110話: 海で待ってる
そうだよ。このサブタイは、明確なパクリだよ。
バスを降り、全力で将兵用集合住宅を駆け抜ける。
エレベーターは無視で、階段は二段飛ばし。
息を切らしながら、勢いそのままにチーナの部屋の鍵を開けて、そのまま押し入った。
『チーナ!』
ガタッとリビングの扉を開けると、そこにはチーナの姿が。
アンジーはまだ帰ってきていないようで、一人で英語の問題集と向き合っていた。
『え、ヨリ……?』
驚いた顔で問題集から顔をあげるチーナ。
『どうしたの、その顔?』
そして、総司から殴られて腫れた頬を指差す。
『いや、ただの青春の代償だ』
『え、ごめん。何言ってるかわかんない』
『そんなことはどうだっていいんだよ! なあチーナ、聞いてくれ』
息を整えつつ、俺はチーナの目を見つめる。
さすがのチーナも、ここまでされて逃げる気はないらしい。
緊張した表情で、俺の次の言葉を待っている。
『チーナ、ごめん。俺チーナのこと考えてるようで、全然分かってなかった。結局全部、俺の自己満足だった』
そう、全部自己満足。エゴだ。
だったら、変に我慢なんてしない。
同じエゴなら、思いっきり俺の我満をぶつけてやる!
『俺、チーナにアメリカに来て欲しい。不安なこと、大変なこと、いっぱいあると思うけどさ、俺守るから。チーナに不自由が無いように、俺頑張るから!』
そして、言った。俺の思い、俺の願いを。
『えっと……』
突然現れてこんなことを言い出した俺を見て、チーナは目を丸くして戸惑っている。
だがそれも一瞬のことで、チーナはにこりと微笑むと、
『なにそれ、プロポーズしてるの?』
いつもの悪戯っぽい仕草で、そう言った。
『え、いや、それは……それでもいいんだけど。その場合はいろいろと改めて出直したいというか……』
『ふふ、冗談だよ』
とまどう俺のしぐさが面白いのか、先ほどまでとは打って変わって嬉しそうに笑うチーナ。そうだ、俺はこの笑顔を失うなんて、できっこない。
『私こそ、この間はごめんね。いろいろ悩んでて不安だったから、ちょっと八つ当たりしちゃった。でもヨリも悪いんだよ? 自分のことなーんにも言ってくれないから、私のこと本当はどうでもいいのかなって思っちゃった』
『そんなわけないだろ!』
『うん、分かってるよ。私のこと考えてくれてたんだよね』
チーナは椅子から立ち上がり、俺の前に歩いてくる。
そして、目を見て言った。
『私も、決めたんだ。これからどうするか』
その言葉の通り、迷いの亡くなった瞳で。チーナはまっすぐに、その決意を口にした。
『私、やっぱりここの大学にいくよ』
……やっぱり、そうだよな。
俺のためだけに、アメリカに行くなんて、できっこないよな……。
でもだからって、俺はチーナのこと諦められるかって話だ!
『だったら、俺も日本の大学に!』
『待って待って! 最後まで聞きなさい!』
ビシビシと俺の胸にチョップを入れて制止するチーナ。
いけない、また早とちりしてしまった。
俺は"落ち着いたぞ”と頷いて見せると、チーナもうんと返して、続きを口にする。
『それで卒業したら、アメリカに行く』
『……へ?』
『やっぱり言葉の壁もあるし、アンジーもいるから、大学だけは基地の大学に通おうかなって。それで英語をしっかり話せるようになってから、アメリカで働く。だから待ってて。きっと、行くから。必ず行くから』
そう言って、今度は手をグーに握って、俺の胸にトンと押し当てる。
そして、まってろよと言わんばかりに、にっと笑って見せた。
おいおい、これって男同士の別れのテンプレじゃないか?
漫画読み過ぎだろ、まったく……。
『そっか。よく考えて、決めたことなんだよな』
『うん。ヨリのことも考えて、ね』
『なら、俺からはもうなにも言うことはないな。分かった、待ってる。首長くして待ってるから、絶対こいよな』
そう言って、俺はチーナを抱きしめる。
チーナの温もりを感じて、忘れないよう、心に刻む。
『浮気とかしちゃ、ダメだよ』
『しねえよ。お前以上の女なんて、宇宙にはいないから』
『待っててね』
『ああ、アメリカの海で、待ってる』
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次、最終話です。
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完結後……来月あたりに新作出そうと思っております。
詳しいスケジュールはTwitterにて告知予定です!