表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
104/111

104話:エピローグ~聖人君子な主人公と誰にでも優しいヒロイン~

「ほんとに、うん。詩織ちゃんの言う通り! いおりんにちびっ子の友達がいるわけないし、きままな子どもが計画的犯行なんてできない!」

「あの、宮本……」

「いやあほんと、見た目は子どもで頭脳は大人な友達がいれば別だけど!」

「あのさ、みやもっさん」

「うん?」

「墓穴って言葉知ってる?」

「……うん?」


 ああこの子、必死に自分の痴態を隠そうとしたんだろうなあ。

 うんうん、頑張ったなあ。


 でも思いっきりバレたで。


「ねえ伊織……」

「なんでしょう詩織」

「……嘘よね?」

「……残念です」


 がくっ。


 膝から崩れ落ちる詩織。


「こんな……バカみたいな方法で……私……」


 うん、俺もそう思ったよ。

 でも総司のことだから、この屈辱も込みで考えてたんだろうな。


「にしても総司、よくとっさにあんなことできたよな。ちびっ子のまねなんて、宮本も二つ返事でやってくれたわけじゃないだろ」

「いや、ちょろかったぞ」

「ちょろくないよ!」


 ……ちょろかったんだな。


「まあ、とっさに思いついたことかって言われたら、違うんだけどな」

「は? お前は事前に知ってたってことか?」


 確かに言われてみれば、あの時の総司は妙に状況を把握してた感があった気がする。

 でも知っていたとしたら、いったいどこから……、


「私が、教えたんだよ」


 その時、俺の疑問に答えるように平手が口を開いた。


「平手が?」

「ちょっとナオ! どういうこと⁉」


 俺以上に驚きの表情を見せ、平手に詰め寄る詩織。

 まあ、詩織の立場からしたら起こるのも当然だろう。


 完全に裏切り行為なのだから。


 だが平手は、自分の肩を掴む詩織の手をそっとどかすと、穏やかに、しかし強く言い聞かせるように言葉を発した。


「ねえ詩織。私が清水君に事前に伝えたのは、なるべく穏便に済ませてもらうためだよ。詩織は伊織君に、話すつもりないみたいだったから」

「だって、これが上手くいけば、私の悪い噂は解消できたのに!」

「確かにそうかもしれない。でも、もし伊織君に決定的な証拠をリークされたら、本当にアイドル人生終わっちゃうところだったんだよ? 詩織はそれがわかってない。焦りすぎてる。本来の賢い詩織なら、当然わかるはずなのに」

「でも……」

「今ならまだ、ファンの人達だって、たちの悪いゴシップくらいにしか思ってない。もし伊織君たちがその気になったら、取り返しのつかないことになるんだよ? むしろ、過剰に反応する方が悪目立ちするよ」


 今度は平手が詩織の肩に手を置き、目をまっすぐに見つめる。

 その言葉はまっすぐで、心の底から詩織を案じているのが伝わった。


 そして同時に、俺の同情を煽っていることも。


「ほんと、あっちのロリはたくましいな」


 ため息交じりにつぶやく総司。

 俺も二人のやり取りを眺めながら応える。


「まあ、あっちは偽ロリだしな」

「それはこっちに真ロリがいるってことかな⁉」


 ……なんのことかな?


「にしても総司、俺にまで黙ってるってどういう了見だよ」

「勘と経験だ」

「まあ、そこらへんは任せるけども」


 総司のことだ。いろいろ(下衆なことを)考えての判断だろう。

 そっちの方面においては、ダークストマック総司の右に出る者はいない。


 とはいえ、平手が総司に手回ししてたのは意外だな。

 参謀がこいつって見抜いていたのか?

 これが芸能界を生き抜くスキルってやつなんだろうか。知らんけど。


「さて詩織」


 俺は総司とのボヤきを切り上げて詩織に声をかける。

 詩織は丁度、平手の言葉で諦めの表情を浮かべ始めていたところだった。


「なに、伊織」

「今回の件は、平手に免じて見逃してやるよ。ただし、仏の顔も三度までだ。次に何かやったら、容赦しないからな」

「あんたが仏って、冗談」


 まあ性格がいいとは言えないが、それはお互い様だろう。


「じゃあ悪人でいいけど、その代わり二回目で晒す」

「なら神様って呼んであげるから十回くらい許してよ」


 などと飄々と返してくるが、その表情に余裕はない。

 負け惜しみだろう。


「まあ俺としては、再戦もやぶさかではないけどな? お子様に負ける程度の元お姉様?」

「伊織、あんた……」


 追い込まれている詩織を尚も煽る俺。

 物語の主人公に求められるものが、真面目で努力家な鈍感優男だとしたら、俺は主人公にはなれないだろう。


「詩織……やめてよ?」

「わかってる。もうしない。しないから」


 詩織が逆上する前に釘をさす平手。

 その言葉には、「見張ってるから」という隠れたメッセージが受け取れた。


 これなら、平手がうまくコントロールしてくれそう……、


「詩織さん」


 えっ……。

 俺が一安心しようとしたところで、後ろから静かな、しかし強い圧を内包する声が発せられた。

 その主は、なんとチーナだった。


「クリスティーナさん……」


 チーナの涼やかな希薄に若干後ずさりする詩織。

 それに応じて、チーナも一歩前に出る。

 今まで聞き役に徹していたチーナ。

 思えば、詩織に対して積極的に発言するのは初めてかもしれない。

 それがあってか、俺は内心ひどく驚いた。


「詩織さん。私も、証拠もってる、から」


 そう言って、スマホを取り出して見せるチーナ。

 “証拠”というのは、例の録音音声のことだろう。


 ……俺も持たされてないんですけど、なんでチーナが持ってるんですかね総司さん?

 ……もしあいつがターゲットになった時、何かデコイなり武器なり必要だろ?


 チーナの攻勢に水をささないように、総司とは念話を交わしつつ、チーナを見守る。


「ヨリは……優しいから、次も、許してしまうかも……しれない」


 まだ若干たどたどしい日本語が、逆にゆっくり追い詰めるようなプレッシャーを与える。


「でも私は、違う。絶対にやる。だから……」


 そしてチーナは、挑戦的な微笑を浮かべてこう言い放った。


「早く仕掛けてきて……ね」


 この言葉はきっと、俺の何倍もの恐怖を与えたに違いない。

 詩織が言い返すこともできず、顔が青ざめたように見える。

 俺ですら、少し背筋が冷たくなった。


 ……おい総司。チーナがあんな挑発するなんて、絶対お前の影響だろ。

 ……何言ってんだ。お前の女なんだからお前に似たに決まってる。

 ……いおりん、お子様ってどういうことかな⁉

 ……やばい割り込まれた。チャンネル変えるぞ総司。


よろしければブックマークや評価☆をお願いいたします!


実際、伊織は主人公の中では結構性格が悪い方だと思います。

特にラブコメ主人公の中では。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 調べました  1ミヤモト=139㎝ 推定年齢 10歳 (標準身長体重表より) 体重 42㎏(標準身長体重表より) 小学4年生ですね。(1年生じゃないのが残念)
[一言] まあ、平手ちゃんの言う通りこれだけの証拠を握られているのに、こんな雑な策が通じると思う方がどうかしているよね。 少しは懲りるといいけど、基本主人公をなめて生きてきた分中々あきらめがつかないで…
[一言] やはり天然物は何にも勝る。勝負にならないですねえ/w 姉はこれで落ち着いてくれるのやら。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ