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Knife Sheath  作者: [LEC1EN]
強襲
45/84

45.Transform

 赤黒い装甲でその身を鎧った巨大兵器が、首都のメインストリートを突き進んでくる。行く先は無論、政府機能の中枢たる議事堂だ。

 都市防衛のために前に出たタルボシュの小隊がその進路を塞ごうとするが、アイアンクローと高出力ウォーターカッターがまたたく間にこれを粉砕する。

 このままではその巨体に内包した火力の前に議事堂が蹂躙されてしまう。そうなっては、この戦いの敗北は決定的となってしまうだろう。

 そうはさせるか、とシルヴィアはワイバーンに武器コンテナの投下を指示した。中身は無論、ミサイルランチャーだ。元々この巨大兵器と対決するために用意していた装備なだけに、ここで使わないという選択肢は、今の彼女にはなかった。

 輸送ドローンに運ばれ、二基の武器コンテナが市街地に届けられる。シルヴィアはコンテナの下に急行し、すぐにランチャーを装備する。


「レイフォード、敵の足を止めるわ。後方の機銃(CIWS)、無力化をお願い」

『了解です、隊長。火傷しそうなくらいホットな奴をかましてやりますよ』


 レイフォードの返事とともに、天に二発の弾丸が放たれた。弾丸はやがて重力に誘われ、放物線を描きながらその矛先を巨大兵器に向ける。

 曲射による死角からの砲撃。初弾こそ、巨大兵器の慣性制御フィールドに捕らわれるが、その直後に放たれたもう一発が初弾の後方に激突し、不可視の壁の防御を突き破る。

 慣性制御フィールドがシャボン玉のように弾け、徹甲弾がその向こう側のCIWSを破壊した。

 やはり貫通力の高い武器は、慣性制御フィールドに有用らしい。

 その一瞬を見逃さず、シルヴィアはビルの隙間を縫って巨大兵器の背後に回り込むとミサイルランチャーを構えた。


「チェック」


 敵がその巨大な頭をタルボシュⅡ・ターボに向けるよりも早く、シルヴィアは操縦桿のトリガーを引く。ランチャーからミサイルが発射され、次の瞬間に巨大兵器の移動力を支える推進ユニットが煙を上げた。


「何が起きた」


 想定外の事態に、デリスは状況確認を部下に命じる。


「敵の攻撃により一時的に慣性制御フィールドが無力化! 同時に後部CIWSと推進ユニットが損傷した模様です!」


 部下の報告と同時に、慣性制御フィールドが復旧する。しかし、推進ユニットは完全に沈黙し、機体の移動力は失われていた。このままでは、議事堂の制圧は難しくなる。


「……仕方がない。ルサウカはここに固定する。ドローン展開し、防御を固めろ」

「りょ、了解しました」


 デリスの指示に従い、部下たちはルサウカの後頭部からドローンを展開させる。動作モードは機体防衛。機体の移動はできないため、操縦担当にはドローンのコントロールを割り振って機体の死角を守らせる。


防衛(ディフェンス)モード起動!」

「了解。防衛(ディフェンス)モード起動します」


 デリスの号令とともに、ルサウカの巨体が形を変える。

 機体の胴体フレームが稼働し、機体前方部分がまるで立ち上がるようにして損傷した推進ユニットの上部に陣取った。さらに、胴体フレームに隠れていた強襲機動骨格(アサルト・フレーム)の上半身が顕になり、クドラクと同系のセンサーユニットが稼働状態(アクティブ)になると、両脇に配置されているコンテナに格納されていた武装を手に携えた。

 前面投影面積の拡大と機動力低下を引き換えにルサウカの持てる火力を発揮する、攻勢防御を主観に置いた防衛(ディフェンス)モード。本来は拠点防衛を想定した形態だが、ビルの林立する市街地で推進ユニットを損傷したとなれば、むしろこちらの方が都合がよい。全高が上がるぶん、被弾率は大きくなるものの、ビル越しの敵を捕捉でき、友軍の支援も楽になる。


「さあ、プランの練り直しだ」


 デリスはそう言って、赤みがかった口髭に手を当てた。


「あの巨体が立ち上がるなんて、聞いてないんだけど?」


 推進ユニットの破壊に成功した矢先、大仰な二人羽織を思わせる姿へと変貌した巨大兵器を警戒し、シルヴィアは二度目のアタックを諦め再びビルの影に隠れて攻撃のチャンスを狙う。しかし、敵巨大兵器は頭部に格納されていた砲塔を露出すると、タルボシュⅡ・ターボと自らの間を遮るビルに向け、弾丸を放った。

 ローレンツ力によって弾体を加速せるレールガンがビルを貫き、シルヴィアの眼前を掠める。


「一発あたりの消費電力が大きいぶん、連射は効かないけど貫通力は折り紙付き、というわけね」


 大口径かつ高初速。一発でも当たれば強襲機動骨格(アサルト・フレーム)であろうと即致命傷になりかねない。まるで旧世紀の大艦巨砲主義の産物だ。

 遮蔽物の無い開けた場所でこんな代物を向けられていたら、逃げ場もなく確実に落とされていただろう。だが、砲撃の間隙を縫うにしても敵の防御は厚く、近づくだけでも一苦労だ。

 シルヴィアが攻めあぐねているのを察し、レイフォードは再び曲射による支援を敢行する。

 曲射によって放たれた徹甲弾が、再度慣性制御フィールドに阻まれ、空中で動きを止める。だが、スヴァローグ・ドライヴのリソースを慣性制御に回しているのか、巨大兵器の防御はさらに強固なものになっていた。

 敵の移動能力を削いだ結果、攻略をより難しくしてしまったというのは皮肉なものだ。かと言って、火山に鉄砲で立ち向かうのは無謀という他ない。シルヴィアは頭を悩ませながらも、自嘲気味に頬を歪ませる。

 シルヴィアは追ってくるドローンを散弾で撃ち落としつつ、シオンたちとの合流を図るべく、通信回線を開いた。


 敵巨大兵器の異変は、シオンの側でも探知できていた。

 大きく前後に伸びたその頭がビルの向こうから覗いており、さらに武装ドローンがその周囲を飛行しているのが確認できる。よほどの馬鹿でない限り、そこで何かが起きたと勘付くはずだ。

 シオンは眼前の敵にカウンターブレイドを振り下ろしつつ、その異変をセンサーに観測させる。


『シオン、レン。敵が変形した』

「こっちでも確認してます。でも、足は止めたんですよね」


 刃を敵機だったものから引き抜き、シルヴィアと会話を続ける。また別の敵の動きをマシンガンで封じ、勢いを付けて再度ブレイドを薙いだ。両断された敵の残骸が、アスファルト舗装された道路に埋もれる。


『ええ。でもそのお陰で防御に注力されて、こっちも攻めあぐねてるわ。レイフォードとそっちに合流して、体制を整えるから、合流ポイントの指示、お願い』


 シルヴィアに「了解」と短く答え、シオンはめぼしいポイントをピックアップし、そこを合流ポイントに指定する。

 こちらも弾薬が心許なくなってきた頃合いだ。どちらにしろ、補給のために一度ワイバーンに戻らなければならない。

 敵の方も、巨大兵器の足を止められたせいか積極的な攻勢には出られないらしく、巨大兵器を中心に再集結し、そこで防御を固めていた。どうやら敵は、巨大兵器の火力支援を頼りに進軍を続けていたらしい。その機体の足が止められたとなれば、敵陣のど真ん中で守りを固めなければならないのも、仕方のないことだろうと感じられた。


「インターバル、か」


 そう言って、シオンは辺りを見回すと、背中を預け戦っていたはずのスカル・ショルダーは、いつの間にかその姿を消していた。

 挨拶もないことに不満を懐きながら、シオンもまたシルヴィアとの合流を急いだ。

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