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Knife Sheath  作者: [LEC1EN]
破壊と混乱の申し子
59/84

59.ambush

 クロウ・クルワッハが大空を舞う。向かう先は、ヴィランを待ち構えていた正統ドルネクロネのゲリラ部隊と、環太平洋同盟軍が事を構えている真っ只中。つまりは、戦場だ。

 両軍が銃火を交えるそこにクロウ・クルワッハを突入させる。そして、ヴィランはどちらか一方に加担することなく、その両者を一斉に屠った。

 両軍からしてみれば、いきなり戦場に現れて敵味方の区別なく攻撃を加えてくるヴィランの存在は、端的に言って「迷惑」そのものでしかなかった。

 両者が予め建てていた作戦は破綻し、結果として敵味方入り混じった乱戦へともつれ込む。中隊規模の戦力がぶつかり合い、その中に紛れたクロウ・クルワッハは当然、二つの軍から集中砲火を浴びることになった。

 普通の兵士であれば、自らリスクを高めるような行為は決してしないだろう。だが、この男は違う。

 彼はこの集中砲火に晒される瞬間が、好きで好きで堪らないのだ。

 そして、迫り来る弾丸の雨を掻い潜り、敵を屠ることを、他の誰よりも愉しんでいる。

 その動きは、もはや病的な戦闘狂が見せるそれだ。そこに慣性制御の力が加わればどうなるか、もはや想像するまでもない。

 あるのは一方的な蹂躙。

 タルボシュ・キャノンの懐に入り込んで肩の砲を斬り刻み、その隙に背後から迫ったクドラクをランチャーを振り回して牽制する。

 クドラクは攻撃を喰らわぬよう距離を取りながらライフルでクロウ・クルワッハの動きを抑え、入れ替わりでブレードを装備したタルボシュ・ターボがヴィランに斬りかかった。

 ヴィランはそれをブレードで受け止めるが、今度は先程のクドラクが背後からクロウ・クルワッハに迫る。

 当人たちは意図していなかったにせよ、完成度の高い連携攻撃が、敵味方の垣根を越えて実現した。


「面白いですね」


 ヴィランは空中にランチャーを放り上げると、手にした二振りのブレードで二機の攻撃を受け止め、決定打を与えることを許さない。

 クロウ・クルワッハの背部フライトユニットが展開され、ブースターの炎熱が背後に立つクドラクに襲いかかる。クドラクが怯んだ瞬間を狙い、タルボシュ・ターボの頭をブレードで刎ねた。

 体制を建て直し、再びクドラクがクロウ・クルワッハに迫る。だが……。


「おや、そこに居ては危ないですよ?」


 そう言い終えた途端、ヴィランが放り投げたランチャー、その先端のブレードがクドラクの頭を叩き割った。


「だから言ったじゃないですか」


 ヴィランは頭部を失ったクドラクとタルボシュ・ターボの胸部にブレードの刃を突き立てる。そして、主を失った二機をそのまま引きずりながら、残りの敵に向かった。


 ヴィランはトゥールから時計回りに戦場を駆け回っていた。しかし、それは規則正しく時間を刻む時計とは違い、戦場の存在を察すれば時に歩みを戻し、時に歩みを進めるような、極めて不規則なものだった。

 そして、その不規則さが逆にヴィランの行動を読みにくくしており、シオンたちもまた、その不規則な行動に振り回される人々の内に入っていた。

 当初は、ヴィランの行動に予測を立て、網を張って待ち伏せをしていたのだが、その歩みの不規則さに待ちぼうけを食らい、すでに三日もの時間を浪費させられている。


「隊長、いつまでここで待機しなきゃならねぇんですか」


 レイフォードがカスチェイの足元でため息まじりに愚痴をこぼす。

 無理もないことだと思いながらも、シルヴィアは機体のチェックを進める。レイフォードの考えも理解出来るが、新調したタルボシュⅡ・ターボでのリベンジマッチなだけに、今は十全な状態で戦闘に望みたい、という考えが強かった。

 それに、ヴィランの乗るクロウ・クルワッハのパワーに対抗するための手段を考える必要もある。


「隊長?」

「ああ、ごめんなさい。少し考え事をしていたわ」


 レイフォードの言葉に、シルヴィアはふと我に返る。レイフォードのカスチェイにしても、使えるパーツをかき集めて状態を維持するのがやっとだ。そう何度も戦えるわけではない。可能なら、ここでヴィランを倒したいところだった。


「でも、レイフォードの言う通りね。ここであいつを待ってもう三日、か……」


 シルヴィアはその言葉とともにちらりと視線を移し、周囲を見回す。

 ここは周囲を山々に囲まれた山岳地帯。その中で複数のハイウェイが寄り集まって形成された大規模ジャンクションだ。ドルネクロネの東部を南北に繋ぐこのジャンクションは物資輸送の要所であり、メガフロートが疎開した後に重要度を増しているポイントでもあった。

 すなわち、ここを通らなければヴィランはこれ以上の南下を望めない。だからこそ、シルヴィアはここでヴィランを待ち受けている。


「でも、二個中隊をここに配しているのを、ヴィランが見逃すはずがない」


 レイフォードとシルヴィアの会話に、シオンが割って入る。


「シオン、機体の整備はいいのか?」

「後はメカニックの仕事」


 レイフォードの言葉に短くそう返すと、シオンは真っ直ぐに続くアスファルト道路を見やる。


「それで、奴が見逃さないってどういうこと?」

「ヴィランは避けられる戦いを回避するのではなく、降りかかる火の粉に自分から飛び込んでいくように行動してるんです。少なくとも、私にはそう思えてならない。だからこそ、戦力がここに集中していると聞けば、必ず現れるはず」


 レイフォードとシルヴィアはシオンの言説に静かに頷く。その矢先、敵の接近を知らせる警報が鳴り響き、三人はすぐにそれぞれの乗機へと向かった。


『敵部隊を確認。数は三!』


 斥候に出ていたレンからの報告で、シオンたちは接近する敵がヴィランではなく正統ドルネクロネのゲリラ部隊であることを知る。ヴィランは単独で各地を転戦しており、僚機を伴っているという報告はどの戦場からも上がっていない。

 シオンはフローライトを立ち上がらせ、機体を接近する敵の方へと向ける。山の尾根からクドラクとヘルムが姿を現し、シオンは「やはり」と小さくつぶやき、銃を敵部隊に向けた。

 クドラクが手にしたコンテナからドローンを展開し、それを従えたヘルム二機が前衛としてアイビス小隊に向かって突入してくる。すっかり見慣れて久しい、正統ドルネクロネ軍の典型的な部隊編成だ。

 その部隊編成には、質・量ともに正規軍に劣る戦力を、自律型ドローンと僚機との連携を強化することで補おうという意図があった。

 だが、それゆえにドローンを無力化されれば、練度の甘さが浮き彫りになるという欠点も有している。戦力が小規模であればなおさらだ。


『まずは敵の数を減らしましょう』

「了解」


 シルヴィアの命令を受け、シオンはフローライトを前に出す。機動力に物を言わせ、ドローンを次々と撃破していく。


『やるな』


 レイフォードがその一言とともに、ハイウェイに接近するヘルムにヘッドショットを喰らわせる。傾斜のついた足場で被弾したために衝撃をうまく受け流すことができず、被弾したヘルムはそのまま山肌を転がっていく。


『残り二機!』


 残敵を数えつつ、レイフォードは再びライフルを構える。しかし、敵は彼の狙撃を警戒してハイウェイの影に潜り込む。

 しかし、そこにはすでにシルヴィアが先回りしており、彼女は機体をクドラクに肉薄させると、その胸部にショットガンを突きつけ、銃爪を引いた。

 残り一機。この程度すぐに片付けてしまおうと皆が思っていた矢先、空から本来招かれるべき客が現れた。


『楽しそうなパーティをしていますね』


 ヴィラン・イーヴル・ラフの乗る、クロウ・クルワッハが、ハイウェイに降り立った。

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