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Knife Sheath  作者: [LEC1EN]
強襲
46/84

46.Game restart

 正統ドルネクロネ軍は動けなくなったルサウカを中心に陣地を敷き、議事堂を防衛する同盟軍部隊とのにらみ合いを続けていた。最前線での小競り合いこそあれ、戦闘そのものの規模は縮小傾向にある。


「どこまでこの状況、続くんでしょうね」


 大都市の中心部で両軍がにらみ合いを続けている中、その緩衝地帯となった高層ビルの屋上で、ヴィランが退屈そうな表情を見せながら双方を俯瞰していた。

 戦闘が落ち着いてから二時間が経過し、日も傾きつつある。このままでは、他方から同盟軍の増援がかけつけ、せっかくのお膳立てが無駄になってしまう。ヴィランにとって、それは面白くない展開だ。

 だからこそ、ここで双方に強制的にアクションを起こさせることにした。


「ボム、お願いします」


 ヴィランの号令とともに、ボム・クラフターが仕掛けた爆発物が起爆し、市街地の数カ所で爆発が起きる。爆発の規模こそ大したことはないものの、限界まで張り詰めた緊張状態を打ち破るにはそれで十分だった。


「どこの馬鹿がこの状況で仕掛けた?」


 アイビス小隊を回収し、後方の埠頭で機体の修繕と補給を行っている最中での市街地の爆発。その様子を見て、ワカナ艦長は思わず激昂した。

 両軍ともに、戦闘継続のための準備を進める中での突然の爆発。これによって前衛で待機していた部隊は双方ともに混乱し、戦闘が否応無しに再開された。

 おそらく、爆発の原因はどちらの陣営も把握していないだろう。状況を意図的に混乱させ、膠着状態を突き崩すことが目的ならば、それを画策する人間はただ一人。


「いや、まさか……ヴィラン・イーヴル・ラフがこの戦場に居るとでもいうのか?」


 ワカナ艦長は、最悪の事態を想定しつつ、頭の中で作戦プランを練り直す。

 この戦場で、これまで表立った動きを見せなかったヴィランが動いた。だが、これが意味する処を、彼女はまだ知らない。


『ワカナ艦長、アイビス小隊の再出撃準備、整いました』


 シルヴィアからの通信報告を受け、ワカナ艦長は再出撃の許可を出す。


「よし、アイビス小隊は三分後に出撃。先行したトランシルヴァ隊と合流後、任務に当たれ。だが、ここにヴィランがいる可能性が高い。警戒は怠るな」

『了解です』


 その返答とともに、シルヴィア機以外三機が、ワイバーンから飛び出した。

 果たしてこの戦場で、どこまで既存の戦術が通用するのか。ワカナ艦長は不安を胸に抱きながらも、艦を海から再浮上させるよう指示を出した。


「なんてことをしでかしてくれたんだ、君はッ!」


ルサウカのコクピットに、デリスの怒号が木霊する。彼の怒りの矛先は、敵ではなく、開かれた通信画面の向こうで不気味な笑みを浮かべる人物に向けられていた。


『貴方がたが立ち往生しているので、文字通り発破をかけたんですよ。このままでは敵の包囲網の前に部隊を消耗させるだけですから』

「そんなことは、言われなくても理解っている……だが、こちらもルサウカは動かせんのだぞ」


 もとより、今回の作戦は電撃的な奇襲作戦だ。敵部隊をハンドリンクの資源採掘プラントにおびき出し、その隙を突いて首都を制圧する。その要となっているのが、ドルネクロネの地下を貫く資源採掘トンネルだった。

 ドルネクロネが西洋諸国の資本で開拓された資源採掘基地だった頃から掘り進められ、過去の軍事政権時代、緊急時の脱出用に極秘裏にセントム地下から各地につながるよう拡張工事が行われたのだ。しかし、ハンドリンク方面のルートが開通直前の段階でドルネクロネ紛争が激化。工事に割り当てられていたリソースを戦闘に向けたまま終戦を向かえ、長らく放置されていた。

 正統ドルネクロネ軍は、その完成直前の廃棄トンネルを今回の作戦で利用し、そこから地下共同溝を通じてセントムに部隊を送り込んだのだ。

 五年以上前から仕掛けられていたバックドア。これによって、敵の虚を突くことは出来たが、やはり全体の練度不足からくる作戦展開の遅さは、如何ともし難い。

 デリスは撤退か、進軍かの選択を迫られる。仮に撤退を選択した場合、今回の奇襲への対策を講じられる可能性が高い。どのような手品(イリュージョン)もタネが割れれば途端に陳腐なものになってしまうように、奇策や奇襲も対策を講じられればその有用性は急速に失われていく。

 だが、それを考えている時間を、ヴィランは与えてくれるはずがない。市街地でさらに爆炎が上がり、デリス指示を仰ぐ旨の通信が、ルサウカのコクピットにひっきりなしに送られてくる。


「……推進ユニットの応急修理はどの程度済んだ?」

「定常出力の三十パーセントでの移動なら、なんとか可能です」


 部下のその報告を聞き、デリスは大きく息を吐くと、天を仰ぎ、覚悟を決めた。


「ならば、これより首都制圧作戦を再開する」


 この瞬間、退路は絶たれた。


 グレイ率いるトランシルヴァ隊と合流し、シオンたちは巨大兵器攻略のための作戦行動を開始した。この二時間、ただ身体を休めていた訳ではない。

 部隊の中央に陣取り、その火力を以って友軍を庇護下に置く。同盟軍部隊がこの二時間、手を拱くしかなかった最大の理由たる敵巨大兵器を、今度こそ狩る。

 そのための作戦を講じた二時間。このインターバルは、決して無駄にはしない。


『各機、フォーメーション!』

「了解」


 シルヴィアの号令とともに、二つの小隊がポジションごとに四つに分かれる。シオンはシルヴィアとともに前衛に立ち、眼前の敵の露払いを行う。

 火力の要である敵巨大兵器を守るように展開した強襲機動骨格(アサルト・フレーム)部隊を退けるが、その最中にシオンは巨大兵器が再び進軍を開始したことを悟る。


「隊長、敵巨大兵器が移動を開始。都市中央部に向かっています」

『時間を得たのは、向こうも同じということね。まあ、概ね想定通りよ』


 幸い、敵の進行速度は極めて遅い。二時間程度の修理では、これが限度というわけだ。


『じゃあ、作戦に支障はないということで?』

『無論よ、グレイ中尉』


 短い応答。その後、二人の隊長の号令とともに、後衛組からの攻撃が開始された。

 遠距離からの精密射撃に反応して敵の狙いが遠方へ向くと、その隙に前衛組が巨大兵器に肉薄。直掩のドローンや強襲機動骨格(アサルト・フレーム)を退けながら、敵の本丸へと攻撃を加えた。

 当然、それらの攻撃は慣性制御フィールドによって阻まれ、装甲に決定打を与えるには至らない。だが、いくらが不可視の鎧で身を守ろうとも、その防御に用いているテクノロジーの「本質」は変えられない。攻撃を加え続け、慣性制御フィールドを多用させていけば、いずれ機体の排熱が追いつかなくなり、機体に熱が蓄積していく。

 そう、シルヴィアの狙いは、スヴァローグ・ドライヴのオーバーヒート。フィールドを突き破ってもすぐに復活してしまうのなら、再展開できなくしてやればいい。

 切っ掛けは、レイフォードとシルヴィアの些細な思い出話だった。クォーツの運用試験のときのことを思い出し、あれから色々あったものだと言い合っていたところに、シオンが「そういえばクォーツの模擬戦とき、レイフォードが機体から出てきたレンをやらしい目で見てたよね」とからかったところ、それが糸口になってしまった。

 後はトントン拍子に作戦が組み立てられ、こうして実行に移して今に至る、という訳だ。

 当のレイフォードも、こんなことで敵巨大兵器攻略の糸口を探さないでほしかったと思っているだろう。

 それでも勝機を掴むわずかな手がかりには変わりない。

 だからこそ、今回の戦いで確実にこの敵を撃破する。

 その想いを弾丸に込め、シオンはマシンガンの銃爪を引いた。

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