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106話: おはようございます! 二等軍曹!

クリスマスイブに投稿するのは意地笑

 ピリリリ、ピリリリ。

 いつものように朝五時半に鳴りだす目覚まし時計。

 それを右手で止めると、起き上がって伸びをして、起床。

 ジャージに着替え、玄関扉を開けて外へ。


「う、さむ……」


 十一月の早朝ともなると、外はまだ暗く、風が肌をさすように冷たい。

 それでも日課のランニングを欠かさないのは、最近は勉強会のために放課後訓練に参加できていないため、体がなまってしまわないようにするためだ。


 軽くストレッチをしてから、いつもの浜辺に向かって走り出す。


 するとその浜辺に、見知った後姿を見かけた。

 引き締まった体の、短い金髪を後ろに結んだ女性姿。


 チーナの里親で隣人の、アンジーだ。


 本名はアンジェリーナ・レイク、階級は二等兵曹。

 この基地で働く軍人で、普段は海外を飛び回っているため、家にいる時間は少ない。


 そんな彼女も、この十一月から年始くらいまでは日本にいるらしい。


 さてこの状況、軍の仲間内で鉄板ネタになっているあれを久しぶりにできる状況だ。

 あるミリタリー映画の冒頭シーン、浜辺を走る海兵隊の二等軍曹……。


 俺はジョグからほぼ全力ダッシュに切り替えると、瞬く間にアンジーを追い抜いてこう言い放った、


「おはようございます! 二等軍曹!」



 これは歳を感じ始めた二等軍曹が、若い部下に追い抜かれるというシーンである。



「な、伊織! 私はまだそんな歳じゃないんだけど!」


 今回もアンジーは分かりやすく怒った声を上げると、早朝の浜辺で全力鬼ごっこが始まるのだった。


 十分後。ぽっぽお。


「あんた……毎回……これやるの……やめなさいよ……」

「やめてほしかったら……昇進しろ……」


 クソ寒い中、息を切らしてグロッキーになっている謎の図が生まれていた。

 流れる汗をタオルでぬぐいながら、息を整える。


「そういえば、伊織」


 だいぶ落ち着いてきたアンジーが、おもむろに話題を切り出してきた。


「なんだよ」

「最近チーナがちょっとだけ元気ない時があるんだけど、何か知ってる?」


 その話題とは、チーナの事。

 曰く、家でもうつむいてぼーっとすることがあるらしい。

 アンジーは近くの自販機で飲み物を買いながら、木製のベンチに座る俺の横に腰掛けた。


「ほらこれ、体冷えないように飲みなさい」


 っと、ホットココアを手渡してくれる。


「さんきゅ」

「で、なにか知ってるんでしょ」

「ん、まあ……」


 きっと、俺がアメリカに行く件だろう。

 だが、俺がいなくなるから寂しいんだろ……とアンジーには言いづらい。

 自意識過剰な発言に聞こえるだろう。

 そう思って俺が少し黙っていると、


「当てようか」


 と、アンジーが身を乗り出して言ってきた。


「娘の不安をクイズ感覚で探るなよ」

「だって、私の予想通りなら心配することないもの」


 そう話すアンジーに、確かに心配の色は見られない。

 ホットコーヒーで手を温めながら水平線を眺める姿は、昇り始めた朝日をただ楽しんでいるかのようだ。


「ねえ伊織、チーナに大学入ってからの相談、してないんでしょ。それで不安になっちゃってる。違う?」

「……たぶんそう」


 ぴたりと言い当てられた。

 流石に、よく見ているってことだろうか。


 そうでしょ~っと一口コーヒーをすすって、アンジーは続けた。


「もうさあ、さっさと言っちゃいなさいよ。「結婚してくれ」って」


「はああ⁉」


 まるで他人事のような楽観的なアドバイスに、あれは思わずココアを落としそうになった。


「まてまて! 自分の娘の結婚をそんな……ユーやっちゃいなよみたいなノリで差し出すなって!」

「もちろん、どこの馬の骨ともわからない相手だったら、こんなこと言わないわよ。まあ結婚はちょっと飛躍しすぎな感じかもだけど。でも二人が本気で結婚したいって言い出したら、私はすぐにでもオーケー出すわよ」

「それでいいのかよ」


 娘の結婚に無責任すぎやしないかと若干あきれてしまう。

 もちろん俺に親の気持ちは分からないが、普通もう少し考えるというものだろう。

 だが俺のあきれとは裏腹に、アンジーは優しい笑みを浮かべた。


「ねえ伊織、前にも話したかもしれないけど、チーナが来る前はあなたを養子に出来たらって思ってたのよ」


 確かに、この話は時々アンジーから聞いていた。

 俺の父が亡くなった後から、なんとなく。

 だがその話が本格化する前に、しれっとチーナを連れて帰ってきたのだが。


「だからチーナとあなたが結ばれることに、何の心配もないのよ。言ってしまえば、息子と娘が結婚するような安心感ね」

「馬の骨より問題あるだろそれ」

「もともと家族同然って話よ」


 面と向かってそういわれると、照れる。

 確かに、アンジーが帰っている時は三人同じ部屋で過ごす時間も多い。

 少なくとも、詩織や毒母と暮らしていた時よりは確かに家族らしい空気だったろう。


 だが、それとこれとは別の話。


「結婚云々の前に、いろいろと問題があるだろ。今の俺じゃ何の責任も取れない。そんなうちに、チーナにこんなことを頼むのは、間違ってるんじゃないか……って」

「まあ、分からなくはないけどねぇ。伊織はなまじしっかりしてる分、先のことまで考えちゃうか」

「けっこう自分勝手やってる気がするけど」


 俺の事情でみんなを巻き込むこともしょっちゅうあるし、トラブルメーカーな自信はある。


「そう思ってるだけでしっかりしてるの。いろいろ経験してるしね」

「そんなもんか」

「そうよ。でもね、いろいろ考えるのは確かに大事だけど、若いうちは思い切ってやりたいことやってみるのも大事よ。好きなことできるのは学生の特権なんだから。チーナのことだって、伊織の思うようにしてみたらいいんじゃないの?」


 そう言って「さ、帰りましょ」っと立ち上がる。

 俺は立ち去っていくアンジーの後姿を見つめながら、


 そうもいかないだろ……。


 っと、ひとりごちた。


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皆さん、クリスマスいかがお過ごしでしょうか?

私は、渋滞に巻き込まれ一日車で過ごし(連れは姉)、明日はアパートの内見です笑

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― 新着の感想 ―
ちゃんとロスアンゼルス決戦のDVD持ってます。おはようございます。◯◯◯◯は何度見ても(笑) 。
[一言] 結婚はしなくても、婚約ぐらいは… はっきりとした約束が欲しい、という事はあったりするでしょうねえ。
[一言] ハートマン軍曹を出してくださいね。 たまにはアンジーも鍛えないと
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