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103話: 世界の頂点で見つけたもの

 その日の夜、いつもと同じように俺の部屋に帰ってきた俺とチーナ。


『にぎやかな一日だったね』

『これを賑やかで済ませられるのは、トラブルに慣れてきた証拠だな』


 二人で、両手いっぱいにもらった土産を片付けていく。

 いろんな奴らから、出店の余り物を押し付けられたのだ。

 なかには、あのテンガロンも。


 まったく……、一応、壁に飾っとくか。


『まさかあの時、宮本が割り込んでくるとはな』

『あとで慰めるの大変だったんだから。「もうお嫁にいけない」って』

『……目に浮かぶな』


 そして、はははっと笑いあう。


『バンドも、大成功だったんじゃない? ヨリのギター、普通にかっこよかったよ』

『サンキュ。チーナも、楽しそうだったな』

『うん、みんなでやれて、楽しかったよ』


 もらった食べ物類を、二人で手分けして冷蔵庫に入れていく。


『選曲も、よかったよね』

『まあ、しゃれてはいたよな』


 今日の演奏、選曲は、チーナ、リリー、俺で一曲ずつ選んだ。

 チーナはJポップの曲を、リリーは洋ロックを、そして俺は……、


『ところでヨリ』

『ん?』

『どうして最後の曲、Top of The Worldにしたのかな?』

『……分かってんだろ』


 全部知った顔で、あえて問い詰めてくるチーナ。


『分かんないなあ。世界の頂点で、いったい何をみつけたのかなぁ』

『……』

『そうだ、歌詞では、「愛」って言ってたなあ』

『……』

『ねえヨリ』


 そしてチーナは、ずずいっと顔を近づけてくると、さぞ楽しそうに聞いてきた。


『ねえ、誰との愛なのかな?』


 こうなったチーナは、もう止まらない。

 やれやれ。Sっ気チーナめ……。


『そりゃあ、家族とか』

『他には?』

『仲間とか』

『それと?』

『それと……おまえだよ』


 自分の顔が赤くなるのが分かる。

 いくら付き合っているからと言って、こう……、面と向かって伝えるのはやはり恥ずかしい。

 それを聞いたチーナは満足そうに頷くものの、まだSの手を緩めなかった。


『でもなあ、愛を見つけたって言う割には私たち、恋人っぽいあれ、まだしてないよね?』

『うっ……』


 恋人っぽいあれ、と聞いて、なんとなく想像がつく。

 というか最近、チーナは事あるごとに機会を狙っていた節がある。

 いやまあ、俺も興味がないことはないこともなくって……。


 俺が固まっているのを見て、チーナは促すように顔を少し突き出すと、目を閉じる。


 まったく。ここまでお膳立てされて、引き下がるなんてできるわけないだろ。

 そもそも、したくない。


 俺はチーナの両肩に軽く手を置くと、ゆっくりと、その唇に自分の唇を近づけた。


 近いようで、遠い。


 そろそろ触れるか、まだか。


 ほんの少しの距離なのに、無限の空間が広がっているかのようだ。


 だがその時は意外と唐突に訪れる。

 思っていたよりひんやりとした、柔らかく押し返してくる感覚。


 今この時俺は、まぎれもなく世界一幸せだと思った。



 ◆



 結局、ライブでのあの映像は公開されることはなかった。

 正確には、ララバイ名義で動画が出ることはなかった。


 しかし、個人が撮影したものはどうしてもSNSに投稿されてしまうもので、事務所の意思にかかわらず拡散されてしまった。


 その動画に対して、当然コメントも多く寄せられた。

 もちろん、俺についてのコメントも……。


『うっわ、シオンの弟緊張しすぎ。シオンが真面目に話そうとしてるのにぶち壊しじゃん』

『つか、あれ演技じゃね?』

『そもそも偶然居合わせるわけww』

『ガチロリ乱入助かる』



 その話題性の一部は、俺の演技について。


 俺の登場が番組的に仕組まれたものであること、俺が大根役者であること、宮本がちびっ子であること。

 目論んでいた多くのことが明るみになった。


 これで詩織も、俺をメディアに巻き込む作戦は取りづらくなったはずだ。


 そして、夏休みが明けて始業式の日の昼休み。


「にしても詩織の奴、上手くいくと思ってたのかね……」


 俺たちいつもの六人は、昼食を摂るために集まって理科室に向かっていた。


「もともと、弟との不和が懸念されてたんだ。それを払拭するために弟の前で涙を流すってパフォーマンスがしたかったんだろ。事務所側が無理やりテコ入れしようとしたって事実が広まった以上、その疑惑は信憑性を増す」


 話題は先日のフレンドシップデー。

 俺の独り言にもとれる発言に、総司が反応した。


「まあ、詩織への牽制になったんならいいけど……うげっ」


 言いかけて、止まる。

 特別棟に向かう廊下。俺たちの対面から、二人の女子が顔を出したからだ。


 それは……平手と、詩織。


「うげって、なによ」


 不機嫌そうに俺を睨む詩織。

 この嫌悪の視線を向けられるのも、ずいぶん久しぶりな感じがする。


 それも当然か。

 なんだかんだ言って、オフで対面するのは審判以来かもしれない。


「別に、雨月物語読みたいなあと思っただけだ」

「あっそ」


 ここですれ違ったのは、単なる偶然か、それとも意図したものか。

 まあどちらにしろ……ちょっと煽っとこ。


「にしても、フレンドシップデーのライブは驚いたっつーの。あんなパフォーマンスするんなら、事前に言ってくれりゃ、俺ももっと感動的なセリフ用意したんだけどな」

「アドリブでも充分だったわよ。あれ以上感動的にされたら、私泣いちゃったかもね」

「泣いてたろ」

「噓泣きに決まってるでしょ」


 ひょうひょうと話しているように見えて、詩織の拳は固く握られ、わなわなと震えている。

 だが瞳には、まだ怒りの炎がくすぶっている。

 それが、俺にはわかった。


「にしても、運がよかったね、伊織」

「何がだよ」

「伊織が何をしようと、私が話をできればどうとでもなると思ってた。それが……」


 詩織はそこで、一度大きなため息をつく。

 そして、悔しくてたまらないというような、いい表情を浮かべて言った。


「それが、偶然子どもが乱入するなんて……」




 ……ん?




「どういうことだ?」

「流石のあんたでも、あんな子どもの知り合いいないでしょ。いたとしても、あんな小さい子が思い通りに動いてくれるわけない。ほんとに、なんであんなタイミングで……」


 確かにあの時、ステージからでは子どもの顔までは見えなかったはずだ。

 宮本と親しい俺だからこそ、気づけただけで。

 つまり…………詩織の奴、ほんとに子どもが偶然乱入したと思っている?



「なあ詩織。残念だがあれは……」

「いやあほんと! すごい偶然だったよねえいおりん!?」


 あ、子どもが乱入してきた。


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五条先生を想像した人、挙手!

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― 新着の感想 ―
[一言] あれ、初キッス?? だとしたらここまで長かったなあ/w ファッションロリでなく、ガチだからそうそう見破れないのかあ。これはもう、お嫁にいけない、案件ですねえ。
[一言] FriedPotateさんも言ってる大婚約者の誤字、将来的にチーナと婚約するんでしょ!って考えれば誤字じゃない気がしてきた……。
[一言] 次回、『貴女、ここの生徒だったの!?』 みやもっさん…出てこなければ非実在少女で終わるはずだったのに
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