21話: 田中
前回のあらすじ。
マーマイト
※この物語はフィクションです
「よし、じゃあ練習始めようか」
指揮を執る高原。
あーい、と返事をする男4人。
今日は今から、クラスマッチの為の練習を、体育の授業時間を使って行うところだ。
体育館では男女それぞれのバスケ組、グラウンドではサッカー組とソフトボール組が練習している。
男子バスケ組のメンバーは俺以外に、高原、田中、田中、たな……あ、田中しか覚えてないわ。
ただ、俺以外全員バスケ部所属だと言うことは知っている。
全員身長は俺より高く、そこそこ鍛えてるっぽいが、軍の野郎どもに比べれば迫力に欠ける。
まずは体育館の隅で、簡単な作戦会議が開かれた。
「多分、チームのほぼ全員がバスケ部で構成されているのは、うちのクラスと3年2組くらいだ。そこさえ倒せれば、バスケ優勝は俺たちだ」
「でもよ高原、3年2組にはあの澤井先輩がいるぜ」
「だよな石田。澤井先輩はやばい」
「ああ細井。あの人は、デカいし高いし、何よりうまい」
「大丈夫だ松田。俺たちなら勝てる!」
………………田中いねぇじゃん。
ていうか、
「澤井って、そんなにやばい人なのか?」
黙って聞いていた俺は、そう疑問をぶつけた。
それに丁寧に答えてくれるイケメンくん。
「鏡はバスケ部じゃないから分からないだろうけど、澤井先輩は体育大学にスポーツ推薦も貰ってる、うちの部のエースだよ」
「ほう…」
確かにやばそうだ。俺が頷いたところで、他のメンバー1人が早速俺に噛み付いてきた。
「だから鏡、素人のお前が出しゃばって足引っ張んなよ」
「……せっかくなんだから楽しませてくれよ松田」
「石田だ」
あ、間違えたごめん。
「まあまあ、鏡もきっと活躍してくれるさ。運動できそうだしさ」
たかはらぁ。お前もしかしていいやつか?
ちなみにだが、先程から話していて今回のチームに俺のアンチメンバーが一人いることが分かった。
石田だ。
それ以外の田中と高原と田中は、そこまで俺を嫌っている訳ではないらしい。
ただ、高原は善悪の判断がだいぶ自分基準に寄っているため、場合によっては無垢な俺キラーに化ける。
さらに俺を嫌ってる石田は、うちのチームで一番バスケがうまいと来た。
となると、自然とボールが集まるだろうから、石田の采配次第では俺を好きにできる。
はあ。せっかくやるならストレスフリーに楽しみたいのに、うまくいかないものだ。
その後いくらか話し合いをした後、実際に練習を始めることにする。
少し前から、体育館のもう半面を使って既に女子がバスケの練習を始めていた。
今はパスラン……文字通り、走りながらパスを回す練習している。
秋本とチーナも2人でやっているのだが……うまい。
秋本は女バスだから分かるとして、チーナも相当運動神経がいいらしい。
それは昨日基地での練習で見ていても分かった。
「おい鏡、女子ばっか見てないで始めるぞ」
「わーってるよ細井!」
「石田だ!」
お前ら3人似すぎててわっかんねぇよ…。
とりあえず俺達も練習を開始。
レイアップや対面シュート、スクエアパスなど練習を続けていたが、一通り終えたあたりで、一旦休憩を入れる。
今からどうする……っという高原達の相談を小耳に入れつつ、壁際に座って1人でスポドリを腹に流し込んでいると、
「おーい、高原くーん」
体育館の反対から、秋本が高原を呼ぶ声がした。
どうやら女子も一旦練習を切っているらしい。
なんだろうか。
「どうしたんだ秋本」
高原が秋本のところにかけていく。
そのまま体育館の中心で少し話をした後、高原が俺たちを振り返って言った。
「みんな!今から男女で試合形式をするぞ!」
なかなかに衝撃的な提案。
確かに、男子だけではどうしても人数が足りず、実践的な練習は難しい。
だが男子対女子というのも練習になるのだろうか。
そう思いつつも合流して話を聞くと、どうも男女でチームを混合して試合をしようという話だった。
まあ秋本の発案なら、そこら辺も考えていて当然か。
だがそうなると気になるのはチームメンバー。
そこは秋本と高原が相談し、以下のように決定した。
A:秋本、チーナ、俺、細井、女子1
B:女子2、女子3、高原、石田、松田
グリフィン◯ーーーーーール!
これは非常にやり易い。どうせ試合するなら楽しみたいからな。
よくやったぞ秋本。
ちなみに男子勢の名前は流石に覚えた。
「男子は、女子に触れるの禁止ね!それと、女子が取ったポイントは1.5倍するから、よろしく」
活き活きとレギュレーションを説明する秋本。
「よっし!俺にボール集めろ!全部決めてやる!」
意気込む石田。
『ヨリ!よろしく』
『ああ、頼むな』
チームで軽く挨拶を交わして、練習試合が始まった。
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結果として、俺たちは僅差で勝った。
俺が徹底的に石田をマークしてやったら案外勝てた。
やはり秋本とチーナがうまい。
女子には女子しか触れないとなると、うまい女子にパスを回せば止まらなくなる。
まあ俺の活躍としては地味だったが、石田の有無を考えれば大金星だろう。
今は試合直後。そのままコートに残って試合の反省を始めるところだ。
「鏡くんうまいねぇ!やっぱり君を選んで正解だったよ!うん」
「恐縮です、監督」
秋本が腕を組んで満足気にうんうんと頷いてくるので、俺も適当に乗ってやる。
『すごいねヨリ!結構身長差ある人を抑えてた!』
『もっとでかいやつといつもやってるからな。チーナもめちゃくちゃ点取ってたじゃねえか』
そんな感じで、俺たちのチームはお互いを褒め合う。
その中でも、俺を称える声が比較的多かった気がする。
海水浴以降、アンチ組とはなんだかギクシャクしているが、それ以外の中立組は普通に接してくれるようになった。
あの時、俺が切れたのが良かったのだろうか。割と我慢し続けていた俺に若干ヤキモキしていたのかもしれない。
何にしても、幾分過ごしやすくなっていい。
だが、今俺がよいしょされている事が気に食わない男が一人………石田が、声を上げた。
「おいおい、鏡は大して点取ってねえじゃねえか。クリスや秋本が活躍しただけだ。調子に乗ってんじゃねえぞ!」
「乗ってねえよ。それにお前も言うほど得点してないと思うんだが?」
「女子が多くて攻めにくかっただけだ」
思わずため息が漏れる。最近やっと佐々木が大人しくなったと言うのに、また面倒なやつが現れた。
ままならないもんだなあ。
「何なに石田くん、負け惜しみ?」
そこへ、秋本が冗談めかして口を出す。
本人としては責める気は全くないのだろうが、その言葉は石田に効く。
「なっ………。くそ。おい鏡、本番でお前にはボール回さねえからな!」
体は大きいくせに、随分と小さい石田の発言を残して、今日の練習は切り上げられた。
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男女混合バスケは大学の授業でやったことがあるのですが、女子がボール持った瞬間、男子が両手を上げて道を開けるという奇妙な光景が生まれます笑