっとあそこで待っててくれない?』
そう言って、店から少し離れた、人気が少ない窓際のベンチを指差すチーナ。
『?? まあいいけど、一人で大丈夫か?』
『大丈夫だいじょうぶ。いいから待ってて』
そう言って一人でぱたぱたと入って行ったのは、アクセサリーショップ。
先ほどの質問を鑑みると、学校でもつけられるアクセサリーを探しに行ったのだろうか。
一人で見たいのは、まあそんな事もあるだろう。女の子だし。
若干疲れを感じていたこともあり、ちょうどいいのでベンチに腰掛けてチーナを待つ。
スマホを取り出し、定期購読している月刊誌を読んで時間を潰していると、15分ほどでチーナが店から出てきた。
その右手首には、先ほどまでなかったピンクゴールドのチェーンブレスレット。
チェーンの一部が同じくピンクゴールドの細長い湾曲したパーツになっており、シンプルで洒落ている。
『それ買ったのか?いいじゃないか、似合ってるぞ』
普段からリアムに“女性を褒めろ”と口すっぱく言われているので、気づいた段階で褒めておく。
と言っても、お世辞でもなく本当に似合ってると思ったので自然と言葉は出てきた。
『ありがとう。この前のバイト代で買ったんだよ。それで、その………』
『どうした?』
話しながら、急にもじもじし始めるチーナ。
今日はつくづく変な言動が多いな。一体どうしたんだろうか。
『その、手、出してくれない?』
『ん?こうか?』
また手でも繋ぐのだろうか。そう思い左手を差し出すと、カチャっ……と、何かがつけられた感触がした。
見ると、燻んだ黒色のブレスレットが俺の左手首に。デザインは………
『おそろい………か?』
よく見ると、金属パーツの部分に猫の柄が彫り込んであり、チーナのものと対になっている。
そう、そのブレスレットは、チーナがつけている物と色違いのペアブレスレットだった。
『その、ヨリにはいつもお世話になりっぱなしだから、自分でバイトした時には、まずヨリにお礼がしたくって……』
『それで、ペアを?』
『お揃いのものをつけられたら、素敵かなって』
そう言って、照れながら微笑むチーナ。初めて会った頃と比べて、俺の前では随分と表情豊かになった。
何だろう。
こうやって親しみを示してくれる事が、すごく愛しいと、感じた。
『ありがとう。嬉しいよ。猫はチーナの趣味か?』
だから俺は、素直な気持ちで礼を言う。
『可愛いでしょ?』
それを聞いて、チーナも嬉しそうに微笑んだ。
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ペアルックって、憧れますよね。